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モンスターファーミング  作者: 犬草
雑草畑と緑のスライム
3/21

02 誰かの夢の跡

「す、スライムか」


 騎士様の笑顔が固い。

 もしかしてモフモフはいけるがぷよぷよはダメという方なのだろうか。だとしたら残念だ。あの素晴らしい触り心地を知らないなんて人生の半分は損をしているな。素養はありそうだからゆっくりと布教に務めるとするか。


「ここに来ることになったので、世話になっていた場所から懐いている子を一匹だけ分けて貰うことができました。生まれも育ちも牧場ですから危険はありませんよ」

「ならばいいのだが」


 口では言うものの騎士様はやはり疑わしい様子。

 開拓が落ち着くまでいるだろうし、説得はおいおいにするとしよう。


「ところで牧場の跡地らしきものを場所に心当たりはありませんか。昨日から探しているのですが見つからなくて」

「思い当たる場所がある。行って確かめるとしよう」


 


 騎士様を先頭にやってきた場所では雑草が伸び伸びと育っていた。中にはボクらの背を超えて、先を太陽へと伸ばす背高草の類も見受けられる。

 そんな緑に隠されるようにして、朽ちて黒く変色した木製の柵の残骸を発見した。遠くに見える大きな柱は、おそらく畜舎の支柱だったものではないだろうか。そう考えれば、隣にある小さな建物が牧場主の家屋だったに違いない。

 多くが使い物にならない中、その建物だけが望郷の形を留めていた。


「ここで間違いありません。さあ出ておいで」


 背負っていた樽を横に倒す。

 待っていると、樽の中から薄い緑色をした肌が見えた。


「本当に大丈夫なのか」

「安心してください。グリーンスライムは草食ですし、この子は生粋の畜魔です。だからそんなに気を張らないでください。あの子が怖がってます」

「しかしな」

「あの子が怖がってしまうから止めてくださいね。できないならもう少し離れてください」


 樽から体を半分出したまま半透明の肉質をぷるぷると震わせていた。

 知らない場所というよりも、騎士様の気配に怯えているのではないだろうか。

 

「私は護衛のために来ているのだ。そういうわけにはいかぬ」

「クロ、辺りに何かいないか調べてくれない」


 クロがボクたちの前に進み出る。鼻を高くして匂いを確かめるとボクの方へと戻ってきた。つまりクロが闘う必要性はないということだ。


「近くに野生の魔物はいないようですし、大丈夫ですよ。何度も言うようですが、あの子は無害です」

「専門家の言葉を信じるとするか」


 騎士様に離れてもらったものの、いっこうに樽から出てくる気配がない。

 エサで釣るとしますか。

 幸いにもエサとなるものはうんざりするほどある。

 取り出したものは鎌だ。牧場跡地に自生してる雑草たちをバッサバッサとなぎ払い、樽から少し離れた場所に置く。


 後は待つ。

 ひたすら待つ。

 ここで無理やり引きずり出しても、後になって閉じこもってしまうだけだ。

 だから、だいじょうぶだよ~と念を送るだけに留める。

 きっとボクの念が伝わったのだろう、グリーンスライムが全貌を顕にした。

 大きさはボクの膝くらいまでしかない小さなスライムだ。

 

 恐る恐る樽から抜け出ると近くに置かれている草を体内に取り込んだ。

 取り込まれた草は内部で泡に覆われいつしか形が見えなくなる。大量の泡がスライムの表面をぷるんと揺らしたときには、もう中には何も残っていない。少しずつ、少しずつ置かれた草を食べていく。そうして置かれた草がなくなると、スライムは跡地へと身を乗り出した。


 よくがんばったね。

 えらいえらい。少しだけその魅力的な肌を撫でさせておくれ。

 ああ、ああ。

 なんて君の体は柔らかいんだ。

 どこまで僕を魅了すれば気が済むんだい。

 わかってるさ。好きになった方が負けだ。

 君の言う通りボクはキミに尽くすよ。

 ふふふふふ、おませさんメ!


「グァッ!」


 おっと気がつけば、スライムを抱きしめていたらしい。

 まったくこんなことで正気を失ってしまうなんてモンスタファーマーとしては二流だ。

 でもそれは仕方のないことなんだよ。

 あの魅力的な体を前に我慢することなんて誰にもできないのさ。


「ふふふ、恥ずかしがり屋さんめ」

「……頭は大丈夫か?」

 

 そういえば騎士様がいたんだよね…………


 ――――――――――――――

 ポロンのモンスターファーム


 状態:雑草畑、壊れた家屋

 ペット:影狼のクロ

 畜魔:グリーンスライム ×1

 ――――――――――――――

 読んで下さってありがとうございます。

 

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