僕の婚約者は『観光客を食い物にする』を魔物の餌にするという意味だと思ってたけど最強で可愛い
「観光客を食い物にする、のですか?」
このたび僕は『魔の山』の番人と言われるサルベス男爵家の一人娘ラーパと婚約いたしました。
ラーパの目を見開いた表情はとても可愛らしいと思います。
僕の女神です。
ああ、ラーパに永遠の愛と忠誠を!
僕ですか?
僕はただの平民ですよ。
クロードと申します。
最近王都近辺で勢いのあるムーニー商会の三男です。
「そうです。食い物というのは少々言い方が下品だと思いますが」
「ええと、観光客を魔物のエサにする、というわけではないのですよね?」
「えっ?」
魔物のエサにするという考え方がストレートに出てくることに僕ビックリ。
でもそんなところもラーパの魅力です。
サルベス男爵家の領地は王都に比較的近いのですが、『魔の山』と呼ばれる魔物の生息地を抱えているのですよ。
ですからどうも考え方が常識を外れているというか戦闘民族寄りというか、一般認識と乖離があるのですよね。
そこで商人の子である僕が婿に迎えられるということになりました。
「観光客を危険に晒してはお金を落としてもらえないでしょう?」
「つまり観光客にお金を落としてもらうことを指して、『食い物にする』と言うのですね?」
「まあそうです」
「安心しました」
ニコッとするラーパは和みますねえ。
話の最中ですが抱きしめたいです。
そんなラーパが『魔の山』の番人の中でも最高の魔法戦士だなんて、腕前を知らなければちょっと信じられないですがね。
僕もサルベス男爵家領を一ヶ月ほど視察させてもらい、思うところも多くありました。
今日のお茶会は、ラーパに僕とムーニー商会の考えを披露しておこうという機会です。
ラーパの賛成を得られれば、御当主様にはいずれムーニー商会からきちっとした報告書と計画書を送らせてもらう予定でおります。
「クロードはサルベス男爵家領に、『魔の山』に人を呼べると考えているのですね?」
「そう考えています」
「心強いです」
ラーパのホッとした顔です。
今日はラーパの様々な表情を見られて満足感が高いですね。
サルベス男爵家にはこれまで、王家から補助金が出ていたのです。
魔物を駆逐するという重要な役どころを任されていましたから。
しかし昨今の財政悪化で、王家からの補助金が大幅に削減されることが通告されたそうで。
サルベス男爵家は、すわ一大事ということになりました。
「サルベス男爵家領は土地も痩せているでしょう? 農業に期待できませんから、補助金が削られると領民が飢えてしまうのではないかと……」
「土地が痩せていることは事実ですが、僕の見たところ、農業に期待できないということはないと思います」
「えっ?」
「これは一昨日採取した植物ですが」
「……見たことのある草ですね」
「サルベス男爵家領ではさほど珍しくないようですね。しかしこれは魔素の湧く『魔の山』のようなところでないと育たない、特殊な薬草なのですよ」
「そうなのですか?」
これまでは魔物を恐れて、サルベス男爵家領の動植物相についてはあまり調査が進んでいなかったのです。
ただし生育に魔素を必要とする植物が多い可能性については指摘されておりました。
だから僕も視察に当たって植物に詳しい者を同行させていまして。
この薬草が群生していることを発見できたのは成果の一つです。
……もう少し愛するラーパを安心させてあげたいですね。
「かなりの解熱鎮痛効果を期待できる成分が含まれています。価格次第ですが、大きな需要を期待できます。発熱性の流感なんて定期的にありますから」
「栽培面積を確保できればということですね? しかし魔素濃度の高い地域は魔物も湧いてしまうので難しいのです」
「はい、存じておりますが、大丈夫です。宮廷魔道士長のお話を伺ったところ、最近は魔物除けの考え方も進んできているようなのですよ」
「……魔物除け、ですか。魔物除けで魔物達を遠ざけておき、耕作面積を確保するということですか?」
「可能ならばそうしたいですね。ただ魔物除けの効果が確実とは言えないので、実証実験をしたいとのことでした。いずれ宮廷魔道士達を『魔の山』に案内したいと思います」
「可能性があるのですね?」
「もちろんです。魔物素材も欲しいのですよ」
魔物素材という考え方は、これまで魔物を駆除するだけだったサルベス男爵家にはないと思います。
首をかしげるラーパも可愛いですよ。
僕は君の虜です。
「魔物素材というと、魔石みたいなものですか?」
魔石は魔物ならば必ず持つ器官で、石のように見えることからその名があります。
