第3話 ピクシー・スクワッド
ブン。
一つじゃない。
ブンブン。
ブンブンブンブン。
三つだ。
俺の肩に乗った野蛮なピクシーも、
わずかに翅を震わせた。
あいつは察知している。
陰影の間から、
三つの小さな影が浮かび上がった。
一体目は、さっきと同じ長槍を握っている。
二体目は、手に細い紐と石を纏わせている——スリングだ。
三体目は、パンパンに膨らんだ布袋を背負っている。
チャット欄が騒がしくなり始めた。
『三体だと!?』
『マジかよ、スクワッド組んでやがる!』
『後ろの奴は何持ってんだ!?』
俺はその袋を注視する。
ピクシーがそれを持って飛べるということは、決して重くはないはずだ。
袋は大きくない。
中身は粉末か、あるいは何かの破片か。
この配置に、背筋が凍る思いがした。
やはりあいつらは知性ある生物だ。
役割を分担し、統率の取れた動きができる。
槍が前衛。
スリングが牽制。
布袋は……支援か?
「真澄、後ろの奴に気をつけて!」
若菜の声が響く。
その好意には感謝するが、遅すぎた。
ヒュンッ!
スリングが真っ先に攻撃を仕掛けた。
石礫が弧を描き、
俺の右目を直撃しようと迫る。
石弾丸は俺の指の第一関節ほどのサイズしかないが、あの速度だ。
目に当たれば確実に失明する。
思考を介さず、俺は即座にしゃがみ込んだ。
ゴンッ!
石が背後の壁に当たり、粉塵が舞う。
それと同時に、
ヤリ持ちのピクシーが急降下してきた。
速い!
俺は手に持っていたシャツをあいつに向けて投げつけた。
だが、今回は捕らえられない。
ヤリ持ちはわずかに進路を変え、放り投げられた「大きな網」を危うげに回避した。
俺の肩の従者が、
チャンスと見るや即座に動いた。
あいつは部屋の隅を見つけ、
俺のスマホを壁際に固定して置いた。
「主、左へ」
極めて細い声で警告を発すると同時に、自分と同じ槍持ちの個体へと突っ込んでいく。
考える余裕はない。即座に体を横へずらす。
石礫が左耳を掠めた。
どうやら、
執拗に俺の目を狙っているらしい。
Hp -1
完全には避けきれなかった。
チャットが激しく流れる。
『同期+1が効いてるぞ!』
『子分に盾をさせろよ!』
『早く仕留めろ、躊躇するな!』
俺は奥歯を噛み締める。
これはゲームじゃない。
あいつらは生きている。
ましてや、あいつらには知性があり、
感情すらあるかもしれないと気づいてしまった後では——。
俺が躊躇した、その一瞬。
バサッ!
三体目が布袋を開いた。
細かな灰黄色の粉末が、
俺に向けて撒き散らされる。
風向きが完璧に味方している……。
待て、なぜ風がある?
ここは湿り気の強い薄暗い廊下だ。
室内のはずだろう?
今はその原因を突き止めている場合じゃない。
生死の瀬戸際で考えすぎることは、
時に命を救うが、多くの場合チャンスを逃す。
ザラッ。
極細の砂埃が俺の両目に直撃した。
「クソっ……!」
目を閉じるのが一瞬遅れた。
激痛が走り、反射的に目を閉じる。
Hp -1
Hp -1
無理やり目を開けようとするが、
痒みと灼熱感が酷く、耐え難い。
だが、見ていなければ殺される。
あいつらは俺の命を狙っているんだ。
ようやく、あの袋の用途を理解した。
あいつは、
戦場をコントロールするデバッファーだ。
チャット欄はもはや制御不能なほど興奮している。
『煙幕だ!』
『終わった、配信主が詰んだ……』
『早くピクシーに助けてもらえよ!』
落ち着け。冷静になれ。
反応 +1。
ただ速度が上がっただけじゃない。
五感がより鮮明になっている。
視界は霞んでいるが、まだ音は聞こえる。
肌で気流を感じることもできる。
三体の位置は、目で見ている時ほど正確ではないが、だいたいの見当はつく。
三方向。
高い位置、左、そして後ろだ。
「主、ヤリ持ちは私が引き受ける」
肩から従者が飛び出していった。
ヤリを持った敵と空中で交差する。
キンッ!
