民宿にて
会社と私生活で嫌なことが重なった僕は、気分転換に旅行しようと思い、インターネットで情報を集めた
ある地方の風光明媚な場所にある民宿が目にとまった
他の民宿に比べて値段が格段に安かったのだ
朝食と夕食つきで一泊五千円と書いてあった現地に到着し、その民宿を訪ねてみると、予想通り寂れて陰気臭いところだった
値段が安いので文句は言えない
中に入ると、これまた陰気で痩せた老婆が出てきて部屋まで案内してくれるという
老婆の後について行くと、廊下の奥で何かがキラッと光った
それは包丁が光を反射したものだった
廊下の奥がどうやら調理場になっていて、老人が一生懸命に包丁を研いでいたのだ
その包丁はやけに大きく丈夫そうだった案内されたのは、一階の部屋だった
窓を開けると庭があり、痩せっぽっちの鶏が一羽、落ち着きなく動き回っていた
そしてやはり痩せっぽっちのコブタが一匹、鼻で地面を嗅ぎながら、雑草を食べていた
僕はカバンからパンを取り出して、ちぎって投げた
鶏とコブタは気が狂ったようにそれを貪り食った夜7時になると、夕飯の用意ができたことを、老婆が告げに来た
食堂に行ってみると鶏肉のソテーが並べてあった
僕はそれをペソペソと食べた、あまり美味しくなかった
次の朝、窓を開けると、鶏はおらずコブタだけが庭を歩き回っていた
コブタは僕の顔を見ると、一目散に窓下に駆け寄ってきた
僕はカバンからパンを取り出してコブタに与えた
朝10時頃に散歩に出掛け、昼飯は外のレストランでとった
その後、また周辺を適当に探索し、民宿に戻ったのは午後6過ぎだった
しばらくすると、老婆が夕飯の支度ができたことを告げに来た
食堂に行くと、豚のステーキが並べてあり、僕はペソペソとそれを平らげた
あまり、美味しくなかった
翌朝、パンをあげようと窓を開けてみると、あの痩せっぽっちのコブタはいなかった
鶏もブタも消えた庭は、ひどく寂しげに思えた
朝10時頃になると、僕はまた外を適当にぶらつき歩き
民宿に戻ったのはやはり午後6時頃だった
しばらくして、老人が夕飯の支度ができたことを知らせにきた
老人の顔をハッキリと見るのはこの時が初めてだった
老婆と同じように痩せた陰気臭い男だった
男の話では老婆は奥さんで、遠くへ出掛けたとのことだった
食堂へ行ってみると、テーブルには唐揚げが並べてあった
男が言うには中国産の珍しい豚肉だという
一口食べてみたが、今まで食べたことのない、妙な味がしたので飲み込まずに、そっと吐き出した
残りの唐揚げをビニール袋に入れ、食べたように見せかけて部屋へ戻った
翌朝、民宿を去る時に老人が玄関で見送ってくれた
老婆の姿はなかった
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