第5話 掃討チーム
俺は六匹のピクシーを二組に分けた。
「第一チーム。はぐれピクシーの狩りを続行」
「第二チーム。俺の近くで護衛に回れ」
砂袋が二、スリングが二、槍が二。
そのうち三匹が羽音を残して飛び去り、
廊下の奥へと消えていく。
残りの三匹は三角の布陣を組み、
俺の周囲に陣を敷いた。
遠くからすぐに戦闘音が届く。
石弾が命中し、
槍先がぶつかり合い、
小さな悲鳴がかすれる。
【ワイルド・ピクシーを撃破】
Exp +15
経験値の通知がひらりと流れた。
よし。
自動周回システムは正常に回っている。
さて――
ずっと触れてこなかった選択肢を試す。
化身だ。
足元には、さっき倒した最後のピクシーの死体が転がっている。
チャット欄が勢いよく流れ始めた。
『ついに変身!?』
『軍団+変身!?』
『どんどんヤバくなってない!?』
まるで自分が操作しているみたいに、
連中はやたらと興奮している。
俺は無視して、指先で選択肢をタップした。
「化身」
死体が砕け、細かな光の粒になって散る。
そしてその光が、一斉に俺へと押し寄せた。
ブン――。
肩甲骨の内側が熱い。
背骨に、何かをねじ込まれたような感覚。
体が小さくなることはない。
俺は人間の大きさのままだ。
だが――
背中から、四枚の半透明な脈翅が開いた。
視界の端に複眼の視野が扇のように重なり、世界が一気に広がる。
見たことのない色が増えた。
ピクシーの色覚は人間と違う。
俺たちが見えない光の帯域まで見えている。
額の両脇から触角が伸びる。
軽く振ると、空気の流れが「手触り」として伝わってきた。
――俺は、空気を聞いている。
透明だったはずの空気が、
流れる線になって見える。
分子の動きが像になる、
新しい視野だ。
俺はつま先で床に触れるだけで、
ふわりと浮いた。
翅の振動数は想像以上だ。
世界がスローモーションになる。
宙に舞う埃が回り、遠くを飛ぶ小隊の航跡が空気の歪みとして残る。
ステータス欄が更新された。
【化身:ピクシー】
【常駐能力覚醒】
Critical率 +5%
【飛行能力解放】
【反応補正:上昇】
俺は小さく笑う。
意識を集中し、
遠方のはぐれ個体を捕捉した。
部下には「動くな」と合図を出す。
俺は切風翎を握る。
投げる。
時間が引き伸ばされたみたいだ。
槍先が空気を裂く軌跡すら、
はっきり見える。
Critical
Hp -61
さらにクリティカルは通常の五倍以上――そんな感触がある。
この辺りのピクシーのHPは20。
三匹並べて貫いても、まだ余る計算だ。
相手は反応する暇すらなかった。
【ワイルド・ピクシーを撃破】
Exp +15
チャットが狂ったように流れる。
『クリ率アップ本物だ!』
『属性補正も乗ってる!?』
『もうチートだろ!』
『配信者が自分で動いたらもっとヤバい!』
俺は着地した。
翅はゆっくりと畳むが、化身は解除しない。
ドロップを回収しつつ、
さっき仕留めた二匹も従者として回収する。
現時点――
累計撃破:10匹
N ピクシーの花葉服 ×6
R ピクシーの透明翼 ×3
S ピクシーの秘醸蜜 ×1
チャット欄では本気で確率計算が始まっている。
『今のところ確率いじってないっぽい』
『サンプル10じゃまだ少ない』
『回せ!U出るまで回せ!』
そのとき――
遠くでまた撃破音が鳴った。
【ワイルド・ピクシーを撃破】
Exp +15
俺は上機嫌で、
軍団が迷宮を掃蕩していく音を聞いていた。
撃破音が途切れず鳴り続け、
そこに異質な通知音が混ざる。
【Level Up】
また上がった。
Level 3
Exp 210/400
HP +10
MP +5
反応 +1
筋力 +1
霊感 +1
運 +1
累計自由割り振りポイント 4
経験値の増え方が速すぎて、正直もう追いきれない。
【ワイルド・ピクシーを撃破】
Exp +15
【ワイルド・ピクシーを撃破】
Exp +15
廊下の奥から羽音が幾重にも重なって響く。
第一小隊は完全に安定した狩りのリズムに入っていた。
砂袋で制圧。
スリングで牽制。
槍で仕留める。
無駄がない。
俺は脈翅を広げ、ゆっくり浮き上がった。
「第二小隊、前へ二十歩」
三匹がすぐ半包囲の陣形を取る。
掃蕩を開始する。
今すぐ帰って寝られないなら、ここを“安心して横になれる場所”にしてやるだけだ。
――もちろん、調子に乗るな。
そう自分に言い聞かせた直後、さっそく“注意すべきもの”が現れた。
前線に、明らかに違う個体が飛び出してきた。
手に掲げているのは、
亀の甲羅みたいな丸盾。
防御型か?