多くの魔力を含み、また美しいことから、魔道具分野や宝飾品として用いられることが今後期待されているのですよ。
「代表的なのは魔石ですね。その他スライムの皮やアルミラージの角、リザードンの鱗などは、安定的に手に入るのであれば需要を作れます」
「そうなのですね? 全然知らないことでした」
「むしろ供給面で不安がありますね」
「魔物狩りは命がけなのですよ。戦士を増やすことは難しくて……」
「そこも宮廷魔道士の協力を得られそうなのです。例えば攻撃を撃つ魔道具、回復や毒消しの可能な携帯型魔道具があったら便利でしょう?」
「安全度が増しますので、戦士のなり手も増えると思います!」
愛しのラーパは知らないでしょうが、この手の軍事に関わる魔道具は予算が下りやすいのだとか。
その割に使う機会がないと宮廷魔道士長殿が苦笑していたけれども、サルベス男爵家領で活用できれば陛下もお喜びだと思います。
「様々なアイデアがあるのですね。クロードはすごいです!」
「アプローチの仕方はいくらでもあります。また可能性も大いにあります。ただ最初が難しくてですね」
ラーパに褒められると魂が震えますね。
注目を向けさせれば『魔の山』のポテンシャルに気付き、出資してくれる者も現れるでしょう。
ただあまり金をかけずに手頃に始められ、成果を見せられるのは何かと考えると、案外難しくて。
カップを持ち上げて揺らします。
「今まで処分対象になっていた魔物素材とこいつで仕掛けたいですね」
「ええと、魔物茶ですか?」
「正解です」
ハハッ、ラーパが嬉しそう。
魔物茶というのは、僕もサルベス男爵家領に来るまで全く知らないものでした。
ゴーントータスという比較的おとなしいカメの魔物がいまして、その甲羅に生えるコケを乾燥させて煎じて飲むものです。
「ちょっと他所にない味だと思いましたが、クロードもいいと思います?」
「ほのかな甘みと微かな苦みがマッチしています。絶品だと思いますね」
「ゴーントータスは『魔の山』の守り神です。狩る対象ではありませんが、お肉をエサとして持っていけば、コケは取らせてもらえますから」
「そういう採取法も面白いですね。ユーモラスでウケると思います。『魔の山』に興味を持つ者を増やしたいと考えているものですから、殺伐としていないエピソードが欲しいのですよ」
「わあ、クロードはすごく考えてくれているのですね!」
「もちろんです。僕はラーパに命を救われましたから」
僕がラーパに入れ込むのには理由があります。
王都に魔物サーカスが来たことがありました。
ところが興奮した魔物オークが暴れ、檻が壊れたのです。
僕に視線を向けた、フーウ、フーウという生臭い息遣いの魔物を思い出すと、今でも冷や汗が出ますよ。
襲われそうになったところを間一髪、たまたまラーパに助けられまして。
麻痺の魔法一発でコロンとオークが倒れたのです。
その落ち着いた所作は歴戦の勇士のようで、女の子なのに格好いいと思ってしまいました。
商人失格かもしれませんが、ラーパに魅せられてしまったのです。
それが僕とラーパの出会いでした。
ラーパは貴族学院でしたが僕は商科学校に通っていましたので、それまで接点がなく。
サルベス男爵家の特殊性で婿を得られそうにないと、ラーパが寂しそうに言ったのを聞き、胸が締めつけられるような気持ちになりました。
僕にできることはあるか。
サルベス男爵家を徹底的に調査させました。
そしてラーパの婚約者に立候補しました。
僕のヒロインラーパが認められないなんて許せない。
またサルベス男爵家には投資する価値があると見た、僕の目が曇っていると思われるのも許せない。
僕は成功しなければならないのです。
勝算は我にあり。
ラーパの目を見つめ、しっかりと手を握ります。
「僕はこの命に懸けても、ラーパとサルベス男爵家の力になります。絶対にです」
「ありがとうございます。クロードは素敵ですね」
お互い持ってないものに惹かれるということはあるのかもしれませんね。
サルベス男爵家内部からも、何とかしてどこかの貴族家から婿を得るべきではないかという意見が小さくなかったことを知っています。
ところがラーパは僕の意気込みを買ってくれたのですよ。
僕の女神ラーパが!
期待に対し必ず実績で応え、サルベス男爵家の経営を軌道に乗せてみせます。
「わたしの婿になってくれるような常識外の人は、今までおりませんでしたから」
「あれっ? ラーパに常識外と言われてしまうのですか。それは心外」
アハハウフフと笑い合います。
僕は君がいるなら頑張れるのです!
最後までお読みいただきありがとうございました。




