表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

第15話 フェアリー


真澄ますみが送り込んだピクシーたちが、

 風霊鳥ふうれいちょうの攻撃をしっかり受け止められるようになってきたよ!」


若菜が興奮気味に迷宮内の状況を実況すると、配信のチャット欄が一斉に沸いた。


「受け止める」というのは正確じゃない。

どちらかというと、

損耗率が釣り合ってきた——

こちらが一体倒れれば、向こうも一体倒れる。


でも俺にはそれで十分だ。

消耗戦なら負けない。


うちのピクシーたちはゴキブリより繁殖力が高いから。


戦線が比較的落ち着いたタイミングで、

俺はサチのそばに歩み寄った。


ヘルメットが斜めにずれていて、

バットには翠色の羽根が何本か張り付いている。


さっき三羽倒してレベルが上がったせいで、

顔が興奮で真っ赤になっていた。


でも、彼女がさっき言った一言が、

ずっと頭の中でぐるぐるしている。


「サチ、教えてくれ。

 自分が死ぬ予言を見たって、

 どういうことだ?」


サチの表情が興奮から、

なんとも言えない恥ずかしそうな顔に一瞬で切り替わった。


「えっと……

 指輪が毎日予言を見せてくれるんだ」


「それで?」

「昨日、

 自分がどうやって死ぬか見えて……」


俺は何も言わず、続きを待った。


「んー……病院のベッドで……」


「不治の病か?」

俺は急いでピクシー奴工に声をかけて、

秘醸酒を用意させようとした。


これなら治せるはずだ。

「違うよ」サチが苦笑いで言った。


「歳を取りすぎて。

 百三歳まで生きるんだって」


チャット欄に陽気な空気が広がった。

『百三歳!?』

『ちょっと待って、

 心臓止まるかと思った!』

『その指輪のせいで心臓発作起こしそうだった!』

『じゃあ天寿まっとうしに来たの?』

『マスミの顔が真剣すぎて笑えるんだけどwwww』


俺はゆっくりと手を振って、

小さな奴工を下がらせた。


深呼吸をひとつ。

「じゃあ、今日の予言は?」


その質問を聞いた瞬間、

サチの顔が耳まで真っ赤になった。


目をそらして、

バットで地面をつんつんと突いている。


「……身分証明書みたいなのが見えて、

 私の苗字が変わってた」


「何に変わったんだ?」

「聞かないでよ!!」

全身を縮めて、

ヘルメットが落ちそうになった。


『wwwwww』

『苗字!?誰の苗字!!』

『新田幸!!!』

『いや福原か!新田か!?』

『配信主、今どんな顔してるの、

 カメラこっち向けてよ』

『若菜さんはどう思うんですか?』


若菜の声が電話の向こうから届いた。

笑っているが、

その笑い声はどこか乾いていて、

苦そうだった。


「真澄、何か言いたいことあるの?」

「ない」


そのタイミングで、まるで場の空気など気にしないというように——


足元にいたピクシー族母が、

突然片膝をついて、

俺に向かって静かに頭を垂れた。


「主人」と彼女は言った。

語気はいたって真剣だ。


「さっきチャット欄で、私の名前を知りたいという方がいたようですが」


俺は彼女を見下ろした。

「ん?お前に名前があるのか?」


「ありません」

彼女は顔を上げ、


複眼の中に何かを待つような色を浮かべた。

「主人に名を賜りたく」


チャット欄の注目がサチから一気に移ってきた。

『命名!?』

『はやく!』

『いい名前つけてあげて!』

『ポチ?タマ?』

『変な名前はダメだよ!』


俺は三秒ほど考えた。

「フェアリーでいいや」


二秒間の沈黙。

それからチャット欄が、

呆れと感心の入り混じった混乱で弾けた。


『フェアリー……フェアリー……Fairy……』

『え、それってピクシーって意味じゃん!』

『ピクシーにフェアリーって名前つけるとか⋯⋯』

『飼ってる猫にイヌって名前つけるのと同じじゃん!』

『カオスニュートラルからローフルグッドに転職……』

『このネーミングセンス、

