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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔

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第9話 観の門


戦闘が終わり、

迷宮はようやく静寂を取り戻した。


サチが僕の隣に立ち、

まだ「幸運の指輪」を握りしめている。


彼女は最初から最後まで、

ほとんど手を出していなかった。


僕の視界の隅に、

彼女のステータス画面が静かに浮いている。


福原 幸 Lv 1

EXP 0 / 100

HP 100 / 100

MP 20 / 20


反応:5

筋力:5

霊感:5

運:5


本当に経験値を一点も獲得していない。

チャット欄ではすでにツッコミが始まっていた。


『これぞ真・おんぶにだっこ』

『不労所得彼女』

『ダメージゼロ、貢献ゼロ(笑)』


サチは少し申し訳なさそうな顔をしている。

僕がフォローしようとしたその時……。


「サチちゃんには関係ないことでしょ。

 これ以上文句を言う人は、

 私がブロックして追放します」

若菜さんが先に怒ってくれた。


……よし、

僕がヒーローになる必要はなかったな。

まあ、これが初めてじゃないし。


視線を地面に戻すと、

そこはドロップ品で溢れかえっていた。


迷宮第一層の床が、

戦利品で埋め尽くされている。


半透明のはねが重なり合い、

蜜色の結晶が隅に散らばっている。


そして、今まで見たことのない黒黄色の塊もいくつかあった。


「知恵の書」が自動的に展開され、

分類を始める。


【N級:ピクシーの花葉服 2060着】

【R級:ピクシーの透明翼 687組】

【S級:ピクシーの秘醸蜜 515本】

【U級:ピクシーの蠕巣蝋ぜんそうろう 137個】

【E級:ピクシーの秘醸酒 34本】

チャット欄が即座に沸騰した。


『U級!?』

『今、U級って出たか!?』

『E級って一体何なんだ!?』


僕は屈み込み、

その黒黄色の物質を拾い上げた。


【ピクシーの蠕巣蝋】

一定数を集めることで、

ピクシーの建築物や工芸品を

建造、製作できる。


建築? 工芸品?


視界の端に新しいページが追加された。


【ピクシー工芸】

【ピクシー建築】


どうやら、

これこそが迷宮第一層の真の報酬らしい。


チャット欄はすでに妄想を膨らませている。


『兵舎を建てるのか?』

『本拠地アップグレードかよ』

『経営シミュレーション始まったな』


僕はすぐには新ページを開かなかった。

もう一つのアイテムが、

より僕を引きつけたからだ。


【ピクシーの秘醸酒】

あらゆる病を一度だけ完治させる。


チャット欄はもはやお祭り騒ぎだ。

『????』

『あらゆる病気???』

『ガンもいけるのか?』

『配信者、お前が今持ってるのは人類の医療革命だぞ!』


僕は小さな透明な瓶に入った酒を見つめた。

もしこれが本物なら、価値は計り知れない。


サチが覗き込んでくる。


「これ……病気が治るってこと?」

「みたいだね」

「売るの?」


チャット欄には怒涛のコメントと投げ銭の音が鳴り響く。


『50万出す!』

『親父が持病持ちなんだ!』

『まだ売るな、まずは効果の検証が先だ!』


僕は答えなかった。

これらのドロップ品が一般人に効果があるかはまだ分からない。


ただ一つ明確なのは、

僕が売ろうと思えば、

買い手はいくらでもいるということだ。

超巨大なブルーオーシャンだ。


次に、別のドロップ品——「ピクシーの透明翼」に視線を向けた。


「知恵の書」の補足説明:

「観の門」の進化完了後に用途が解放される。

透明翼一枚につき、一度の瞬間移動が可能。

一回のドロップにつき四枚。


かんの門」とは何だ?