小さな二つの槍がぶつかり合う。
従者が食い止めてくれている間に、
俺は戦況を立て直さなければならない。
必死に瞬きを繰り返し、涙を絞り出す。
幸い、砂の粒子はそれほど粗くない。
角膜を傷つけるまでには至らないはずだ。
スリングのやつが次弾を装填しているのが見えた。
布袋のやつは二度目の砂撒きを準備している。
これをタイマンの戦いだと思っていたら、
俺はこの迷宮で無様に死ぬことになるだろう。
これは「チーム戦」だ。
俺は地面の石礫を掴んだ。
準備に専念している二体は、
激しく飛び回ってはいない。
好都合だ。
これなら、狙いをつけるのは難しくない。
「くらえッ!」
スリング持ちに向けて、
全力で石を投げつけた。
ベキッ!
翅に直撃。
Hp -4
距離のせいで威力は減衰したが、
それでも有効打だ。
羽音が一気に乱れる。
ピクシーが失速し、墜落していく。
Exp未表示
まだ死んでいない。
だが放置だ。
石礫では致命傷にはならない。
優先順位は低い。
ヤリ持ちは従者が抑えている。
これも後回しだ。
今、最も危険なのは——袋持ちだ。
こいつを真っ先に仕留める。
あいつは俺を見上げ、一瞬躊躇した。
その一瞬が命取りだ。
俺は突進し、
ハエ叩きでも振るうかのように、
空中の獲物に向けて平手を振り下ろした。
バチンッ!
Hp -5
地面に叩きつけられたあいつに、
すぐさま蹴りを見舞う。
Hp -5
足の裏で、
何かがまだ抗っている感触が伝わってくる。
俺は構わず踏みつけた。何度も、何度も。
Hp -5、Hp -5……
【撃破 野蛮なピクシー】
Exp +15
チャット欄が猛烈な勢いで流れていく。
『近接で踏み潰し!?』
『配信者がどんどんエグくなっていくんだが!』
『今の、断末魔が聞こえた気がするぞ……』
空中では、
槍持ちの個体が仲間の死を目撃し、
動きが完全に乱れていた。
俺の従者がその隙を逃さず、
槍先を相手の翅の付け根に突き立てる。
Critical
Hp -10
俺は地面に転がるピクシーの死骸を拾い上げた。
これを、そのまま弾丸として使う。
槍持ちの個体に向けて投げつけた。
あいつは反応が速く、
仲間の死骸を間一髪で回避した。
だが、それでもまだ遅い。
死骸を避けたその瞬間、
あいつと同じ速度で動けるもう一人のヤリ持ちが、相手のへそ付近を容赦なく貫いていた。
Critical
Hp -10
二体目のピクシーが撃墜される。
【撃破 野蛮なピクシー】
Exp +15
反応のステータスが高いせいだろうか。
俺のこの部下、攻撃のほとんどが急所攻撃になっている。
残るは最後の一体、
地面にへたり込んでいるスリング持ちだ。
あいつのHPはまだ八割残っている。
だが、石をぶつけられたことで翅を負傷し、もう飛ぶことはできない。
回避能力は大幅に落ちている。
あいつはパニックに陥りながら、
俺に向けて石を投げ続けてくる。
だが正直なところ、
俺にダメージを与えられるポイントなんて、もうほとんど残っていない。
俺はシャツを拾い上げ、
目の前で広げた。
石礫は布に遮られ、一発も当たらない。
そのまま距離を詰める。
ピクシーは慌てて背を向け、
逃げようとした。
だが、空を飛べないあいつの短い足では、
逃げ切れるはずもない。
背後から蹴り倒す。
Hp -5
俺の後ろを飛んでいた従者が急降下し、
その喉元を正確に突いた。
Critical
Hp -10
残りHPはわずか。
もはや、
顔に触れただけで事切れるような状態だ。
俺は顔を背けた。
これ以上見るのは、少し忍びない。
部下が、トドメの一撃を見舞った。
【撃破 野蛮なピクシー】
Exp +15
【撃破 野蛮なピクシー小隊】
Bonus Exp +15
三つの影が、
ゆっくりと浮かび上がった。
三組の選択肢。
チャット欄では熱い議論が交わされている。
彼らにとって、
これはただの面白いゲームに過ぎないのだ。
『三体選べるのか!?』
『全部従者にして軍団を作れ!』
『武装だ! 絶対に武装にしろ!』
俺は荒い息をつく。
今回は、ただ生き残るための戦いじゃない。
「戦術のアップグレード」の時間だ。
三体。
三種の武器。
もし全てを従者にすれば、
俺は一つの「小隊」を持つことになる。
肩に乗った一体目の従者を見る。
同じ前衛は二人もいらない。
今回は、
何か別のものを選んでもいいかもしれない。
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この物語を気に入っていただけましたら、
ぜひたくさんおすすめしてください。
そして、少しでも励ましの言葉をいただけたら嬉しいです。
この物語を書き続ける価値があるのだと、
実感させてください。




