0094.最奥へ向かう
祝 連載一ヶ月経ちました!
そしてPVも10000行きましたありがとうございます!
これからも頑張って書き続けますので
よろしくお願いいたします^^
正直に言う。
俺たちは“歩くだけ”になっていた。
恐ろしいほど何もせず、本当に歩くだけ。
いや、正確にはリーゼロッテさんと
木人形たちが全部やっていて、
俺たちは後ろをついて行っているだけだ。
リーゼロッテさんの指は相変わらず、
ぐにゃぐにゃと忙しそうに踊っている。
曲がり角を一つ越えるたびに、
空気が変わる。遠くで金属が裂ける音がする。
俺の空間把握の範囲外だから
“何が起きているか”は見えない。
でも、確実に何かが起きている。
何かが壊れて、何かが止まって、
何かが片付いていく感覚だけは、
遺跡の空気そのものが教えてくれる。
そんな“歩くだけ”状態だからこそ、
リーゼロッテさんの質問は止まらなかった。
「ヴェル坊、オ前も異世界かラ来たんダロ?」
「えぇ、まぁ……はい」
歩きながら、答える。
変に言い訳する必要はない。
ゼノンさんから聞いてるんだろうし。
「何部まデ履修しテルんダ?」
──あっ。
言うまでもなく、“あの作品”だ。
何部って聞かれ方をする時点で確定だ。
「俺は七部まで見てます」
「オォ! 意外にシッかリ見てルな!
リズはゼノンかラ昨夜、六部まデは聞いタ」
(あの時間から!?)
昨夜って、花京……ゴホンッ! の
魂を賭けたあたりからってことだよな?
いつ寝たんだ、あの二人。
S級って不眠不休なのか?
俺の顔に疑問符が浮かんだのがわかったのか、
木人形が淡々と続ける。
「リズは五→四→一→二→三→六で聞いタ。
ゼノンの台詞デかっこよかっタのが
キッかケでソレが五部だ」
なるほど。
確かに五部は人気が高い。
未履修の人に布教する時に、
「まずここから」って薦める人も多い。
ゼノンさん、割とガチ勢だな。
異世界人じゃないのにわかってやがる!
「ちなみに、そのカッコいい台詞とは?」
一応、聞いてみた。
五部はカッコいい決め台詞の宝庫だし、
気になるのも仕方ないだろう。
……が、聞いたのは間違いだった。
ニヤッとした瞬間、等身大の木人形が
俺に飛びかかってきた。
まただ。
デジャブという言葉では足りない。
この世界のS級、初対面で“襲う”がデフォ?
そして、喉元に鋏。
「なっ!」
「きゃっ!」
「んぬぅ!」
カルドたちも反応するが、
全くついてこれない速さだった。
木人形が、ほのかなドヤ顔で言う。
「質問は既ニ拷問に変わっテルんだぜ!」
そして木人形は、さらにカルドたちへ視線を向ける。
「何見てンだイ? うらヤマシいかイ?
君たちモ殴リたいノカ?」
幹部の凄みだッ!
おかっぱが見えた気がしたッ!!
「使い方、あっテた?」
「良かったと思います……」
「おぉ、良かっタ!」
誇らしげに木人形が鋏を下げる。
ゼノンさん、どこでこんな台詞使ったんだよ。
あの人が言うと洒落にならないって。絶対に。
ていうか、いつまでこのくだりやってんだ?
そろそろ神様も思ってるだろ。
知らない人からしたらわけわからん話だし。
そろそろ自重してほしい。マジで。
◇
リーゼロッテさんは、
ちょこちょこ立ち止まっては
支給石板に進捗を書き込んでいった。
指は相変わらずウネウネ動いているのに、
もう片方の手で石板をスワイプしたり
タップしたり器用に進めている。
器用すぎる。指と脳が別系統で動いてるのか?
