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ヴェインとの対話

 山の奥に、廃城があった。 かつては要塞だったのかもしれない。石造りの建物が、雪と時間に侵食されながら立っていた。 中に入ると、暗かった。 松明の灯りを持ちながら歩いた。魔物の気配はあったが、近づいてこなかった。まるで通してくれているみたいだった。 広間に入った時、人影があった。 椅子に座っていた。 ローブを纏った男だった。顔が影になっていて、最初はよく見えなかった。でも立ち上がった時、その顔が見えた。 老けていた。実際の年齢よりずっと老けて見えた。目の下に影がある。頬が削げている。でも目だけが、異様に鮮明な色をしていた。「来ると思っていた」と男は言った。声が静かだった。「ヴェインですか」と僕は聞いた。「そうだ」 男が僕を見た。品定めするような目ではなかった。何かを懐かしむような目に、少し見えた。「お前が《リミットブレイク》持ちの少年か。噂は聞こえてくる」「噂になってるんですか」「農奴の子どもが国中を旅しながら、代償スキルで戦い続けていると。そうだろう」「はい」 ヴェインが僕をじっと見た。「レベルはいくつだ」「2です」 男が少し目を細めた。笑ったのかどうか、わからなかった。「若いのによく減らしたな」「守るために使いました」「そうだろうな」 ヴェインが立ち上がって、窓の方へ歩いた。雪の積もった景色が見えた。「俺も最初はそうだった」「知っています」と僕は言った。「農奴の生まれで、守りたい人がいた」「そこまで調べたか」「少し聞きました」 ヴェインが振り返った。「それで、俺を倒しに来たのか」「わかりません」と言った。「会いに来た、という方が正確かもしれない」「会いに来た?」「あなたが何を失ったのか、見たかった。それが僕の行き着く先かもしれないから」 長い沈黙があった。 ヴェインが椅子に戻って座った。「お前はまだ、人間だな」「そうですね」「俺はもう、半分そうじゃないかもしれない」 静かな声だった。怒っているわけでも、嘆いているわけでもなかった。ただ事実を言っているような声だった。「最初に守りたかった人は」と僕は聞いた。 ヴェインが少し間を置いた。「死んだ。守れなかった。だから力を求めた」「それから」「使い続けた。守るものが増えるたびに、失うものも増えた。気づいたら、守りたかった人間そのものと、もう言葉を交わせなくなっていた」「言葉を交わせなくなった?」「感情が、薄れていった。怒りも、悲しみも、喜びも。痛みも感じなくなった。人を見ても何も思わなくなった。気づいた時には、俺はここにいた」 雪が窓の外で、静かに降り続けていた。「後悔はありますか」と聞いた。 ヴェインが少し笑った気がした。かすかに、唇の端が動いた。「後悔できるうちが、人間だ」 その言葉が、胸に落ちた。「お前に言いたいのは一つだけだ」とヴェインは言った。「俺のようになるな」「どうすればいいですか」「使う前に、守りたいものを見ろ。使った後も、守りたいものを見ろ。その目が曇ったら、もうお前は俺と同じ道に入っている」 僕は、後ろのマリィを見た。エリナを見た。ガースを見た。 三人の顔が見えた。 まだ、ちゃんと見えた。「大丈夫です」と言った。「まだ、見えます」 ヴェインが頷いた。「それならいい」 しばらく沈黙があってから、ヴェインが言った。「この国で、何かが動きはじめている。王国の中枢が、農奴を使った力の実験をしていると聞く。それを止めないと、俺みたいな存在がもっと生まれる」「王国が?」「身分制度を使って農奴に《代償スキル》を強制的に与え、力として搾取しようとしている者がいる。お前のようなスキルが生まれたのも、偶然じゃないかもしれない」 それは初めて聞く話だった。エリナが小さく息を呑んだ。「俺にはもう、止める力がない。力だけはある。でも人間としての力が残っていない」とヴェインは言った。「お前はまだある。だから、お前が止めろ」 それが、依頼なのか、願いなのか、命令なのか、よくわからなかった。 でも、断れなかった。「わかりました」と言った。

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