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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0097.バンザイするリーダー



 視点:ヴェル


 それは、耳の奥で鈴が鳴るみたいに始まった。

 

 やけに鮮明で、やけに眩しい。

 痛みも恐怖もない、ただ“あの日”だけが、

 勝手に呼び戻される。


「と、いうわけで聞ききましてよ二人とも!!」


 あぁ、あの時の記憶か。

 奴隷の時も何度も見た夢だ。

 

 俺の五歳の誕生日。

 俺のお祝いなんて忘れて、

 リリーが胸を張っていた。


「わたくし、決めましたの!

 王族なんてイヤ! 冒険者になりますわ!!」


 姉さんが、呆れるように肩を落とす。


「またそんなこと言って……」


 苦笑しつつも、

 それでも姉さんはきちんと聞いている。


「いい!? 『十の未踏ダンジョン』よ!

 場所だって全然わかってませんけど──」


 リリーは指を折りながら、

 世界の果てを並べていく。


「火山の奥とか! 海の底とか! 空の果てとか!

 どこかに眠っていると言われてる『神域』!


 そんなダンジョンを全部制覇して

 “伝説の冒険者”になりますのよ!!」


 そうだ。

 あの日、その言葉が胸に刺さった。

 ワクワクが、背骨を立たせた。

 

 そしてそのワクワクが、

 巡り巡って俺を坑道に落とし、

 坑道が巡り巡って、俺を冒険者へ。


「ウィリィもヴェンも!

 私と一緒に冒険者になりますわよ!」


 リリー、俺は今。


 ──冒険者になったんだぜ。

 


 ◇

 


「……知らない天井。か?」


 カタコト、カタコト。

 不規則な揺れが背中を叩いて、

 意識を引き上げる。


「いてっ!!」


 全身が痛い。頭も痛い。

 

 まぶたを開けた瞬間、世界が一段眩しくて、

 次に飛び込んできたのは――木人形の顔だった。


「オい。ヴェル坊が起きタゾ」


「木人形……さん?」


 近い、近いです。

 うーん、木目のいい香り……って違うわ!

 ほんのり鉄の匂いなのは武器の匂いだよね?

 けして返り血とかではないよね??

 

「ヴェルさん!!」


「いつまで寝てるんじゃこの馬鹿者がぁ!!」


 バタバタと音がして、セリアとアノンの声。

 木人形が俺を抱き起こしてくれて、

 ようやく状況が見えた。ありがとう。


 ここは馬車の中だ。

 揺れているのは車輪。痛いのは自業自得。


 馬車の中にはセリア、アノン、カルド。

 ゼノンさんとディアさん。

 そしてリーゼロッテさんがいる。

 紅茶を飲んでいる。馬車でも優雅。


「あれ、遺跡探索はどうなったの?」


 俺の記憶は「勝ちだぜ」で途切れている。

 恥ずかしい台詞で切れている。


「無事、完了したよ。心配しなくて良い」


 ゼノンさんの声は、やけに温かい。

 だが、その声を遮るように――のじゃロリ。


「そんなことよりお主の身体じゃ!

 いつもいつも倒れおって! 軟弱者が!」


「本当ですよ。もう、本当に……」


 セリアが泣いている。

 いつもなら“にっこり怒る”だけのセリアが、

 目元を赤くして俺の手を握った。

 ……今回は、相当心配をかけたらしい。


「ごめん。頼りないリーダーだな俺」


「違います。頼りになりすぎだから……

 もうっ、何て言えばいいかわかりません」


「ポンコツじゃ! 心配させおって!!」


 泣きベソのアノンを、ゼノンさんが撫でる。

 視界の端でカルドが微かに口角を上げ、

 ディアさんが「うふ♡」と笑う。

 リーゼロッテさんはまだ紅茶を啜っている。


「いや、でも本当に。

 毎回倒れて申し訳ないと思うよ」


「お主は修行ですら倒れる凡人じゃからな!!」


「ごめんってば……」


 あの修行は思い出したくない。

 完全に自滅だった。忘れたい……。


 ゼノンさんが小さく咳払いする。


「さて、アノン。

 ヴェルくんにも知る権利がある。

 私に代わってもらえるかい?」


「ううー。父上が言うなら……」


 アノンが渋々引き下がり、

 ゼノンさんはしゃがんで俺の前に座り、

 目線を合わせて続ける。


「まず、依頼は完遂した。お疲れ様だよ。

 自由の風として、次の手柄がついた」


 そう言って、指を折る。


「・古代機巧陸亀エンシェントギアトータス回収

 ・古代機巧巨人エンシェントギアゴーレム回収

 ・古代機巧大蛇エンシェントギアサーペント回収

 ・古代機巧統治者エンシェントギアアドミニオン回収

 ・マッピング17%の記録」


「自由の風が最も貢献したことになった。

 特に統治者は初の回収だ。

 核だけを見事に壊し、研究用としても十分。

 ギルドからは後日改めて報酬が来るし、

 既にこの件は新聞にもなって回ってる」


 渡されたのは新聞の一面。

 そこに写っていたのは――


 余裕の出立ちのゼノンさん、ディアさん。

 無愛想なカルド、にっこりアノン。

 俺を心配そうに見てるセリア。

 

 そして、木人形にバンザイさせられている、

 ──意識のない俺。


「これ……なんですか?」


「自由の風の全国デビューさ」


 ゼノンさんがキラキラ笑う。

 記事にはこうある。


『真ん中のヴェルは自由の風のリーダー!