 体育の先生に教わったの?』

『いや待って、

 これはこれで素朴な美学があると思う!』

『くそ、なんか泣きそうになってる、

 これで泣くのか俺は』


名前をつけた瞬間、族母の体が光り始めた。

俺は一歩下がって、その光を見た。


光が消えた後、目の前のピクシーは完全に別の存在になっていた。


体はまだ小柄だが、

身のこなしは艶やかで、しなやかだ。


あの複眼が消えていた。

代わりに、

深い緑の瞳をした大きな目がそこにある。

長いまつ毛、

ピクシーと人間の中間にあるような、

利発そうな顔立ち。


彼女は甘えるように微笑んだ。

そして、非常にはっきりとした「ライバルを見る目」で、

サチをちらりと見た。


それから振り向いて、

しあわせそうに俺の腕を抱えた。


「フェアリーは何でも主人の言うことを聞きます!」


特に強調して、もう一度。

「何でも」


チャット欄が完全に崩壊した。

『新田さん、犯罪スレスレですよ!』

『修羅場!修羅場!!』

『ダメ!私はサチ派!浮気猫は失せろ!』

『ちょっと待って、逆に新田×フェアリー推して、サチを自由にしてあげようよ』

『良心は痛まないの!?』

『若菜!若菜!幼馴染をどうにかして!』


若菜の声が電話の向こうから聞こえた。

笑いをこらえているのが丸わかりだった。


二つ巴から三国志になった……か。


「……真澄、

 自分のピクシーをどうにかできない?」

サチはバットを握ったまま、顔が燃えそうなくらい赤かった。


でも何も言わず、

ただ横目でフェアリーをちらちら見ていた。


俺は目の前の、

まったく別人になったピクシー族母を見て、

冷静かつ理性的に考えた。


従者に名前をつけると、

特別な効果があるのか。

全員に名前をつけたら——


「主人、全員に名前をつけようとしているなら、かなりのコストがかかりますよ!」


フェアリーがタイミングよく口を挟んだ。

声は甘いが、情報量は十分だった。


「コスト?」

「EXPを見てみてください」


言われた通りに確認した。

新田真澄 Lv 9 EXP 320/25600


おかしい。

今日ここに来てから風霊鳥を百羽以上倒しているはずだ。

少なくとも3200以上はあるはずなのに。


「従者に名前をつけるとEXPが消費されます」とフェアリーが言った。


「私を倒した時に得た分だけ、名付けに使われます。平凡な従者に名前をつけるのはお勧めしません」


「じゃあ、おすすめはある?」

「EXPが1800を超えてから、

 活蠕巣に名前をつけることをお勧めします。

 そうすればレベルが下がらずに済みます」


そこで思い出したことがあった。


「待って、ずっと気になってたんだけど、

お前と活蠕巣はなんであの三択が出なかったんだ——化身、従者、武装?」


「私たちはもともと違うものですから」

フェアリーが落ち着いた声で答えた。


「私は迷宮の管理者で、

 活蠕巣は迷宮の一部です。

 一般的な従者とは性質が異なります」

頷いて、その情報を頭に入れておいた。


戦線では、

ピクシーと風霊鳥の損耗比が少しずつこちらに傾き続けていた。


観の門から新しいピクシーを補充しながら、

倒した風霊鳥を次々と従者に変えていく。


鳥の群れの数が、じわじわと減っていた。

状況が安定しているうちに、

フェアリーに向き直った。


「活蠕巣の話が出たついでに、

 妖精建築って建てられるんだっけ?」


「そうですよ!」

彼女の顔に、専門的な質問にようやく答えられるマネージャーの表情が浮かんだ。


「主人の蠕巣蝋の在庫は今137個です。

どう配分しますか?」


「先にそれぞれの建築が何の役に立つか教えてくれ」


フェアリーが指で一覧を空中に浮かび上がらせた。


【ピクシー蜜房】

秘醸蜜・秘醸酒・蠕巣蝋の生産が可能

消費:蠕巣蝋 ×30


【翅膜工房】

透明翼と布製品を量産可能

消費:蠕巣蝋 ×50


【魔術研究所】

使い捨て魔法結晶の製造が可能。

量産前に研究が必要。

消費:蠕巣蝋 ×80


【蜜蝋工作室】

