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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0093.ありのまま!



 視点:ヴェル


 というわけで、今日も遺跡へ。

 

 昨日と同じ階段を降り、

 昨日と同じ石の匂いを吸い込み、

 昨日と同じ薄い灯りの中へ入っていく。


 違うのは、ゼノンさんと、

 ディアさんがいないことだ。


 今日はゼノンさん・ディアさんを筆頭に、

 すでに探索が済んでいる区域の掃討と回収、

 そして、仮設ギルドへの情報整理に回るらしい。

 

 俺たちはリーゼロッテさんについて、

 未開拓部分の調査に当たる。


 ……人形姫と“未知”へ行く。

 字面だけで胃がきゅっとなる。


「イいか。リズが逃げロと言っタラ逃ゲろ。

 行けト言ッタら行ケ。死ねと言っタラ死ネ」


 本人の淡々とした表情とは裏腹に、

 陽気にそう言うのは隣の木人形だ。

 

 口調は軽い。内容は死刑宣告。

 どういう命令系統だよ。軍隊かよ。


 俺も、セリアも、カルドも、

 アノンも余計なことは言わない。

 ただ「はい」とだけ返し、付いていく。


 ……沈黙が重い。

 昨日の始まりとは雲泥の差だ。

 

 昨日はゼノンさんがいて、

 ディアさんが騒いで、アノンがドヤって、

 セリアが拾って、カルドが黙って支えて、

 俺が突っ込んで……という、

 いつもの“うるさい安心感”があった。


 今日は、空気が冷たい。

 音が少ないぶん、心臓の音がうるさい。


 そう思っていたら、

 リーゼロッテさんも気まずかったのか、

 突然、木人形がこっちを向いて言った。


「ヴェル坊、静かスギるのハ気まズイ。

 何か芸ヲしロ。今すグにダ」


「はぁ!?」


 無茶振りである。

 

 飲み会で急に「一発芸!」

 って言ってくる上司のあれだ。

 

 こういう時は何をやっても滑る。

 滑って笑われる。笑われて死ぬ。俺は知ってる。


「言ったロ? 言ワレた事はヤれ」


 意外ッ!それはマッチ棒!!


 どこから取り出したのか、

 でかいマッチ棒にどでかい炎を灯し、

 俺の鼻先に突きつけてきた。

 熱い! 熱すぎる! 髪が焦げる!


「わっ、ちょ、ちょっと!?」


 パニックになる俺。

 まともな思考が働かない。

 

 そして“昔やってウケたネタ”を必死に掘り返す。


 ジャスティンビーバーも絶賛したあのネタと、

 誰もが知るあのクレカの合わせネタ!!


「アイハブカード、アイハブカード……

 Oh、楽天カードメェーーーン!!!!!」


 ……だだ滑りである。

 そもそも、こっちの世界は楽天知らんやんね。

 俺何してんの? 俺、今何してるの?


 カルドたち三人が「なんだコイツ」

 って顔でこっちを見る。

 俺も同じ気持ちだ。泣きたい。


 ……だが。


「……ぷぷっ」


 えっ!?


 笑った。

 リーゼロッテさんの“本体”が、確かに笑った。


 しかも、口が動いた。

 木人形じゃなく、本人が喋った。


「ぜのんがやってたあっぽーぺんだ……」


 な、なんと。

 ゼノンさん、アッポーペン!?

 あの大賢者が!?

 

 フルコース券を作る人だし、

 意外にちゃめっ気あるからやりそうだけど!


 俺たちの視線を受けて気付いたのか、

 リーゼロッテさんはすぐムスッとした顔に。

 さっきのが嘘みたいに“無機質幼女人形”へ戻る。


「今ミた事は忘レロ。イいな?」


 またマッチ棒ッ!

 なんで怒られてんの俺!?


「はい! 忘れます! 忘れますから!

 火を近づけないでください!!」


 俺の必死さに、

 木人形が「うむ」と満足そうに頷いた。

 ……いや、満足するな。


 そうして熱い目には遭ったけれど、

 何とか穏やかに階段を降り終えた。


 道中、かすかにリーゼロッテさんの方から

 「楽天カードメェーン」と小さく聞こえたが、

 もちろん誰も拾わなかった。

 

 いのちだいじに。

 拾ったら燃やされる。たぶん。


     ◇


 先に入ったゼノンさんチームと

 ディアさんチームのおかげなのか、

 道中、敵に会う事なくそのまま穏やかに進めた。

 

 昨日あれだけ戦った通路が、今日は静かだ。

 

