代償の重さ
それから数ヶ月が経った。 四人での旅は続いていた。 ガースが冒険者ギルドで依頼を受けながら、街から街へ移動する。魔物の討伐、護衛、調査。そういう仕事を繰り返した。 僕のレベルは、その頃には4になっていた。 使うたびに下がっていた。なるべく使わないようにしていた。でも、仲間が危ない時、守れなくなりそうな時、気づいたら叫んでいた。《リミットブレイク》を使うと、強い。本当に強い。体が軽くなって、世界がゆっくりに見えて、どんな相手でも動きが読める。並の騎士なら相手にならない。 でも、終わるたびにレベルが減っている。 エリナは毎回、戦いの後に僕のステータスを確認した。何も言わないこともあったが、目が少し悲しい色をしていた。 ガースはある夜、焚き火の前で言った。「お前、顔色が悪くなってきてるの気づいてるか」「そうですか」「鏡見ろよ」 鏡はなかったけど、川の水面で見てみた。ガースが言う通り、少し血の気が薄い気がした。村にいた頃より、少し顔が透けて見えるような気がした。 気のせいかもしれない。気のせいじゃないかもしれない。「エリナが心配してる」とガースが言った。「知ってます」「マリィも」「……知ってます」「お前は知っていてもやめないだろ」「なんで止める前提なんですか」 ガースが少し笑った。笑い方が不器用な人だ。「そうだな。お前はそういうやつだ」 焚き火の音がした。「俺にも昔、守りたいやつがいた」とガースが急に言った。 僕は何も言わなかった。「一緒に戦っていた仲間だ。守れなかった。力が足りなかったんじゃない。俺が間違えた。それだけだ」「……それから一人で旅してるんですか」「誰かと一緒にいると、また間違えると思ってた」「でも今は」「うるさい」とガースが言った。「俺の話じゃない。お前の話だ」 僕は少し考えた。「僕は間違えたくない、というより」と言いながら、火を見た。「守れなかった後悔の方が嫌で」「目の前のことだけ見てる」「そうかもしれません」「先を見ろとは言わない」とガースが言った。「ただ、お前がいなくなったら、マリィとエリナはどうする」 その言葉が、少し違う角度から刺さった。 守るために使っている。でも使うたびに削れていく。もし本当にゼロになったら、誰が守るんだろう。 その答えを、まだ持っていなかった。 ◇ 転機が来たのは、とある廃村の調査の依頼を受けた時だった。 廃村に何かが棲みついているらしい、というギルドの依頼だった。調査して、危険があれば排除する、という内容だ。 廃村は森の奥にあった。 人が住んでいた痕跡があるのに、誰もいない。荒れた畑、崩れた小屋、井戸。 マリィが「村みたいだね」と言った。 そうだと思った。農奴の村に似ていた。 廃村の中心に、古い井戸があった。 その近くに、人影があった。 人影は、老人だった。白い髪の、小さな老人が、崩れた小屋の陰にいた。 老人は僕たちを見て、逃げなかった。ただじっとこちらを見ていた。「怖くないんですか」とエリナが言った。「お前たちは害のある顔をしていない」と老人は言った。「とくに、その少年は」 老人が僕を見た。「お前、《代償スキル》持ちだな」 僕は少し驚いた。「わかるんですか」「雰囲気でな。わしもかつて持っておった」 老人は廃村に一人で住んでいた。かつてはこの村の住人だったが、村が廃れてからも離れられなかったらしい。 老人は《代償スキル》について、少しだけ話してくれた。「代償スキルというのはな、力だけ与えるわけじゃない。未来を切り売りする契約なんだ」「未来を、切り売りする」「レベルというのは成長の可能性だと言われておる。正確には、それだけじゃない。寿命に近いものとも繋がっておる」 エリナが息を呑んだ。 僕は老人の顔を見た。「寿命と、繋がってる?」「使うたびに、少しずつ寿命が削れていく……という説が、昔の治癒師たちの間にあった。証明はできておらんが、《代償スキル》持ちが短命に終わることが多いのは確かじゃ」 火が消えるような沈黙があった。 マリィが僕の手を握った。強く、握った。「本当に確かなんですか」と僕は聞いた。「確かではない。でも否定もできない」 老人が細い目で僕を見た。「それを聞いて、お前はどうする」「……どうする、か」 しばらく考えた。「今まで通り、かな」と言った。 マリィが手を強く握ったまま、「ルカ」と言った。震えた声で言った。「だって、使わなかったら守れないし」「そういう答えが出ると思っておった」と老人が言った。「それがお前の性質だろうから、止めはしない。ただ、一つだけ」「なんですか」「力を使いすぎた者の行き着く先を、お前は知っておるか」 知らなかった。「魔王ヴェインという名を、聞いたことはあるか」 その名前を、初めて聞いた。