蝋と様々な素材を使った工芸品の製作、

新建築の研究も可能

消費:蠕巣蝋 ×80


チャット欄がすぐに議論を始めた。

『翅膜工房で透明翼を量産!早く建てて!』

『魔術研究所は強そうだけど先に研究が要るのか……』

『蜜房と蜜蝋工作室どっちを優先すべき?』

『137個……蜜房30、工房50、残り57、研究所は80で足りない』

『算数タイム!』


頭の中でざっと計算していると、

一体の奴工が羽ばたいて俺の肩に止まり、

ある方向の感知を伝えてきた。


消防隊と警察の位置が確認できた。

「見つけた!」


俺は気持ちが上がって、

部下たちに命令を出した。

「行くぞ」


若菜の声が少し張った。

「真澄、今行っても大丈夫?」


「鳥の群れはもう分断されてる。

残った個体はみんなピクシーに絡まれてる。

場所さえ分かれば難しくない」


サチとフェアリーを連れて、

そちらに向かって歩き始めた。


ピクシーたちは包囲網を維持し続け、

分散した風霊鳥が再集結しないよう抑えている。


着いてみると、

消防士と警察官が二十数人、

壁を背に丸く固まっていた。


包帯を巻いている人もいる。


消防士の手にはまだ斧が握られていて、

警察官は盾を持ち、

拳銃に弾を込めたまま構えている。


あのアイテムたちがこの迷宮で役に立つかどうか、俺は少し考えた。


銃と斧は彼らを生かし続けた。

でも出口まで連れていくことはできなかった。


明らかだった。


先頭に立っていた警察隊長は、

四十代ぐらいで、

声がしゃがれた男性だった。


俺を見て、次にサチを見た——

ヘルメットをかぶって、

バットを持っている。


「……あなたたちが助けに来てくれたんですか?」

「そうです」

「何人で来たんですか?」


俺は周りを見渡した。

「俺と彼女と、ピクシーが数百体です」

隊長は一秒黙って、それから笑い出した。


疲れと安堵が本物だと分かる笑い方だった。


『数百体のピクシー(笑)』

『最強の救助隊』

『なんか癒される』


バックパックから透明翼を取り出した。

687セット、一セット四枚。

手持ちの在庫は十分すぎるほどある。


「一人一枚です」と俺は言った。

「怪我をしている人は、

 近くの救急病院を思い浮かべてください。

 怪我のない人は、

 一番よく知っている場所——

 家でも職場でも——

 できるだけ鮮明に思い描いて、

 それから翼を砕いてください」


隊長はその薄くて透き通った翅膜を二秒ほど見つめた。


「これ、

 あなたが配信で売ってたやつですか?」

この人、若菜の配信を見ていたらしい。


状況を把握している人がいると、

余計な説明をしなくていいから助かる。


「そうです」

俺は翅膜を彼の手に渡した。


「みんな、同じようにしてください」

閉じ込められていたのは、

消防士と警察だけではなかった。


一般市民も何人かいた——

どうやら警察と消防士が仕事を半分まで仕上げていたらしい。


人を見つけて、安全に守って、

俺が来るのを待っていてくれた。


この事件が終わったら、

俺はきっとメディアにヒーローとして持ち上げられる。


そして同じメディアが、

この名もなき英雄たちを踏みにじるだろう。


彼らは俺みたいな特別な力を持っていない。

だからこそ、俺より勇気がある。


出たら絶対に、この人たちのことを口に出そうと心に決めた。


救助隊員たちのそばにいたのは、

本当に様々な人たちだった。


『子どもも中にいる……』

『あのお母さん、ここまで耐えたんだね、

 すごい』

『早く出してあげて』

『あのお年寄り、もう限界じゃないかな』

『妊婦さんいる!』

『死者は出てないみたいだけど、

 怪我人は多いね!』


人数は想定より多かったが、在庫は足りた。


配り終わりそうになった時、

隊長が部下に向かって声をかけた。


「二人足りない……祐希ゆうき加奈かなはどこだ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