後ろの方で、事情を知らないリスナーたちが勝手な議論を始めた。


『瞬間移動!?』

『生存率爆上げアイテムじゃん!』

『これは絶対にバカ売れする!』

『距離は? 場所は? 制限はあるのか?』


誰も肝心なポイントを掴んでいないな。


手元の在庫を確認する……六百組以上。

一匹につき四枚。

三千回を超える撃破を経て、

これらの翅はすでに山をなしている。


使い切るのがいつになるのかさえ分からない。


「これも売るの?」とサチが聞く。

「お金を出す人がいれば売るよ」


どうせ、

持っているだけでは一生使い切れない量だ。


『配信者、目を覚ませ!』

『二千七百枚ポッチじゃ全然足りねえよ!』

『こないだ捕まったベネズエラの元大統領のことを考えろ』

『一枚一千万でも買う奴はいる。信じろ!』


チャット欄はもはやオークション会場と化していた。


花葉服や秘醸蜜にも注文が殺到しているが、一番人気は透明翼と秘醸酒だった。


その時、迷宮の核心から澄んだ音が響いた。

族母が僕の前に歩み寄る。


今の彼女の気配は、

先ほどまでとは全く違っていた。


高貴で、優雅で、そして優しい。

彼女は静かに頭を下げた。


「木の迷宮——そんの塔、

 第一層『観の門』。

 今は、あるじであるあなたの指揮下にあります」


システムメッセージが浮かび上がる。


【巽の塔「観の門」支配権獲得】

【階層管理者:ピクシー族母】


なるほど、「観の門」とはこの第一層のことだったのか。


僕はここの主になり、

族母が管理者となった。


すべてのピクシーのステータスが一斉に書き換わる。


【敵対単位】→【生産単位】

チャット欄が固まった。


『えっ?』

『経営モード突入?』

『もう魔物を倒さないのか?』


族母が顔を上げる。

「私たちはもう、あなたを攻撃しません」

「私たちは巽の塔を解放するという大業のため、労働に従事いたします」


彼女は手にした短い杖を振り、

同時に僕へ一本の鍵を手渡した。


「主の準備が整い次第、

 私たちがご案内いたします。

 第二層——『えきの回廊』へと」


ピクシーの奴工たちが一斉に前へ進み出た。


床に散らばったドロップ品を拾い上げ、

花葉服を畳み、蜜晶を整列させ、

透明翼を丁寧に積み重ねていく。


ピクシーたちは分業を始めた。

運搬、整理、そして壊れた巣の修復。


僕は安堵のため息をついた。

もう、

ピクシーたちを虐殺する必要はないのだ。


ドロップ品が有用なだけに少し惜しいと思っていたが、

彼らが自ら「生産」してくれるのなら話は別だ。


命を奪う代償を払わずとも、

これらの宝物が手に入る。


最高じゃないか。


僕は族母に手を振った。

「観の門は、しばらく君に任せるよ」

族母は深く頭を下げた。


「御意のままに」

ピクシーたちは働き続けている。


僕の迷宮は、もう戦場ではない。


僕は今、

飛ぶように売れる製品を生産する「工房」を手に入れたのだ。


壁際に立ち、冷たい石壁に背を預ける。

サチが隣に寄り添ってきた。


「あなた、今は……迷宮のオーナー?」

「たぶんね」


チャット欄ではまだオークションが続いており、狂ったような叫びが飛び交っている。


透明翼、秘醸蜜、秘醸酒。

僕はオークションのページを閉じた。


彼らの提示する金額はまだ低い。

本当の大口顧客は、

まだ様子をうかがっているはずだ。


これが精巧なペテンではないか、

確認している最中だろう。


いいさ、

今はビジネスの話なんてしたくない。


観の門の通路を見つめる。


今の展開からすれば、

これはまだ始まりに過ぎない。


第二層、第三層……。

終着点はどこにあるのだろうか。


族母が静かに傍らに立っていた。

「主には休息が必要です」


その呼び方は少し奇妙に聞こえたが、

訂正はしなかった。


彼女の言う通りだ。

今日はここまでにしよう。


もう、限界だ。

意識がゆっくりと沈んでいく。


意識が途切れる最後の瞬間。

「知恵の書」に一行のプロンプトが浮かんだ。


【観の門 自動運営開始】


僕は透明翼を取り出した。

「みんな、見ててくれ。

今からこれを『開封《開封の儀》』する。

こいつが本当に凄いのかどうか試してみるよ」


僕は目を閉じ、サチの手を引いた。


迷宮の中で眠ってしまいそうだった。

目を開けると、

僕たちは自宅の風呂場に立っていた。


寝る前の最後の一瞬、

好奇心が僕を誘惑する。


……チラッと見るだけだ!


僕は【ピクシー建築】のページを開いた。


最初の選択肢:

【ピクシー蜜坊】

消費:蠕巣蝋 × 30


二番目:

翅膜しまく工房】

消費:蠕巣蝋 × 50


三番目:

【法術研究所】

消費:蠕巣蝋 × 80


四番目:

【蜜蝋スタジオ】

消費:蠕巣蝋 × 80


バッグの中の「蠕巣蝋」の数字がキラキラと輝いている。


少なくとも二棟は建てられる。

チャット欄が猛烈に催促してくる。


『建てろ! 建てちまえ!』

『本拠地アップグレードだ!』

『早く試してくれ!』

僕の指が選択肢の上で止まる。


これを押せば、

物語は次のステージへ進むだろう。

……でも、本当に疲れたんだ。


数時間にわたる戦闘。

張り詰めていた精神。

レベルアップ、指揮、効率の計算。


今の僕の頭には鈍い痛みしか残っていない。


サチが僕を見て、

いたわるように親指で僕の目尻を撫でた。


「……目が真っ赤だよ」

少し声が震えていた。


チャット欄でも誰かが気づいた。


『もう解放してやれよ……』

『配信者、もう休め』

『過労死するなよ』


僕は頭がふらつき、

サチの胸の中へと倒れ込んだ。

そのまま、僕の電源は切れた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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