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春に『かぞく』’

 幸せとは、平和に似ています。

 平和が訪れる為に、銃は必要ありません。

 ですが、平和である為には銃が必要です。

 今更ですけども、恋物語等でお互いの恋が実った後の描写が無い理由が分かりました。

 その後は、長く続かないからです。

 続いたとしても、それは苦痛以外の何物でもない。

 現に。

 未だに動かない秋穂と、亡骸。

 それに私は今。とても、お腹が空いているからです。

 どうやら、亡骸は私を探す為に、家に居る人間を全て殺してしまった様なのです。

 食料の備蓄はありましたが、半年もあれば無くなります。

 正確には、まだ食料はありますが残りは腐ってしまいました。

 そして、新たに食料はどうやって手に入れれば良いのか分かりません。

 こういう場合どうすれば良いのでしょうか。

 ……そうです。

 今、とっても名案が思い浮かびました!

 この家に無いのであれば、外に出れば良いのです。

 何故気付かなかったのでしょうか。

 今まで夜歩きを習慣にしていたのに、この部屋で生活した時間が長過ぎたせいか、外に出るという事すら忘れていました。

 私が部屋から出ると。

 夜でした。

 嗅ぎ慣れた腐敗臭。

 窓に映る遠くの街の光を頼りにして、亡骸と一緒に廊下を進みます。

 車椅子の障害となる物は、全て亡骸が排除してくれました。

 快適な道を進み。

 中庭に出ます。

 そこから見えるのは、満天の星空と小さな月。

 小さい頃は大きく見えた月も、今はとっても小さく見えます。

 亡骸の目にはどう映るのでしょうか。秋穂の目にはどう映るのでしょうか。

 あぁ。

 こんなに星が綺麗なのですから、星座も教えなくてはいけませんね。

 細やかな教養を鍛えてこそ、美しい心が育つというものです。

 その心を育てる為にも。

 先ずは、生かさなくちゃ。

 他の化物や人間なんてどうでも良いのです。

 亡骸を、秋穂を。

 生かす為に、食べる物を手に入れなくてはいけません。

 という事で。

 最初に出会った人間を殺してみました。

 最初は対話を試みたのですが、亡骸を見た途端逃げ出すのですから、消音装置を付けた銃を用いて全身に穴を開けてみました。

 ……ここだけの話、本当は人を殺してはいけないのですよ。

 知っていましたか?

 私はその罰として部屋に閉じ込められたし、長い間亡骸とも秋穂とも会えないという、耐えがたい苦痛を味わいました。

 けれども、私は亡骸を生かすという使命があるのです。

 だから、私は後でどんな罰でも受けます。

 しかし食べる物が必要なのです。

 という事で人を殺している内に、不思議な施設を見付けました。

 ガラス張りの壁で、その中に沢山の棚が有るようでした。その中に入ってみると、軽快な音楽が流れ、目の前には沢山の食品が無造作に置いてあるのです。

 あぁ。 これはきっと私の日頃の行いが良いものですから、誰かが私達の為にこれだけの食べ物を持って行って良いよと、わざわざこの時の為に用意してくれたのでしょう。

 缶詰を車椅子に乗せれるだけ乗せて出ようとすると。

 再び軽快な音楽が鳴り、人が現れました。

 何処となく嫌な感じがして、嫌な目付きの、女。

「あれ、店員さん何処行ったんだろ……」

 意味不明な言葉を発した後。

 私達を見ると。

「なるほど化物連れか、そりゃ店員も逃げるわ」

 と。

 驚きも、慄きもせず、それどころか私達に近付き。

「ちょっとゴメンね、後ろのホットコーヒーが欲しいの」

 私と亡骸の間に割って入り、背中の所に有った棚から缶を一本取ります。そして、テーブルらしき所に小さくて平く、丸い物を数枚置き、そのまま出ようと

 あ。

「待ちなさい」

「ん……」

 人は振り返ると、缶に指先を当てていました。

 カリカリと金属を擦る音の後、プシュッという音がしてから、缶を口にあてがいました。

 きっと、あの缶の特有な食事方法なのでしょう。

 ……つまり、この人はここでの食事に慣れている、という事です。

「貴方、ここは私達の為の場所ですよ。 何故貴方が食事をなさっているのですか?」

 先ずは対話です。

 相手は喋れる人間なのですから、きっと私の言葉が届くはず。

「貴方の持っている缶は、私達の物です、何故貴方が食さなければならないのか、その理由も教えてくださりませんか」

「ごめんね、全く意味が分からないよ」

 もうめんどうくさい。

 ぶちころそう。 そうしよう。

 あ。

 じゅうはたまぎれだった。 

 いえ、そうだ。

「私には亡骸ちゃんが居るじゃないの、亡骸ちゃん。あの人間を、私の家に居た人みたいにしちゃって」

 言うが早いか。

 亡骸は人に向かって走り出し、鞭の様に左手を。

 …………あら。

「亡骸、ちゃん?」

 あら、あら。

 一体何が起こったのでしょうか。

 亡骸の左手が。

 人に触れた瞬間、溶けました。

「……この化物、なきがらって名前?」

「へ、あ」

「ごめんね、君じゃ私を殺せないんだよ」

 人の手が、亡骸の顔に触れ、いえ顔を覆っていた物が煙を、嫌な臭いが、亡骸が抵抗して人の体に触れて、左足も、駄目。

 嫌、お願い、駄目なの。

「止めて! 止めてお願い!」

「何を?」

「貴方のその非道な行為を! 何で亡骸ちゃんがそんなに苦しまなくちゃいけないの!?」

「じゃ、このコーヒー貰って良い?」

「何でもあげる! この棚にあるもの、私の物、何でも!」

「……」

 人の手が、ゆっくりと亡骸から離れました。

 亡骸を覆っていた殻は無残にも溶け、煙が引いた場所から人肌の様な物が見えます。

「二つ程忠告しとくね。 一つは、ここはコンビニって場所でね、物を勝手に取っちゃいけないの、ここの物が欲しいなら、お金と交換しなくちゃいけないんだよ」

 人は亡骸から離れ。こちらに背を向け。

「もう一つは、なきがらって子……もうすぐ、本物の化物になるよ」

 三度目の。

 軽快な音楽が、鳴りました。


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