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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0096.だいじょうぶ



 視点:ヴェル


 

「カルド、大剣を貸してくれ!!」


 俺はまず、前で耐えている相棒に叫んだ。

 

 統制者アドミニオンの腕が砕け、再生し、また砕ける。

 その合間を縫って、

 カルドがこちらへ視線だけを寄越す。


「──わかった」


 何故? とも、持てるのか? とも聞かない。

 全幅の信頼だけを乗せ、カルドは大剣を投げた。


 空を切る重い音。

 回転しながら飛んでくる鋼の塊が、

 俺の手に吸い込まれる。


 ずしり。

 重い。

 

 重すぎて、肩が持っていかれそうになる。

 だが──今の俺には“風”がある。


 次はセリアだ。


「セリア! 俺に循環をかけてくれ!」


「はいっ! 風の女神よ! 循環の力よ!!」


 セリアの声が通る。

 

 同時に、俺の身体の中を風が駆け抜けた。

 循環の感覚が皮膚の下を撫で、

 スーッとした感覚で血液の流れが整う。

 足元の重さがわずかに消え、視界が澄む。


 少しでも速く。

 そして少しでも、マナを大剣に流せるように。


 俺自身の循環のマナ。

 セリアの循環。


 重ねる。

 重ねて、重ねて、重ねる。


 その瞬間、世界が変わった。


 ……何だこれは?


 遅くなった。

 俺の速度が落ちたのか?

 違う。違う。違う。


 周りが、ゆっくりに見えているだけだ。


 ――循環か!?


 重ねた循環が“思考の解析度”を上げたのか。

 時間が伸びたように感じる。

 風が、血が、神経が、一段階研ぎ澄まされる。

 統制者の動きが“読める”。

 

 攻撃の前の微かな姿勢。

 バリアの厚みが揺れる瞬間。

 関節が鳴るような駆動音。

 

 今まで「でかい」「硬い」「強い」のやつが、

 “構造体”として見え始めた。


 さらに──


 過敏になった感覚は、

 奴の身体の中の“濃淡”まで拾っていた。

 核そのものが見えるわけじゃない。透視じゃない。

 でも、滲むように、濃い反応がある。


 まるでサーモグラフィーみたいに。

 心臓の周辺だけ、赤く見えるように。


(……だったら)


 核がどこか分からなくてもいい。

 あの“濃い場所”をこじ開ければいい。

 こじ開けて、剥き出しにして見つければ良い。


 俺は統制者の攻撃を風の滑走(スイフトウォーク)で避けながら、

 ゆっくりと大剣へマナを込め始めた。

 

 魔術としての風を。

 渦を作り、刃を生むために。


 クルクル……クルクル……。

 鍋をかき混ぜるみたいに。

 嵐の目を作るみたいに。

 大剣の内部へ、マナを蓄積していく。


 だが、言いようのない頭痛が襲ってきた。

 

 過敏すぎる感覚。

 “絶対感覚”みたいなものが脳を焼く。

 見える情報が多すぎて、頭が悲鳴を上げる。


(……でも、痛いなんて言ってられない)


 集中する。

 大剣だけに。

 この一撃だけに。


 カルドが何か叫んでいる。

 だが、聞こえない。

 

 セリアが悲痛な顔をしている。

 だが、モヤがかかっている。

 

 アノンが背中で必死に喋っている。

 だが、叩かれてる感覚すらもう鈍い。


 俺の世界には、剣と、統制者と、

 奴の赤い“濃度”だけがある。


 しかし、さすがじいさんの大剣だ。

 俺のナイフより、貯められる。

 比べ物にならないほど、貯められる。


(これなら……やれる)


「アノン、奴の胸部だ!

 そこを見てろ!!」


 俺は先にナイフを投げつけた。

 循環を乗せていない、ただの投擲。

 カキンと弾かれ、床に転がる。


「わ、わかったのじゃ!!」


 背中が震えている。

 多分、返事をしてくれたのだろう。

 俺の胸の奥の不安が少しだけ薄くなる。


「喰らえ、古代機巧統制者エンシェントギアアドミニオン!!

 繚乱旋風エングレイヴ重撃之嵐グレイテスト!!」


 俺は大剣を振り抜いた。


 風の刃が、球体の嵐になって飛ぶ。

 切る、切る、切る。

 鋼鉄を“掘り込む”ように、刃の嵐が突き進む。


 統制者の胸部装甲が削れ、

 ひしゃげ、剥がれ、露出する。

 

 そこから覗くのは、硬質な回路と歯車、

 そしてマナの濃い“核周辺”。


「あ、アレじゃ! 風のマナが濃いのじゃ!!

