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冬の『したい』

 用語解説1


『化物』

 連邦の白い悪魔も、某作品のタイトルにもなってるアレでもない。

 この話に出てくる化物はこう……化物なのだ!


 あとがきに続く。


 人間とは何物なのか。

 これまでに幾多の哲学者、生物学者、分野を問わず様々な人がこの命題に挑みました。

 かく言う私。

 多賀糸たがし 夏葉なつはも挑み、そして一つの結論を導き出しました。

 正確に言うのであれば、見付けてしまった。というのが正しいのでしょうけどね。

 さてこのお話は。

 私と、とある化物の出会いから、始まります。


 ※


 私が中学校一年生の頃。

 姉さんが大きな手術を終え、一時療養の為に帰って来た、冬。

 突然ですが、私は夜歩きが好きでした。

 いや、好きじゃなくて、学校に行けなくなってから夜歩きをするようになって、それから好きになったのか。

 えーと。

 まぁ、どっちが先でも良いのですよね。

 私の住んでいる場所が割と治安が良くって、年頃の女の子が夜中にうろついても大丈夫なのです。

 人気の無い街中を、いつもの道を進んでいると。

 ふと。

 道路の真ん中に、全身の関節がありえない方向に曲がっていて、体中からドロドロとした何かを流して横たわっている生物がいました。

「こんばんは、生きてますか?」

 そう質問すると、その生物は瞳孔を私の方へ向けます。

 まぁ、生きてるのは、分かってたんですけどね。

「道路の真ん中に居たんじゃ自動車が汚れちゃいますから、端に移動しますね、抵抗すると痛さが増すから、抵抗しないでくださいよ」

 私は一応の忠告をしてから、元腕だったような物を持ち、引きずります。

 ごひゅーごひゅーという耳障りな音と、ギヂギヂという筋肉の筋がどうにかなってそうな音は出ましたが、電信柱の側に移動する事に成功しました。

 疲れましたが、良い事をした気分です。

 良い気分のまま帰ろうとしたのですが。

「……あくま、め」

 変な言葉が聞こえました。

 私は人間です、それを、悪魔と。

 その面白い事を言うのは誰でしょう、ふふ。勿論、この生物です。

 私は怒りに任せて蹴り飛ばします。生物の四肢のどれか一つが、液体と共に吹き飛んでゴロゴロと転がります。

 あらあら、何だか服に変な液体が付いてしまいました。

 まぁ、仕方ないですね。

 さて、と。

 再び道路の真ん中に移動した生物の髪の毛を掴み、目を合わせます。

「先程、私の事を悪魔呼ばわりしたのは貴方ですよね」

 生物が口角を上げたのを確認し、全力で地面に叩きつけました。

 直後、顔の皮がベロベロになったら表情が読めなくなってしまうと思いましたが、再び顔を持ち上げてそれが杞憂である事が分かりました。

 この生物は、笑っていたのです。

 姉さんの場合、そろそろ無表情の仮面が剥げて泣き始める頃なのですが。

 ふむ、不思議な事もあるものです。

 その後、何度か苦痛を与える試みをしてみたものの、変化はありません。気を失っているのかと思いきや、時々私に対して悪口を言います。

 この頃になると、私の怒りは疑問に変わり始めました。

 何故、コイツはこうもへらへらと笑えるのだろう。

 そういえば、姉も入院する前はこんな感じで笑っていた気がします。

 何故こんなにも無価値な存在が、笑顔を浮かべれるのか。

 何故私は、満たされないのか。

 笑えるのは、満たされるからです。

 満たされているから笑えるのです。

 ……ふと。

 名案が浮かびました。

 そうか、この生物を飼えば、私が満たされる理由が分かるかもしれない。

 姉さんは人間になってしまったから、もうそんな事は出来ないけど、コイツなら大丈夫。

 そうそう、飼うなら名前を付けなくちゃね。そうだなぁ、まるで死んでるみたいだから死体。

 ……は、安直。

 もうちょっと難しそうな単語が良いよね。

 うーん、そうだ。亡骸にしとこ。これなら他の名前と被らないから安心だよね。

 だから。

「これからアンタの事を飼うから、よろしくね、亡骸ちゃん」

 私は最後にもう一度だけ顔面を殴り飛ばし、首を掴んで家に持って帰りました。

 冬の、ちょっと寒い時期の事でした。

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