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モンスターファーミング  作者: 犬草
雑草畑と緑のスライム
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07 モンスターファーマーに必要なこと

 ボクが試験の内容を告げるとチャリオット様は固まってしまった。

 それも無理はない。魔物を好きになったのをきっかけにファーマーの道を歩もうとしているのに、その対象を殺せと言われているのだ。

 

「もう一度、聞かせてもらえないでしょうか。先程、何と言ったのですか」


 自分の耳を疑ってしまうほどに衝撃的だったのか、いやきっと聞きたくない言葉だったから頭が拒否しているんだな。ボクもそうだった。


「一度しか言いませんからよく聞いてください。その剣で、足元にいるスライムを、殺してください。今度こそ聞こえましたね。それではどうぞ」

 

 手の平を上にして合図を出すが、やはりチャリオット様が動き出す様子はない。手に持った剣と足元のグリーンスライムの間で視線だけを忙しなく動かしていた。青い瞳が不安定に揺れている。

 彼が試験に合格することは絶対にない。

 明るい未来を考えていたからこそ、好きになったからこそできないのだ。

 やがて顔を上げるとボクを睨みつけてきた。瞳には強い感情が込められていた。


「試験の内容は悪意を持って作ったわけじゃありません。例えば天気に恵まれなかったために不作になってしまったとき、最初に減らすのは飼料、つまり畜魔のエサからです。畜魔の中から残すものと処分するものを選ばなくてはなりません。そのときに、自分の私情が混じって殺すことができなかったらどうでしょう。最終的には飼料が足りず、全て死んでしまうかもしれません」


 そうでしょう、と視線で伝えるとチャリオット様は辛そうな表情をして顔を逸らした。

 彼は理解したのだ。この職種の矛盾点に。

 モンスターファーマーにとって大切なことは、魔物に愛情を注ぐことができるかどうか。


「モンスターファーマーにとって必要なことは、畜魔を処分できる非情さを持っているかどうかですよ。少し勉強になりましたね」


 下を向いたまま、言葉にも反応はない。

 結果は出ているのに、いつまでもこの光景を目にしているのは辛いものがある。試験を終わらせようとしたとき、声を上げたのはボクでもチャリオット様でもない別の人物だった。


「待ってくれ。頼み込んだのは私たちの方だが、だからこそ私たちの都合であなたの貴重な財産を失わせてしまうのは(しの)びない。試験の内容を変えてもらえないだろうか」

 

 小隊長様だ。

 ボクの事情を慮ってくれるのはうれしいのですが、絶対にできないと思いますよ。


「あなたは将来ある若者だ。これからという時に、せっかく増えた畜魔を失ってしまうかもしれないのは、ポロン殿にとっても不利益にしかならないはずだ」


 小隊長様の目が語っている。『オレがこれだけ言ってるんだからよ、こんな陰険な試験は止めて別なのにしろや』と。『あなたがボクに頼んだことでしょう。ここにきて裏切らないでくださいよ』と返したところ、『お前こそ周りをよく見るんだな。どうなってもしらないぜ』と返答してきた。

 なぜボクと小隊長は視線だけで会話ができてしまうのだろう。

 とにかく会話が成立した。

 周りを見渡すと、成り行きを見守っていた騎士だけでなく開拓団の皆まで否定的な視線を送ってきた。 状況が悪化しているだと! このままでは村八分(ハブ)されてしまう。


「確かに、そうですね。お言葉に甘えて内容を変更させて戴きます」


 チャリオット様が目を輝かせてこっちを見てきた。その後ろでボクに向かって片目を閉じてほくそ笑む小隊長の姿が映った。

 あのオッサン、責任をボクに押し付けたのにチャリオットには恩を売りやがった。

 チャリオット様。どうか後ろを見えください。あなたの後ろに狐がいます。人の姿をした狐がいます。あの人の二つ名(セカンド)腹黒キツネ(ブラツクフオツクス)で決定だな。後でみんなに広めておこう。


 それにしても内容の変更となると、何がいいだろうか。

 日を跨ぐよりも、チャリオット様の精神的ダメージが残る今の内に畳み掛けるべきだ。今すぐ用意できることでないと…………そうだ。


「ところで目の前のグリーンスライムだけど、みなさんはどう思いますか」


 周囲の人たちにも注意を促す。


「このスライムは肥満になってしまったものです。どこが太ったんだ普通に見えるぞって思いますよね。中心に薄らと見えると核を見てください。核はもう一匹と同じ大きさにも関わらず、体だけが大きくなっています。これは危険なことなんです」


 自分に視線が集まったのを感じてかぷるんとスライムが震えた。

 怖いだろうけど、もう少しだけ我慢してくれ。

 

「核が大きくならないまま体だけが大きくなると、スライムの動きが鈍くなります。自分の重さで動くことができなくなってしまいます。だから無闇にエサを与えるのはとても危険な行為なんです」


 軽くチャリオット様の失点を付いて精神攻撃をする。

 畜魔のことに関して妥協は許しませんよ。

 

「この子を助けるためにも、体を切り取って軽くしてやって下さい」


 今度は単に殺すのではなく、助けるために傷つける必要があると言う。治療のためならば周囲も反対できない。内容を軽くしていることもあって、チャリオット様も反論できないだろう。

 これで少しでも、ボクが悪者だという印象が拭えているといいんだけどなあ。

 さあ、どうしますかチャリオット様?


 読んで下さってありがとうございます。

 話がのびのびになってしまったので、今日の15時には続きをUPしようと思います。

 

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