 保〜持〜じゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 背から“のじゃロリ”の全力が漂った。

 アノンの魔力が、俺の背中越しに走る。


 対象を“保つ”のではない。

 “遮断する”ための保持。


 そして俺の視界にも見えた。

 一つだけ“今、色が変わった球体”がある。

 マナの光が、別の層へ沈むように変質した。


(……アレが核か)


 緊急事態だと思ったのだろう。

 奴は動きを止めた。

 そこからの統制者の再生は速い。

 破損を埋め、装甲を戻し、濃い場所を隠す。


 俺は視線を逸らさない。

 手元に投げナイフを再生成し、マナを込める。

 残りの集中力を全部そこへ。


 気が遠くなる。限界を迎えたのか、

 痛みが戻ってくる。

 耳が、世界の音を拾い始める。


 アノンの叫びが聞こえはじめた。

 セリアの声が聞こえはじめた。

 カルドの足音が聞こえはじめた。

 俺の呼吸が荒いのも今はわかる。


 霞む視界。

 遠のく意識。

 治っていく装甲。

 そして、治った直後の“核の位置”。


(まだだ……まだ……)


 身体が先に悲鳴を上げた。

 膝が落ちる感覚。

 世界が斜めになる。


 でも、目だけは逸らさない。

 逸らしたら終わりだ。


 頭痛。

 身体の痛み。

 全部、まとめて飲み込め。


「風穿……一閃……《ペネ…ト…レイト》ッ」


 一切逸らさなかった“そこ”。

 引っ張るのは風の手。

 代々ストーム家に勝利を与えただろう風。


 始まりはイノシシ。

 次がグレイヴバード。

 ゼノンさん。そして古代機巧陸亀エンシェントギアトータス

 

 全ての戦いで、

 俺はこの“始まりの技”と共にあった。


 キィンッ、と高い音。


 何かが砕けた音。

 “核”が割れた音。

 そして──統制者の動きが止まる。


 巨大な機巧が、ぎこり、と一拍遅れて揺れ、

 次の瞬間、崩れるように前へ倒れた。


「俺たちの……勝ち……だぜ……へへっ」


 頭痛が、止んだ。

 そして、無が始まった。



 視点:俯瞰


 ヴェルの決死の一撃で、

 古代機巧統制者エンシェントギアアドミニオンは崩れ落ちた。

 石床に巨体が大きな音と共に叩きつけられ、

 衝撃が遺跡を震わせる。


「ヴェル!!!」


「ヴェルさん!!」


 カルドとセリアが駆けつける。

 

 アノンは背中から降りたまま、

 呆然とその場で立ち尽くしていた。

 顔から血の気が引いている。


「こやつ、目からも鼻からも血が出ておる!」


「私が治療します!!」


 セリアが慌ててヴェルへ手を伸ばす。

 だが、その手首が止められた。


 木人形の手である。


「リーゼロッテさん!?

 何で止めるんですか!!」


 普段は聞かない声、セリアは怒鳴った。

 それだけ必死なのだ。

 だが、木人形は淡々と答える。


「ヴェル坊は循環ノ重ね過ギデ倒れタ。

 そレ以上重ねルと確実に死ヌ」


 セリアの指が震える。

 治せない。治そうとすると、逆に殺す。

 循環の副作用が、ここで牙を剥いた。


 木人形はひょいとヴェルを担ぐ。

 まるで軽い荷物のように、だが雑には扱わない。


「お前達モ、自分ノ心配をシろ」


 カルドは平然としているように見えたが、

 昨日の疲労を残したまま統制者の打撃を受け、

 反射し、壁で支え続けた。

 

 セリアは何度も零値点回帰アブソリュートキャンセルを使い、

 何度も全員分のバフをかけ直している。

 

 アノンは長距離から高密度の保持を維持し、

 マナの消費が重い連鎖する灼焔(チェインフレア)を撃った。


 ヴェルほどではない。

 だが、全員が限界に近い。


 これで終わりなら。

 倒れた統制者の横で息を整えて帰れるなら。

 それなら別に、よかった。


 だが、遺跡はそうはさせなかった。


「う、嘘っ……!」


 セリアが息を呑む。

 

 四方の壁が崩れ、

 現れたのは数百を超える機巧の群れ。


 猟犬型ハウンド兵士型ソルジャー

 銃兵型ガンナー飛行型イーグル


 量産型で木っ端。

 だが数が違う。

 

 “数百”という物量は、疲労した三人にとって、

 見た瞬間に心を削る景色だ。


 しかし、ここにはリーゼロッテがいる。


 十万人を超える冒険者の中で、

 ほんの十人ほどしかいない頂点。

 

 S級、人形姫リーゼロッテ。


 リーゼロッテは淡々と両腕を広げ、

 木人形を次々と召喚する。

 数十体。

 物量に比べれば少ない。

 だが、彼女は笑った。


「だいじょうぶ。リズがついてるから。

 きみたちをぜったい、まもってあげる」


 木人形ではなく、リーゼロッテ本人が言った。

 そして、ニコッと笑みを見せた。

 それは夜の焚き火みたいに、

 短く暖かい安心だった。


 ――そこからは、作業。


 レーザーは弾かれ、ミサイルは撃ち落とされ、

 木人形の連携で、機巧は次々と屠られる。

 十分もかからず、数百の機巧は全滅した。


 呆気に取られる三人。

 言うべき言葉が見つからない。


 そこへ、木人形がドヤ顔で言った。

 隣ではリーゼロッテが同じくドヤ顔だ。


「任務は遂行すル。部下モ守る。

 両方やらなクちャあナらないッテのガ

 S級ノつライとこロダナ」


 そしてリーゼロッテは、

 アノンへ向かっていつもの一言を投げる。


「使い方、あっテタ?」


「う、うむ……」


 


 Aランク依頼

 古代遺跡を探索せよ。


 対処:古代機巧統制者エンシェントギアアドミニオン

 条件:非破壊での討伐


 ──完遂。



 

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