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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱


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第8話 バランスの崩壊


族母が双翼を広げ、

短杖たんじょうを高く掲げる。


空気中に細かな風紋が浮かび上がり、

淡金の光環が一層、

また一層と外側へ拡散していく。


地面に転がっていたピクシーたちの残骸が、

微かな光を放ち始めた。


引き裂かれたはねが再び繋ぎ合わされ、

断たれた四肢が光の糸で縫合されていく。


光の粒子となって霧散しかけていた個体までもが、強引にその形を引き戻された。


蘇生そせい


たった今撃破したばかりの三体の槍ピクシーが、再び宙へ舞い上がるのを、俺は目の当たりにした。


チャット欄の連中が、

俺の代わりに悲鳴を上げる。


『蘇生だと!?』

『これ、無理ゲーじゃねえか?』

『運営のチートだろ!』


俺は口を閉ざした。

そんなことを嘆いても、

今は一銭の得にもならない。


族母は焦って突撃してくる様子はない。


まるで収穫を待つ稲穂でも見下ろすかのように、中空で静止している。


彼女が存在する限り、俺の軍勢を安定して拡張することはできない。


一波ひとなみ倒せば、

彼女が一波呼び戻す。


補充ルートを絶たれた俺の軍団は、

数の優位を少しずつ失い始めていた。


俺は半歩下がり、盾役に隙間を埋めさせる。


族母は追撃してこない。

ただ遅滞戦に持ち込もうとしているのだ。


持久戦で俺を削り殺すつもりだろう。


だが、

彼女は一つ、致命的な見落としをしている。


俺にはまだ、

完全に使い切っていない二つの能力がある。


「武裝」、そして「化身」だ。


化身は一度だけ試したことがある。

槍を持つピクシーへの変身だ。


速度と貫通能力は劇的に向上した。


なら、もしも——。

俺は中空で詠唱を続ける敵の風術師に狙いを定めた。


切風翎せっぷうれい」を放つ。


視界の中で、時間が引き延ばされていく。


Critical

Hp -81


風術師は術式を完成させる前に、

空中で解体された。


俺は躊躇わない。

「化身」


光の粒子が俺の元へ収束する。

背中の翅脈しみゃくの振動数が変わる。


動作はわずかに重くなった。

だが同時に、大気の力が己の周囲に満ち溢れていくのを感じる。


俺は手中の武装を換装した。


今、俺が握っているのは——

「風呼びの杖」。


視界がさらに高くなる。


気流はもはや単なる線ではなく、

自在に形を変えられる「層」として見えていた。


俺のレベルは、

現場にいるどの個体よりも高い。

術式の出力レベルが、根本から違うのだ。


風呼びの杖を一閃させる。

通路内に円弧状の風圧が発生した。


半径が拡大していく。

数百枚の小型風刃が、

面となって押し寄せた。


敵前線のピクシーたちが、

一斉に均衡を崩す。


Hp -12

Hp -14

Hp -11


族母の複眼が微かに収縮した。

実力差を察知したのだろう。


再び蘇生の光環が輝き、

二波の個体が立ち上がる。


俺はさらに広範囲魔法を叩き込んだ。

だが、今回の威力は明らかに低下していた。


MP不足だ。


族母が嘲笑うかのように口角を上げた。

こうなることを予見していたのだろう。


だが、笑っているのは俺も同じだ。

俺は懐から、これまで視聴者には詳しく見せていなかった戦利品を取り出した。


S級ドロップアイテム——

「ピクシーの秘醸蜜ひじょうみつ」。


チャット欄が急に静まり返る。


『それ、さっきのS級か?』

『ついに使うのか!』


封印された結晶を砕き、一気に飲み干す。

濃厚な金色の液体が喉を通り抜けていく。


【MP回復】

MP +60


数値が補填された瞬間、

脳内の渇きが洗い流されるのをはっきりと感じた。


これこそが、消耗戦の鍵だ。


族母は部下を蘇生できる。

俺はリソースを回復できる。


そして——。

ドロップ率はわずか15%。

だが今、この戦場での死傷数は百、千の単位に達しようとしている。


倒し続ければ、彼女の民から再び「秘醸蜜」がドロップするチャンスはあるのだ。


このサイクルは、

時間が経つほど俺に有利に働く。


族母がついに動いた。

単なる蘇生を諦めたのだ。


短杖を地面へ叩きつけると、

赤い紋様が四方へ広がった。


周囲の個体の攻撃速度がさらに上昇する。

俺の盾役たちが連続ダメージを食らい始めた。


Hp -23

Hp -19


俺は即座に命令を切り替える。


「盾の壁を内側に絞れ。」

「風術師は詠唱妨害に集中しろ。」

招風の杖を振るう。


気流が渦を巻いて圧縮され、

風圧が巨大なヴォルテックスを形成した。


族母の翅が一瞬だけ煽られ、軸がぶれる。


その一瞬で十分だった。

切風翎が再び手中に戻る。


投擲。


Critical

Hp -92


彼女の顔に苦悶と驚愕が混じる。

琥珀色の複眼から、傲慢さが消え失せた。


彼女は悟った。

この戦いはすぐには終わらないと。


そして、俺も悟っていた。

この会戦は、さらなる段階へと昇華する。


族母と俺。

もはや単なる兵力差の争いではない。


競っているのはリソースだ。

闘っているのはリズムだ。


どちらが先に、底を突くか。


MPが再び減少する。

俺はドロップ通知を横目で追った。


【ピクシーの秘醸蜜 ×3】


よし。循環は成立した。


族母は中空で静止し、

俺から目を離さない。


俺もまた、彼女を見据え続ける。

まだ、王と王が直接刃を交える時ではない。


だが、俺はこの戦いを一刻も早く終わらせたかった。


族母は知らないだろうが、

彼女には一つ、

潜在的なアドバンテージがある。

——俺は今、猛烈に寝不足なのだ!