いわく、木人形が見聞きしたものは
リアルタイムで共有されているらしい。
今朝見た時は、だいぶ埋まったとはいえ、
まだ結構白地図が残っていた。
それが今、残りわずかになっている。
残ったのはひと区画。地形的にも“最奥”っぽい。
(体感、まだ二時間弱だぞ……)
これがS級の実力なのか。
“踏破”という言葉が、
行動じゃなくて作業に見える。
「で、妾達は今どこなのじゃ?」
アノンが当然の質問をする。
リーゼロッテさんが指さしたのは、
最奥へ続く細長い廊下。
つまり、この先が最奥らしい。
「コの先に、オソラく大ボスが居ル。
ゼノンも見タことナイ、機巧ト予想してイル」
そう言いながら、散らばせていた木人形が
次々と跳ねながら戻ってくる。
カラコロカラコロと音が集まってきて、
いつの間にか“数”が減っていくのがわかる。
「お前達、転移ヲ仕掛けらレタのだろウ?」
木人形がこちらを見る。
俺とセリアは思わず苦笑した。
あれは恥ずかしい。怖かったし。
「ゼノンの予想ダが、
この先ノ機巧はリズと同ジで、
量産機巧を通しテ見てル」
「……監視、ってことですか」
セリアが小さく呟く。
「だカラ、今日は掃討作戦モしタ。
余計ナモノを見せナイ為にもナ」
掃討。
つまり、こっちが見せたくない情報も、
向こうに見られている可能性があるってことだ。
そう考えると、背筋が冷える。
俺たちが“歩くだけ”だったのは、
ある意味で救いかもしれない。
リーゼロッテさんはぐーっと身体を伸ばした。
十歳にも満たない体格なのに、
伸びの動きはなんだか大人っぽい。
「さァ、行くゾ。
この先ノ敵はオ前達の獲物だカラな。
リズの手ヲ煩わセルな」
言い方が怖い。
“手を煩わせるな”は、
要するに“死ぬな”と同義だ。
歩き出しながら、木人形が続けた。
「仮称ダガ、名前をこう呼ブこトにしタ。
古代機巧統制者」
統制者。
管理者。
嫌な響きだ。
ボスというより“指令塔”。
つまり、ここまで戦ってきた敵は
全部そいつの配下と言ってもいいだろう。
「やれルな? 自由ノ風」
問われ、カルド、セリア、アノンが
互いの目を見て、強く頷く。
俺もそれに合わせる。
「勿論だ」
「はいっ!」
「当たり前なのじゃ!」
三人の声が揃い、俺も言う。
「俺たちが、いいえって言うと思いますか?
こんなの……」
言い終える前に、木人形の拳が飛んできた。
「質問ヲ質問で返すナぁ!」
「ぶへらっ!」
やめてくれよ、四部のラスボス!!
自重してくれ、本当に!!
木人形が満足そうに聞く。
「使い方、あッてた?」
「はい……」
こうして、なんだか締まらないまま、
俺たちは大ボスの元へ向かった。
◇
たどり着いたのは“大広間”ではない。
もっと……“最奥”だった。
空気が違う。
湿り気が消え、代わりに金属と油と、
電気みたいな匂いが濃くなる。
足音が吸い込まれるように小さくなり、
壁の刻印が“文字”みたいに見えてくる。
そして、そこに鎮座していた。
思った数倍でかい。
神殿に鎮座する召喚獣。
──そんな比喩がぴったりだ。
巨人よりも異形で、
陸亀よりも“意思”を感じるフォルム。
角度のついた装甲が幾重にも重なり、
中心部には巨大な環が浮いている。
その環の内側で、青白い光が“呼吸”していた。
「どうやって倒します??」
セリアの疑問は当然だ。
ぶっちゃけ、俺もわからない。
「ワカッてルと思うガ、新種ダ。
かツ重要な管理者機巧。壊すナよ」
リーゼロッテさんは
いつの間にか優雅モードに入っていた。
木人形の頭をテーブル代わりにして
紅茶とお菓子を嗜んでいる。
別の木人形を椅子にして足をぶらぶら。
ここが最奥だぞ。ピクニックじゃねえんだぞ。
俺が何か言おうとした瞬間。
ブゥーーーーン……。
低い駆動音が腹に響き、機巧が起動し始めた。
「兵機巧、辺リニ反応ナシ。
敵性反応、五名。緊急事項ト判断。
プロトコルニ従イ……、
破壊殲滅モードへ移行スル」
無機質な声が遺跡に響いた。
立ち上がる影は、巨人に引けを取らない。
展開されたバリアは、陸亀よりも強大だろう。
感じる圧は、グレイヴバードとは比にならない。
でも、諦める理由にはならない。
俺は息を吸い込み、ナイフへ手を添えた。
「カルド、セリア、アノン。構えろ。いくぜっ!」
「あぁ」
「はいっ!」
「うむっ!」
四人の声が揃う。
Aランク依頼
古代遺跡を探索せよ。
対処:古代機巧統制者
条件:非破壊での討伐
──開幕。




