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「く、黒い・・・」
体が地面から10センチ浮いてしまいそうなほど、期待感でいっぱいの僕が調理場の中から魔法科の食堂を見て思ったことはその黒さであった。食堂の様式はほぼ普通科と同じで、ただ普通科は白い壁なのに、ここ魔法科ではどこを見ても黒い壁で埋めつくされていた。だからって、食堂が暗いとかそういうことはなく、テラス側の一面の窓ガラスからは朝日がキラキラと差し込んでいた。
感想に困るんですけど・・・。普通に考えて、食堂に黒の壁ってどういうことよ?しかも、それ以外は、普通科と同じって。椅子とかね、座るところがベルベットみたいなのでできてるのを想像していたけど、普通科と同じ木の椅子だよ。これは、設計した人が手を抜いたんじゃないかしら。それにしても、採光は十分なのにこのどこを見ても黒、黒ということで、暗く感じちゃう。黒が、魔法にいい影響を与えるとかそういうのがあるのかな?
「どう?」
調理場に入ってすぐに立ち尽くした僕に、ふくよかで包容力のありそうなおばちゃんが声をかけてきた。
「黒いとしか言いようがありません」
「最初はびっくりするわよね。2週間、よろしくね。わからないことは色々聞いて」
おばちゃんの笑顔に頼りになる!と思ったのはその時だけであった。
「今の茶髪の男の子は珍しく白国出身なのよ。ここだけの話、どうやら、白国のスパイとしてこの学校に潜り込んでいるらしいわ」
「・・・」
「今の小柄な女の子は魔法を使う度に髪の毛が一本ずつ抜けていってしまうらしいわ。だから、かつらの購入を考えているけど、自分の髪の色にするか紫にするかで悩んでいるのよ」
「・・・・・・」
「今の背の高い17歳クラスの男の子は昔、間違ってナメクジを食べたらしくて、食事には必ず塩をかけないと食べれないそうよ。ほらっ、見て。今も目玉焼きに塩を振りかけたでしょ」
「・・・・・・・・・」
あまりの信憑性ゼロの噂話のオンパレードに僕は何と答えていいのかわからなかった。
食事の注文をして並んだ生徒の持つプレートの上に、できた料理を載せていくのが僕の仕事で、そのお客さんひとりひとりの個人情報を隣に立って僕と同じ仕事をするおばちゃんが、必ず耳打ちして教えてくれる。
っていうか、誰が聞いても嘘だとわかるようなものばかりなのに、おばちゃんは正しいことだと信じ込んでいるようだった。極めつけは、シルバー・レイについての噂話。
シルバー・レイの誰かが食堂で働く僕を見たら驚くだろうなと思っていたんだけど、僕とおばちゃんのコーナーに並ぶ人はひとりもいなかったんだ。食堂で食べている人も見かけなかった。シルバー・レイは風や光があるところが好きな人が多いので、もしかしたら外で食べている人が多いのかもしれないね。
そんな中で、僕達調理コーナーとは別のパンとかサンドイッチを用意しているパンコーナーにシルバー・レイがひとり現れた。僕の場所からはフードを深くかぶっていることもあり、誰だかわからなかったのだけれども、それを目にしたおばちゃんはもう、トークが止まらなかった。
「ちょっと、あれ、あっち見て。こっそりよ、目が合わないようにしてよ。あんた、知ってる?あれはシルバー・レイだわよ」
「まぁ・・・」
「そうよね。知らないってことはないわよね。でも、初めてでしょ、見たのは?」
「・・・」
「おばちゃんが色々と教えてあげるわ。シルバー・レイっていうのは、呪われた一族の総称なのよ。何千年も昔、8人の勇者が悪から世界を守ったときに、8番目の勇者だけが、悪からの呪いを受けてしまったのよ。恐ろしい呪いをね。他人と関わることのできない呪い。それが一族に今も受け継がれていて、シルバー・レイは銀国という小さな島国でこっそり暮らしているのよ。ただ、魔法が使える子はこの学校に来ることが出来るから、気をつけないとね。目を見ちゃだめよ。血走った赤黒い目をしていて、目があったら呪いのせいで死んでしまうんだから」
「それって、大丈夫みたいですよ。シルバー・レイは一族以外の者の前では魔法で呪いを無効化にしているそうなので」
僕の言葉におばちゃんは心底驚いた表情をして言った。
「そうなの?時代が変わったのね。おばちゃんが授業で教えてもらった頃は、そんなこと言ってなかったから。だったら、目を瞑らなくても大丈夫だったのね。おばちゃん、シルバー・レイがおばちゃんの前でプレートを持って並んだときは、いつも目をつぶってたから、よくお汁とか、シルバー・レイの手にかけてしまってたのよ。悪かったわ。でも、いいこと聞いたわ」
「それはよかったです」
何人のシルバー・レイが熱いお汁を手にかけられたのだろうか・・・。
この後もおばちゃんのトークが止まることはなく、2時間おばちゃんの噂話につきあった僕だった。
ああ、疲れた。次からパンコーナーの方に変われないかな。あとね、空中にフォークとかスプーンとか浮いてなくてショックでした。たしかに、魔法の使えるシルバー・レイでも、フォークやスプーンを浮かして食べている人は一度も見たことはないけどさ。ロマンだったのにね。




