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「どうする?忙しかったら、20時頃までご飯食べられないけど、今食べとく?」

 仕事をしていると一日は早い。14時頃まで食堂でお手伝いをして、寮に帰ってお昼寝をして、泉の森辺りの探検をちょっとしていたら、いつの間にか夜のお手伝いの時間になっていた。急いで食堂に向かうと、人もまばらでおばちゃんが先にご飯を食べたらと声をかけてくれた。


 ありがたいんだけどね。でも、お昼ご飯食べたの14時過ぎだから、今の18時に食べるのはちょっと無理があるかなぁ。全然、お腹減ってないし。


「20時の方でお願いします」

 遅めの夜ご飯を希望した僕におばちゃんが言った。

「あら、そう?おばちゃんだったら、絶対に今食べるけど、若い子ってやっぱりそうなのね」

「何がですか?」

「あのね、夜20時以降の飲食は全部身になって太るのよ。そんな時間に食べるって思うだけで、おばちゃん怖いわ。やっぱり、若い子はいいわねぇ」


 12歳の子どもの僕をつかまえて、若いだなんて、笑っちゃうね。それにしても、夜食べるのが怖いおばちゃんはいつ夜ご飯を食べるんだろう?


「だったら、ここお願いね。おばちゃん、一足先に食べてくるわ」

 そう言って、おばちゃんはBディナーセットを抱えて、人の少ない食堂を見渡し、カウンターに一番近い場所で食べている3人組の横へといって、隣に腰をかけた。おばちゃんが横に座っても誰も嫌な顔をすることなく、すぐに3人とおばちゃんの楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 おばちゃん、あることないこと言ってるけど、ここの名物おばちゃんって感じだね。注文を聞くときも、料理を渡すときもいつも声をかけてるもんね。なんだか、普通科の食堂のおばちゃんが恋しくなっちゃった。「今日はどこ探検したの?」って、いつもニコニコ、声をかけてくれるんだよね。昨日の夜ご飯の時に会ったけど、元気かなぁ。


「ぼうず!今度はジャガイモの皮剥き頼む!!」

「はーい、おばちゃんが戻ってきたらすぐに行きます!」

 厨房からの声に元気よく声を返す僕。エプロン姿でカウンターに立つ自分があまりにも似合っていて、ひとり笑いが込み上げてきた。


 一日目にして、この働きっぷり。さすが、僕だね。銀国に返ったら、城下町で喫茶レテでも、開こうかな。ぷぷぷぷ。


 厨房でジャガイモやら人参やらきゅうりやらの皮を30分ほど剥いていると、食堂を利用する人の数が増えてきたので、カウンターに戻った。10人まではいかないが、ほどほどに人が並んでいた。僕はテキパキと注文を聞いて料理を渡すを繰り返した。ふと、隣のおばちゃんを見ると混んでても、ひとりひとりへの声かけを忘れない。声をかけれられると笑顔で答える人、照れながら笑顔になる人、会釈だけの人と皆様々だった。それを見て、僕の中で沸々と商人魂が燃えてきた。


 よーし、僕もおばちゃんをみならうぞ!声かけはまだハードルが高いとして、この僕のスマイルはどうだろうか?このスマイルで10怒られるところが3ですんで、いっぱい助けてもらったんだよね。『レテ(セラーレテ様)の笑顔を見たら、怒れなくなるわ』とどれだけの人に言わせたか。両手でも足りないほど。ふ、ふ、ふ、ふ、自信ありの僕のスマイルだよ。お昼は忙しすぎて、スマイル忘れてたけど、今からスマイルレテで行きます!!


 とびきりの笑顔で愛想を振りまこうとした途端、次の人を見て僕は固まった。でも、もう笑顔は発射されてしまった後だった。

「くっくっく、レテ、何その笑顔?」

 バカにしたようなライナの姿があった。フードを被っていて、表情がほとんど見えないのに、ニヤニヤ笑うライナの姿が見てとれた。

「ちょ、ライナ。そんなに笑ったら可哀想だよ。ねぇ」


 そう言うシュリモナも手で口を覆って笑いを堪えてますけどね。スマイル始めました!の最初のお客さんがこの二人って・・・。うう、恥ずかしいよ。5分後から始めればよかった。


 開き直った僕はふて腐れ気味にライナとシュリモナに言った。

「注文何?」

「うわぁ、何?その態度。俺ら、お客さんなんだけどな」

「はいはい、すみませんでした。お客様、注文何になさいます?って、シュリモナ、笑いすぎだよってか、なんで二人がここにいるの?食堂でご飯食べないって前に言ってたのに!」

 僕の言葉に笑いを堪えているシュリモナは答えられず、ライナが答えた。

「下の子達がさぁ、昼休みの後でレテが食堂にいるって大騒ぎしてたからな、まさかと思ったけど来てみたわけ」

「あ、そう。はい、後ろつまってるから、注文早く決めてよ。え?まだ決まってないって?だったら、僕が決めるからね。はい、二人ともCディナーセットで。決まったから止まらず前に進んで。はい、そこで料理ができるの待っててよ。すぐにできるから」

 そう言って、僕は二人をなかば強引に前へと追いやった。料理を待つ間、ライナとシュリモナは僕の動きをずっと見ていた。


 二人とも、ミスを探す気だな。この完璧な僕の動きにミスはありませんからね。


 二人の料理はすぐにでき、僕はそれぞれのプレートに素早く載せた。


 さっさと、空いてる席にでも座って、さっさと食べて、さっさと帰ってください。

 

 これで、やっと二人が僕の前からいなくなるとホッとしたのも束の間、立ち去り際に、ライナが僕にそっと耳打ちをした。

「レテが魔法科の食堂のカウンターにいるって、もうみんな知ってるんだぜ。下の子達が顔を真っ赤にして、レテのエプロン姿が可愛かったって力説してたから、もしかしたら明日からフードを被ったお客さんが増えるかもな」

 そう言うと、ライナはニヤリと楽しげに笑った。

 

 げげ!

 こらっ!ライナ、完全に楽しんでるでしょ!?だから、言ってなかったのに・・・。


 でも、テストが終わればみんな銀国に帰るんだから、少しの我慢、我慢。

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