スリングが先手で当てる。
Hp -1
ほとんど通らない。
盾が震え、衝撃を吸収した。
『新型だ』
『配信者、ここ面白すぎ』
『ピクシー何種類いるんだよ』
俺は余計なことは言わず、
槍持ちに急降下を命じた。
盾が受け止め、火花が散る。
Hp -2
硬い。明らかに通常個体より耐える。
チャットが湧く。
『タンク!』
『職業分化きたな』
『主播詰むぞこれ』
別に不安はない。
砂袋持ちを前に出す。
粉塵を浴びせる。
Hp -1
ダメージは雀の涙だが、
防御型は目をやられて片手で揉み続けた。
今だ。
他のピクシーをまとめて突っ込ませる。
盾があっさりひっくり返った。
――数分もかからない。
【防衛型ピクシーを撃破】
Exp +20
経験値が高い。上位兵種だ。
当然、従者にする。
青い光が走り、盾役が加わった。
俺たちは探索を続けた。
敵が増えるかどうかはどうでもいい。
従者が増えるかどうかも二の次だ。
――出口が欲しい。
そのとき背後で光が弾ける。
小さな魔法陣が空中に展開し、
次の瞬間、風刃が走った。
砂袋持ちがかすめられる。
Hp -6
俺は眉をひそめた。
「魔法使いか?」
細長い杖を握った個体が、
空中で旋回している。
近づかず距離を取り、小型の風刃を連射して遠距離火力を維持していた。
『出るタイミングおかしいだろ!』
『メイジだ!』
『遠距離きた!』
『後衛は前衛が落ちてから出てくるもんだろ!』
相性の問題だ。
俺たちは最初から遠距離と速攻を持っている。
こんな相手、怖がる必要はない。
スリングで牽制し、石弾で詠唱を乱す。
杖持ちは後退しながら呪文を続け、
距離を取ろうとする。
撃たれた風刃は――盾役が受け止めた。
その隙に槍持ちが突っ込む。
【風術師ピクシーを撃破】
Exp +25
さらに高い。
俺は即座に従者化した。
探索範囲はどんどん広がっていく。
迷宮の端はまだ見えないが、半径一キロは俺の軍団が押さえたと言っていい。
そのとき、一つの影が高速で横切った。
攻撃も構えもない。
背に布嚢を二つ。
飛行速度が他の個体より明らかに速い。
物資の搬送だ。
第一小隊が挟みに行くが、逃げられた。
俺はもう一つの小隊を呼び戻し、
通路口で待ち伏せる。
スリングが翅の根元を撃ち抜いた。
Hp -4
墜落。
だが反撃はしない。
布嚢を引きずって逃げようとするだけだ。
俺は踏みつける。
Hp -10
【奴工ピクシーを撃破】
Exp +10
経験値が低い。
生産・搬送系の個体――となると、巣が近いのか?
俺は従者化を選ぶ。
青い光が走り、二つの布嚢が床に落ちた。
中身は――花葉服、透明翼、
そして未成熟の蜜が数滴。
チャットが察する。
『後勤ユニットか!』
『物資運んでたんだ』
『補給線断ち切ってて草』
ここまでで、槍・石弾・砂袋・防衛・術式・搬送。
六つのモードを収集した。
軍団は数だけじゃない。
役割が増え、分業が生まれている。
撃破通知はまだ止まらない。
俺は従者以外の選択肢も試し始めた。
手元のピクシー武装は、
切風翎だけではない。
翠甲羅、破風のパチンコ、眠れる神の砂袋、風呼びの杖、風順のベルト。
【ワイルド・ピクシーを撃破】……
敵の数は安定して減り、
こちらは安定して増える。
従者は二十匹を超え、
レベルはすでにLevel 4。
廊下の奥の羽音が、次第に乱れていく。
迷宮の深部から出てくるのは、
もはや散発的な単体ではない。
群れだ。
チャット欄に一行、刺さる言葉が流れた。
『お前、あいつらの生態系ぶっ壊してるぞ』
迷宮の奥を見据える。
どうやら現地の首魁も、自分たちが侵略されていると気づき始めたらしい。
――そういえば、自由に振れるポイントがまだ六点残っていたはずだ。
ステータス欄を開き、
次を考えようとした、その時。
スマホから、若菜の震えた声が聞こえた。
「真澄……落ち着いて、聞いて」
今度は何だ。
「さっき幸のお母さんから電話が来たの。
幸が私の配信を見て心配して……
駅にあなたを探しに行っちゃったって」
……は?
なんでそんな余計なことをするんだよ。
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この物語を気に入っていただけましたら、
ぜひたくさんおすすめしてください。
そして、少しでも励ましの言葉をいただけたら嬉しいです。
この物語を書き続ける価値があるのだと、
実感させてください。




