初めての本当の戦い
ガースが依頼を受けた。街道の護衛だ。荷馬車が一台、隣の街まで荷物を運ぶのに付き添う仕事らしい。「お前たちも来るか」とガースが言った。「足手まといなら要らないが」「戦えます」と言った。「レベルいくつだ」「8です」 ガースが少し黙った。「低いな」「使えばもっと強くなります」「それがあの禁断スキルか」 話してはいなかったけど、何かで聞いたんだろう。ガースは察しがいい。「使うたびにレベルが下がるんだろう。聞いた」と彼は言った。「無茶な使い方をするなよ」「わかってます」「わかってないから言ってる」 それ以上何も言わなかった。 護衛の仕事は二日目の昼に、山道で野盗に囲まれて終わった。 七人いた。全員武装していた。荷馬車の御者が震えていた。エリナがマリィを荷馬車の陰に隠した。 ガースが剣を抜いた。僕も前に出た。「下がってろ」とガースが言った。「二人相手に七人は多い」と僕は言った。「お前はレベル8だ」「使えば上がります」「使うなと言った」「今使わないと、守れません」 ガースが舌打ちをした。でも止めなかった。 野盗が一斉に動いた。 ガースが前の三人に向かって走り込んだ。速い。農奴の村で見てきた騎士より、ずっと速い。体が大きいのに動きが無駄なく、二人目の男を弾き飛ばしながら三人目の足元を払った。 残りの四人が僕に向かってくる。 僕は息を吸った。「《リミットブレイク》」 小さく、自分だけに聞こえるくらいの声で言った。 世界が変わった。 さっきより控えめに使おうとした。全力じゃなく、少しだけ。どれくらい絞れるのかはわからなかったけど、なるべく少なく。 でも力は十分に出た。 四人が同時にかかってきた。右から来た男の剣筋を見切って、体を半歩引いてやり過ごす。その腕を取って後ろの男にぶつける。左から来た男の懐に入って、肘で鎩を打つ。残りの一人が止まって逃げ出した。 気づいたら終わっていた。 ガースの方も終わっていた。三人が地面に転がっていた。 ガースが僕を見た。何かを確認するような目だった。「怪我は」「ないです」「スキルは」「使いました」「レベルは」 ステータスを確認した。「6です」 ガースが少し眉を寄せた。「また減ったか」「二つです。今回は控えました」「控えて二つか」 何も言わなかった。でもその目が、少し別のものを見ているようだった。 エリナが荷馬車の陰から出てきた。マリィを連れていた。「ルカ、怪我は——」「ないです」「……本当に?」と言いながら、エリナが僕の腕と手を確認した。傷がないか見ていた。「ないですよ」「確認しないと信用できない。あなた、自分が怪我しても言わないから」 図星だったので何も言えなかった。 マリィが「ルカはそういう人だよ」と言った。 エリナが溜息をついた。「そういう人が一番困ります」 仕事は無事に終わった。 夜の宿で、エリナが僕の横に座って言った。「あの、聞いていいですか」「どうぞ」「《リミットブレイク》を使うたびに、レベルが下がっていますよね」「はい」「最初はいくつでしたか」「十三でした」 エリナが何かを考えた。「今が6ということは……七つ減りましたね」「そうなりますね」「それが……怖くないですか」 少し考えた。「怖い、というか」と言いながら、夜の窓の外を見た。「なんで減るのかがよくわかってないので、怖いというより、気になります」「気になる?」「ゼロになったら何が起きるのか、とか。そもそもなんで下がるのか、とか」 エリナが静かな顔をした。「私、治癒師の見習いとして少しだけ学んだことがあって……スキルと人間の魂の関係について、少し知っています」「何かわかりますか?」「はっきりとは。でも」とエリナは少し言いにくそうにしてから続けた。「レベルというのは、単なる数字じゃないとも言われていて……成長の可能性、みたいなものだという説もあるんです」 僕はその言葉を少し転がした。 成長の可能性。「つまり、使うたびに……これから成長できるはずだった何かを、削ってるかもしれないということですか」 エリナが答えなかった。 答えないことが、答えだった。 僕は少しの間、黙っていた。「そうか」と言った。「怖くないんですか?」「怖い、かな。でも……使わなかったら、今日守れなかったので」 エリナが「それが困るんです」と言った。「あなたはいつでもそう言う。今日守れなかったから、が理由になってしまう」「間違ってますか?」「間違ってはいないです。でも」 エリナが少し俯いた。「あなたが少しずつ削れていくのを、見ているのが……」 続きを言わなかった。 僕も何も言えなかった。




