14 牧畜に必要な事々
あれからバブルカウを連れ帰り、皆で捕り物の話で盛り上がりつつ朝食を取った後、ボクと村長はバブルカウを具体的にどうするのか話し合っていた。牧場の家でテーブルを挟んでイスに座り対面する。
「今回捕まえたバブルカウは開拓のために依頼されたものですよね」
「そうじゃよ」
「捕まえた以上、ボクは繁殖させて数を増やしたいと思っています。そのためには村の協力が必要です」
農家の味方と言われているが畜魔としての数はまだまだ少ない。働いてもらうにしても、乳を貰うにしても、お肉にするにしても数は多ければ多いほどいい。
「将来的には、だな」
「ええ。子供を産んでもらうには番も必要になります」
「人手なら出せるぞ」
「ただ手伝うだけではいけません。問題は四つあります」
テーブルの上に手を置く。
「一つはもちろん人手です。ボクらの活動は牧場が中心です。今は一頭でも、数が増えれば世話をする手間が増えるだけではなく、バブルカウに指示する人材が必要です。そのためには日頃から世話をする必要があります」
一つ指を起てる。
「二つ目に飼料、つまりエサの問題。元気に働いて貰うためにも、美味しい乳を出して貰うためにもたくさん食べて貰う方がいい。周りに代用できる草があっても放し飼いにするわけにはいきません。牧草を育てて欲しい」
二つ目を伸ばし二本。
「次に道具の問題。代用できると言っても世話をするために必要な道具がありません。と言っても、飼い葉を運ぶためのフォーク、掃除のためのスコップは村でも作ることができるし、カウベルとミルクを入れる容器と後はタワシくらいですね」
三本目を起てる。
「最後に土地と施設。牧場自体が村から離れたところにあるので拡張し放題。施設については期待してもいいですか?」
「耕作と並行して勧める予定だ」
四つ目を起て、すぐに折り三本が残る。
「道具は完成するまで農具を代用するとして、金属ものは注文しなければいけませんよ」
「数が少ないうちは問題ないだろう。乳は出るのか」
「出ません。雌でしたがお腹に子供はいないようです」
「なら後回しだな。その時になってからだ。牧草の方も開拓が始まったばかりで土地が余っている状態だ。そいつの努力次第だな」
「まだ土地を耕している途中ですからね。そうなると問題は一つ」
話のうちに残りはひとつになった。
テーブルを挟んだ向こうで村長が太い腕を組む。以前は建築家だったらしく逞しい騎士にも負けない逞しい体をしている。
どうやったらあんなに筋肉質になれるのかな。ボクは毎日スライムの世話をしていたのに全然筋肉がつかなかったし。何か秘訣でもあるのか。
会話から離れそうになった思考を元に戻して再確認をする。
「やっぱり世話をして指示を出す人材が問題ですね」
「今は一匹だろ。お前たちが世話をすることで済む話だ」
「もちろん世話はしますけど、将来を考えるなら早くから慣れて貰った方がいいですよ。規模によっては、その人にバブルカウのことを全て任せることになる可能性もあります。いい人いませんか」
魔物に理解があって、体力があって、世話をすることに慣れていて、ボクの言うことを素直に聞いてくれる。そんな人がいたらいいな。
「ダルトン夫妻」
「却下です」
バレル・ダルトンとポーラ・ダルトンの夫婦。
バレルさんは子爵家の三男坊。ポーラさんは元侍女で働き者だが、バレルさんは樽のような体型で体力がなく威張りんぼだ。そこまでならまだ許せる。
「嫌がらせですか。ボクが何か悪いことでもしましたか」
「あの二人がいると皆のやる気がどこかに飛んでっちまうんだよ。作業が遅れると困る」
身分の差を超えた熱愛カップルは、二人でいるといちゃいちゃと甘ったるい雰囲気を垂れ流す。見ている側は異性を意識することになる。独り者は逆に作業に没頭しようとするが、新婚さんたちは触発されていちゃつき始めるのだ。
絶対にチエロが物欲しそうな目で見てくるぞ。
「他にもいるでしょう」
「これは村長命令だからな」
横暴だ。などといっても決定を変えそうにない。頑固なオッサンだ。
厄介事を引き受けるのなら相応の対価を貰わないとね。
「ボクらは牛舎とは別に一つの施設を作っています。その手伝いをして貰います」
村長はすぐに頷き、ボクが施設の構図を伝えて会談は終った。
村長を見送ってバブルカウの様子を見に行くと、チエロがバブルカウの上にスライムを乗せて遊んでいた。スライムはバブルカウの背中にぴったりと張り付いて鞍のように見えた。
おもしろそうだから後でボクもやってみよう。
疲れた体にはやっぱりぷるぷるがないとね。
バブルカウちゃんもようこそ、ボクのファームへ。
読んでくれてありがとうございます。