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「レテ、朝だよ」
眠い目を擦りながら開けると、兄様の顔が近くにあった。
あれ、兄様?
ん?ここ兄様の部屋?
周りを見渡し、兄様の部屋のベッドの上に自分がいたことに気付いた。
「僕、寝ちゃったの?」
「よく寝ていたよ」
「そうなんだ。このベッド気持ちいいね」
ふふと優しそうに笑う兄様につられて僕も笑った。そして、気付いた。
ギャー!!今何時!!リーヤが僕の部屋に来ちゃうよっ!!
「兄様、今何時?僕部屋に急いで帰らないと!!」
毛布をはねのけ、僕はすぐさま立ち上がった。僕の素早い動きをのんびりと眺めながら、兄様が答えた。
「7時過ぎだよ」
うわぁー!!7時30分にはリーヤが来ちゃう!!
「兄様、僕急いでいるんだ。それじゃあね、ありがとうね」
兄様の返事を待つことなく、僕は廊下にとび出していった。廊下を駆け抜け、談話室の扉を開く。人気のないはずの早朝の談話室にひとりの男の子がいた。たしか、僕と一緒に今年この学院に来たばかりの8歳クラスの子だったと思う。
「あっ、あのっ、セラーレテ様!!」
緊張したような面持ちで僕に声をかけてきた。
「何?どうしたの?」
僕はその子に近付き、声をかけた。髪の毛はシルバー・レイの特徴である銀髪をしていたが、僕を見上げる瞳は金ではなく翡翠色をしていた。
まだ、自分で目をコントロール出来ないんだね。目に魔法がかけられている。
シルバー・レイと呼ばれる銀国の人間は全員銀色の髪と金色の目を持って生まれる。その金色の目には遠い昔からの呪いがかけられていて、シルバー・レイ以外の者がその目を直視してしまうと、死んでしまうのである。そのため、シルバー・レイ以外の者がいる場所では呪いを無効化にする魔法を自分で目にかける。それによって、金色から違う色に変わる。
無効化の魔法はけっこう力がいるようで、シルバー・レイしかいない寮の中ではみんなすぐに解除して金色の目に戻る。でも、小さい子とかは無効化が難しくて、自分でコントロール出来るようになるまで、日夜問わず無効化の魔法を力ある者にかけてもらうことになっている。
僕を見つめる翡翠の瞳を僕もじっと見つめ、声をかけた。
「綺麗な目の色だね」
「あっ!ありがとうございます。ルル様に魔法をかけていただいています」
「そうなんだ」
ちなみに、ルル様とは兄様のことね。に、しても、体が小刻みに震えてるよ、この子。大丈夫なのかなぁ?
「大丈夫?緊張しているの?」
「は、はい緊張しています。あ、あのこれ受け取っていただけないでしょうか」
先ほどから固く握られたままだった手を僕に見えるように目の前で開いた。中には白く淡く光る石のついた指輪があった。
「きれいだね。これ、もしかして貝?」
「は、はい」
男の子の体はまだ震えている。
「僕がもらってもいいの?」
「あ、はい」
ここではじめて男の子の震えが止まり、笑顔になった。
「つけてみるね」
そう言うと、僕は自分の指に指輪を嵌めてみた。最初は薬指にしたが、ぶかぶかで緩かった。人差し指、中指でも指輪がまわるほど緩いままだった。その様子を見て、せっかく笑みの見えた顔がどんどんと曇っていってしまった。慌てて僕は言った。
「もう少し大きくなったら、指にはまると思うよ。それまでは、紐を通して首にかけておくね。胸元でキラキラ揺れてきれいだろうな」
僕が楽しそうにそう言うとうちひしがれていた様子の男の子の顔がパァーと明るくなった。
「ありがとうございます。海岸で見つけた時に、セラーレテ様の茶色の髪の毛と黒い目にとても似合う気がしたのです」
「ふふ、嬉しいな。ありがとう。名前は何て言うの?」
「ミナリコです」
「ミナリコ、ありがとう。とっても嬉しいよ」
満面の笑みでミナリコをギュッと抱き締めると指輪を手に握りしめたまま、僕は談話室をあとにした。
顔、にやけてない、大丈夫、僕?ミナリコだって、可愛いなぁ。プレゼント貰っちゃったよ。
ルンルンと軽やかに階段を下りはじめたところですぐに、下から階段を上ってきた人間と正面衝突してしまった。
「イタッ!!」
尻餅をついた僕は鼻を擦りながら顔を上げた。そして、息が止まった。
王子さん・・・。
顔をしかめた王子さんが、顔に手をあてて僕の目の前に立っていた。
げっ!!顔、見られてないよね。
「すみませんでした」
顔を覆うフードをよりいっそう深く引き下げ、僕はその場から逃げ出すべく、謝罪の言葉を残して、王子さんの横を通り過ぎた。しかし、王子さんから2段ほど下に下りたところで腕を掴まれてしまった。
「つっ!!」
あまりの強い力に顔が歪んだ。
「待て!シルバー・レイだな」
鋭い声に心臓が飛び跳ねた。王子さんは僕の腕を離すことなく、もう一方の手を僕のフードへと伸ばしてきた。
やばい!!髪と目を見られたら、シルバー・レイじゃないことがばれちゃう!!
渾身の力を振り絞って、王子さんに掴まれた腕を振り上げた。急に動いたことで、階段に立っていた王子さんが少しバランスを崩したようで、拘束していた手の力が緩んだ。その瞬間を逃すことなく、僕は王子さんの手を振りほどいた。そのまま、振り返ることなく階段を駆け下り、行き止まりの壁から滑り込むように普通科の地下一階に戻った。息が切れ、その場に崩れるように座り込んだ。
「はぁはぁはぁ・・・・・・。びっくりした。もうちょっと、下の方で出会ってたら、シルバー・レイって思われなかったのに。魔法科の生徒のふりをして、顔を見られても大丈夫だったのにね・・・・・・」
それにしても、どうしてまた腕輪がきつく絞まっているの?それと、昼間に見た無力の王子さんは幻だったんじゃないかと思うほどに、強い強い魔法の力が王子さんの体のまわりに存在していたよね。
「どういうこと?あぁ、疲れた・・・」
壁にもたれたまま僕は手を開き、あらわれた貝の指輪を眺めながら、締め付けてくる腕輪をそっと撫でた。