十六の自由割り振りポイントを、

今こそ使う時だ。


俺は蜜でMPを戻せる。

族母も蘇生で盤面を維持できる。


どちらも「補給」は可能だ。

なら、決め手は——「循環の速度」だ。


ステータス画面を開く。


Level 8 EXP 7815 / 12800

MP 150 / 150

反応 12 → 16

筋力 12 → 14

霊感 12 → 18

運 12 → 16


ポイントを確定させる。


霊感をあと一点足すだけで、

天秤は傾き始める。


だが、俺は一点どころか、

一気に注ぎ込んだ。


これからの戦いは、

おそらく今のようになる。


軍団の中央に立ち、

範囲術式を放ち、リズムを調整する戦い。


霊感が高いほど、その効率は盤石になる。


数値が変わった瞬間、

HPとMPの上限がわずかに上昇した。


術式の「圧縮感」がより鮮明になる。

招風の杖を振るう。


風圧の半径が劇的に拡張され、前線のピクシーたちが一列丸ごと吹き飛ばされた。


Hp -18

Hp -21

Hp -17


族母の蘇生光環が再び輝いたが、

今回は一歩、反応が遅れた。


彼女が二体を補えば、

俺が四体を落とす。


次のターン。


彼女が三体を補えば、

俺が七体を落とす。


循環がズレ始めた。


チャット欄の誰かがそれに気づく。


『追いついてない!』

『差が開いてきたぞ!』


天秤は明らかに俺の方へと傾いている。

消耗の速度を競えば、俺が勝つ。


だが、これ以上時間をかければ、

精神的な疲労からどれほどのミスが生まれるか分からない。


族母の翅の羽ばたきが急き立てられるように速くなる。


短杖の光が明滅し、安定を欠き始めた。

彼女のMPもまた、限界に近づいている。


俺は最後の一滴、秘醸蜜を飲み干した。

MP +60


彼女は狼狽えたように自分のワーカーたちを見た。


活蠕巣かつぜんそうを失った彼女には、ワーカーが運んでくる即席の補給しかないのだ。


敵ピクシーの生成速度が、

目に見えて鈍っていく。


俺は数十体の槍ピクシーに一斉突撃を命じた。

紅翅の個体が制圧される。


盾役が半円形に展開し、退路を断つ。

族母は壁際へと追い詰められた。


切風翎、最後の一撃を投じる。


Critical

Hp -104


族母が均衡を崩した。


次の瞬間——。

数十本の長槍が、同時に彼女を貫いた。


彼女の身体が中空で縫い止められたように固定される。


翅が一度だけ震え、

短杖が手から滑り落ちた。


戦闘終了。

システム通知が立て続けに跳ね上がる。


【ピクシー族母 撃破】

【EXP +3200】

【特殊アイテム獲得:迷宮の影 第1層】

【ドロップ獲得:ピクシー女王の腰帯】

【ドロップ獲得:ピクシー女王の首飾り】


経験値バーが跳ね上がった。


Level 9

自由割り振りポイントが再び加算される。


チャット欄の連中は、俺以上に大騒ぎだ。


『勝った!』

『マジで勝っちゃったよ!』

『トレジャーだ!早く開けろ!』


だが、俺は戦利品に手を伸ばすことはなかった。


なぜなら、族母が消えなかったからだ。

光の粒子となって霧散することもなく。


彼女の身体は、中空に浮いたままだった。

崩壊せず、灰にもならず。


代わりに、

淡く白い光が彼女を包み込んでいく。


それは蘇生の術とは違う。

もっと純粋な、

何かを「浄化」するような輝き。


槍が貫いた傷口が癒え始める。

ローズゴールドだった翅は、アクアマリンのような透明感を帯びていった。


触角が垂れ下がり、

琥珀色だった複眼が、

ゆっくりと透明に透き通っていく。


同時に、巣穴の肉質構造が崩れ去り、

蜜色の液体が霧となって蒸発していった。


チャット欄が、ふと静かになった。


『待て……』

『ドロップ品にならないのか?』

『これ、どういう演出だ?』


族母が、緩やかに着地した。

彼女は目を開ける。


その瞳には、

もはや種族を率いる重圧も、

傲慢さもなかった。


あるのは、

心の底から解き放たれたような、

穏やかな安らぎ。


彼女は俺を見つめ、

それから軍団を見渡した。


そして、小さく唇を動かした。


「……やっと」

迷宮の深層から、

何かが崩れるような音が響く。


壁に刻まれた不気味な紋様が、

色を失い始めていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この物語を気に入っていただけましたら、

ぜひたくさんおすすめしてください。

そして、少しでも励ましの言葉をいただけたら嬉しいです。

この物語を書き続ける価値があるのだと、

実感させてください。




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