街と、身分と、エリナという少女
二日後、街に着いた。 ラグナという名前の街だった。フェルド王国の地方都市で、農奴の村からは遠い。ここまで来れば、領主の騎士もすぐには追ってこないだろうとガースが言った。 街の入口に衛兵が立っていた。通行証を確認するらしい。 農奴に通行証はない。 どうしようかと思っていたら、ガースが衛兵に何かを見せた。衛兵がじろりと僕たちを見た。「冒険者の連れか」「俺の荷持ちだ」とガースが言った。「文句あるか」 衛兵が少し間を置いてから、「通れ」と言った。 街の中に入ると、音と匂いが一気に増えた。 露店の声、馬の蹄の音、食べ物の匂い、何かを焼く煙。村とは全然違う。マリィが僕の手を強く握った。人が多くて怖いんだろう。 僕も少し怖かったけど「全然」という顔をしていた。 ガースが宿を取った。小さくて安い宿だったけど、屋根があって、床がある。それだけで十分だった。 マリィが部屋のベッドを見て、「ふかふかだ」と言った。村のベッドは藁を詰めた袋だったから、比べたら何でもふかふかに感じるだろう。 翌日、ガースが冒険者ギルドに顔を出すと言って出かけた。僕とマリィは街を少し歩いた。 市場の端で、騒ぎを見た。 人だかりができていて、その中心に少女が立っていた。年は僕より少し上に見える。きれいな服を着ているが、少し汚れている。金色の髪が乱れていた。 少女の前に男が二人立っていた。商人らしい。「治せないなら金を返せ」と一人が怒鳴っていた。「治癒師と言うから頼んだのに、全然治らないじゃないか」「申し訳ありません、私のスキルでは完全な治癒は……」「役立たずが! 金を返せ!」 男が少女の腕を掴んだ。 少女が「痛い」と言った。 僕はもう動いていた。「やめてください」 気づいたら男の前に立っていた。この台詞は、何度言うんだろうと自分でも思った。 男が振り向く。「なんだお前は、関係ないだろ」「関係ないですけど、腕を掴むのはやめてほしい」「子どものくせに——」「痛そうにしてるので」 男が僕を睨んだ。周りの人たちが少し引いた。 男は少女の腕を放した。それから「覚えておけ」と言って、連れと一緒に去っていった。 少女が僕を見た。灰色がかった青い目だった。少し泣きそうな目をしていたが、泣いていなかった。「ありがとう」と彼女は言った。「大丈夫ですか?」「大丈夫です。ただ……」 少女が少し俯いた。「治せなかったのは本当のことなので」 僕にはその言葉の重さがよくわかった。本当のことだから余計に、言われた言葉が刺さるんだ。「どんなスキルなんですか?」と聞いた。 少女が少し驚いた顔をした。「聞くんですか」「気になったので」「《仮初めの光》という名前です。痛みを和らげることはできるんですが、傷そのものを治すことは……完全にはできなくて」「でも痛みが和らぐなら、それはすごいじゃないですか」 少女がまた驚いた顔をした。今度はもう少し長く、僕の顔を見た。「……初めて、そう言ってもらえました」「そうなんですか」「みんな、完全に治せないなら意味がない、と言うので」 それはひどい話だと思った。痛みが和らぐだけでも十分なのに。「僕はエリナさんのスキルがあれば、だいぶ助かると思いますよ」と言った。「名前、まだ言っていないですけど」「あ、そうか」 少し間が空いてから、二人で少し笑った。「エリナです」と少女が言った。「元、下級貴族の……今は見習い治癒師です」「ルカです。元農奴です」 エリナが少し目を丸くした。「農奴の方が……」「はい。まあ、逃げてきたんですけど」 そう言ったら、エリナがまた少し驚いた顔をした。それから、何か考えるような顔をして、少し迷った末に言った。「私も……行くところがなくて」 僕は少し考えた。「ガースという人と一緒に旅してます。正確には、ついていってるだけですが」「……私もついていっていいですか」 断る理由はなかった。というより、エリナの目がジジィが泣いた時に少し似ていたから、放っておけなかった。「ガースに聞いてみます」と言った。 ◇ ガースは「勝手にしろ」と言った。 つまり、いいということだった。 こうして四人になった。




