代償の果て
王都での騒ぎは、しばらく続いた。 ダルグの計画が明るみに出て、強制付与された農奴たちが解放された。王国の政治がどうなるかは、貴族たちの問題で、僕には関係なかった。 ただ、解放された農奴たちが少し自由になったことだけは、よかったと思った。 全員が自由になったわけじゃない。身分制度が一夜で変わるわけもない。でも、少し、ひびが入った気がした。 レベルがゼロになってから、しばらくは何も変わらなかった。 普通に動けた。普通に食べて、眠れた。 でも、一ヶ月くらいたった頃、エリナが言った。「ルカ、少し顔色がよくなってきていますよ」「そうですか」「血の気が戻ってきている。前は少し……透けているみたいに見えることがあって」「そんなに酷かったですか」「言えなかったです」とエリナは言った。「言ったら、それを無視してまた使うから」 図星だった。「《代償スキル》は、使わなければ削れない」とエリナは続けた。「あなたはもう、使わない。ゼロなのだから使えない。なら、削れていたものが少しずつ戻るかもしれない」「戻るんですか」「わかりません。でも……今は、戻っているように見えます」 その言葉が、少し胸に沁みた。 失ったものが戻るかはわからない。寿命が縮んでいたなら、それは変わらないかもしれない。でも今は顔色がいいと言われた。 それだけでよかった。 ◇ もう一度、ヴェインに会いに行った。 一人で行こうとしたら、三人が当然のようについてきた。 北の山脈に戻った。廃城に入った。 ヴェインはいた。前と同じ椅子に座っていた。 僕の顔を見て、少し目を細めた。「終わったのか」「はい」「お前はまだ、人間の顔をしているな」「ギリギリですけど」 ヴェインが少し笑った。今度は確かに笑った。「レベルは」「ゼロです」「ゼロか」「使えなくなりました」「それは……よかったのかもしれないな」 僕はヴェインを見た。「あなたは、これからどうするんですか」 ヴェインが少し考えた。「俺はもう、長くない」と静かに言った。「使いすぎた。削れすぎた。ここにいる間に、終わると思う」「一人ですか」「ずっとそうだった」 僕は少し間を置いてから言った。「最後に守りたかった人の名前を、教えてもらえますか」 ヴェインが静かに目を閉じた。「レナ、という名だった」「覚えていたんですね」「ここだけは、削れなかった」 その言葉が、少し温かかった。「それなら、まだ人間だと思います」と言った。 ヴェインが目を開けた。何かを、長い間見るような目をした。「そうかもしれないな」と言った。 別れの時、ヴェインは立ち上がらなかった。ただ、「行け」と言った。 出口に向かいながら、振り返った。 ヴェインは椅子に座ったまま、窓の外の雪を見ていた。 その後ろ姿が、何故かジジィに少し似ていた。