 今回の遺跡調査にて、その身と引き換えに

 新種の管理者機巧を討った超新星!

 先日、冒険者の間で話題にも上がった

 S級ゼノンの昇級試験も記憶にまだ新しい。

 要チェックの人材と言えるでしょう!!』


 そして、S級コメント欄には、

 ――なぜかリーゼロッテさん。


『シャボン玉のヨうに華麗で儚キ男よ』


 俺は反射でリーゼロッテさんを見た。


「使イ方、アってタ?」


「あってません。俺死んでませんから!」


「チェっ」


 つーん、とした顔で紅茶を飲み始める。

 なんてマイウェイ。


「まぁ、これから君たちはどんどん注目される。

 これで自由の風への依頼が来始めるだろうね」


 ハッ。


「まさか、そのつもりで??」


「それ以外に何があるんだい??」


 いや、まぁ、確かにそうだけど。

 ……荒療治すぎるだろ!!


 そして追撃。


「安心すると良い。フルコースもあるからね。

 リズもしばらくの間いてくれるそうだ。

 ゴードンの家で世話になるそうだよ」


「ヴェルぅ!

 君ガ泣くまデ、世話にナルのをヤめナイ!」


 木人形が、無情に言い放つ。

 俺の安寧は、しばらく来ないようだ……。



 ◇

 

 

【視点:俯瞰】


 ヴェルが馬車で叫んだ時から数日後。

 

 水の国アクアリアの首都マールタウン。

 虹の都(アイリスガルド)に、とある七人が集まっていた。


 八人掛けの円卓の一つは空席。

 

 だが、残る七つに着座する面々は、

 静かに言葉を交わしている。


「と、いうわけで。

 穴埋めの方はお亡くなりになりました。

 私の中で愛となって。ふふふ」


 微笑むのは慈愛の緑(エメラルド)

 知恵の紫(アメシスト)の“代理”を屠った報告のようだ。


「あら、そうなの。

 それは、残念で悲しいことだけれど。

 ……仕方のないことなのねぇ」


 穏やかな微笑みで応じる青髪の女性。

 信仰の青(サファイア)

 その声は優しいが、言葉は冷たい。


「死んでしまったのなら、きっと。

 うん、信仰が足りなかったのでしょうねぇ」


「……で、話は終わりか〜?」


 黄色髪のボーイッシュな女性が手を叩く。

 堅固の黄(トパーズ)だ。


「アタイ暇じゃないんだよねっ!

 今年こそ結婚しなきゃいけないんだし!!」


 橙髪の女性、希望の橙(カーネリアン)が身を乗り出す。


「諦めなければ実はなるはずですわ!

 貴方に光は降り注いでおりますの!」


「だろだろ? アタイ今度こそは!

 ぜーったい、いけると思うんだよね!」


 赤髪の麗人、正義の赤(ガーネット)が鼻を鳴らす。


「ふんっ、くだらん。

 己が信ずる道を歩めば結果はついてくるものだ。

 浮かれて規律を乱すようなら私が貴様を裁くぞ」


 藍髪の薄幸な少女、節制の藍(ラピスラズリ)は小さく言う。


「慎ましやかに……生きていけたら……、

 私はそれで……良いと思う……。

 多くは……望んじゃ……ダメ、だよ?」


 そこでエメラルドが、ふわりと手を上げる。


「ふふふ、話がそれてると思います。

 でも、私は結婚は賛成ですよ? トパーズさん♡

 結婚。それは愛を試される愛による愛の為の……」


「あっ、エメラルド姉さん!

 ありがたいけど、姉さんは話長くなるから、ね?

 アタイ、その……暇じゃないんだってば……」


 笑いが起きる。

 その笑いを、白銀の髪の美しい女性が

 ふわりと静かに止めた。


「こうして貴方達と話す時間は、

 とても充実していて素敵な時間と存じます」


 女教皇アイリス。

 彼女が口を開いた瞬間、円卓の空気が整列する。


「知恵の紫の代理の件は承知いたしました。

 ヴィオラも、そろそろ記憶を取り戻す時です。

 信徒たちの報告によると、今は土の国に居るそう。

 そうなったら、どなたかお迎えに行ってあげてね」


「「「かしこまりました、アイリス様」」」


 七彩の使徒の声が揃う。


 アイリスは満足そうにうなづいて席を立った。

 続くように一人、また一人と席を立っていく。


 そして一人。

 残ったエメラルドは深く微笑んだ


「土の国……ですか。

 ヴェル様にも、そしてセリア様にも。

 何事もなければ良いのですが……。

 あぁ、愛ゆえに……心配です♡」


 愛を口にしながら、

 その瞳は冷たく光っていた。

 

 エメラルドは一人で、ずっと。

 ただただ、微笑んでいた。



 

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