 破片の散らばり方だけが、

 「ここで何かがあった」と主張している。


 支給石板を見つつ辿り着いたのは、

 大きく倒れた巨人。

 どうやらこれが昨日カルドが戦ったやつらしい。


 古代機巧巨人エンシェントギアゴーレム

 片腕は落ち、内部が露出している。

 だが核を抜かれたのか、動きは止まっていた。

 

 床の割れ方、壁の抉れ方、そして巨人の倒れ方。

 激戦の跡が、嫌でも想像できる。


「カルド、これを倒したのか?」


「あぁ。半減した上で満身創痍だがな」


 淡々と言いつつ、

 その顔にはほんの僅かな誇りがあった。

 いいぞ相棒。そういう顔もっとしろ。


「ホゥ、中々やるナ。Cランクなンだろウ?

 片腕落ちデモ十分ダぞ、椅子ゴリラ」


「「「椅子ゴリラ?」」」


 俺、セリア、アノンの声がきれいに揃った。

 あれ、その話、確か……。


「椅子にナリたいと言っテるのだろウ?

 昨日、ゼノンかラ手紙を見セて貰っタ」


 ……あの人、手紙持ち歩いてるのかよ。

 しかもリーゼロッテさんに見せたのかよ。

 情報管理どうなってんだ。


 というか。


「あ、タブレットだと、

 この先のようじゃぞ〜|(棒読み)」


 スタコラと逃げるように、

 のじゃロリが先へ行こうとする。

 アイツ、そういえばそんなことあったな!

 

 セリアとカルドも同じ気持ちだったらしい。


「アノン〜? そういえば色気について。

 ご教示くださいよ〜(ニコニコ)」


 セリアがにこにこしながらアノンの肩を掴んだ。

 ニコニコだけど、あれは“慈愛の微笑”じゃない。

 “断罪の微笑”だ。


 カルドも無言で反対側の肩を掴む。

 逃げ道がない。


「セ、セリア! これは海より深い訳がじゃな!!」


 珍しく焦ってるアノン。

 俺は助けない。

 花は添えてやるよ。しっかり咲け。


     ◇


 半ベソのアノンはさておき。

 石板上で“ここから未踏”とされた

 長い廊下に辿り着いた。


 灯りが少ない。空気が冷たい。

 壁の刻印が増え、床の継ぎ目も細かい。

 

 誰かが意図して、

 “奥へ行くほど不気味にする”みたいな

 設計にしたようにも思える。


「さテ、初メるぞ」


 リーゼロッテさんが、

 スッと両腕を前に上げる。

 

 キョンシーポーズに近いが、

 腕はもっと開いている。

 

 そこから先の動きが異様だった。


 全ての指が、全て別の動きをする。

 関節が別々の意思を持っているみたいに、

 ぐにゃぐにゃと踊る。


(気持ち悪っ)


 と思った瞬間、空間が歪んだ。


 空中に“木”が現れる。小さな木人形。

 共に歩いていた木人形よりは小さく、

 バスケットボール二個分くらい。

 

 だが、数が異常だ。

 十、二十……いや、もっと。

 

 空間のあちこちから、

 カラコロと音を立てて降ってくるように、

 木の群れが、彼女の周りを取り囲む。


「オ前達ハ、ゆっくリついてくれバ良い」


 木人形が言う。

 リーゼロッテさんは無表情のまま、

 指を動かし続けながら普通に歩き出した。


 ……そして、俺の空間把握が拾った。


 近くで何かと何かが戦っている。

 猟犬型(ハウンド)と、さっきの人形。

 勝負になっていない。

 

 猟犬型が飛びかかって、噛みつこうとして、

 刃が伸びて、砕ける。一方的に、バキバキに。


 他の場所でも、他の場所でも。

 俺の感覚は次々と“破壊”を拾う。

 空気が変わっていく。敵の気配が消えていく。

 

 まるで掃除機でゴミを吸い取るみたいに、

 何かが片付いていく。


 やがて、それは俺の空間把握の範囲を超えた。

 

 遠くでも、何かが壊れているのは感じる。

 遠すぎて位置は曖昧なのに、

 確かに“殲滅の波”だけが伝わってくる。


「ヴェル、どうした」


 カルドが声をかけてきた。

 俺は言葉を探す。


「いや、何て言えば良いか……」


 と言いかけたところで、

 リーゼロッテさんの本体が

 ニヤッと笑ってこっちを見た。


「リズが言っテやろウ」


 まるで“出番が来た”という顔だ。

 四人の喉が同時に鳴った気がする。

 

 S級らしい無茶苦茶な能力、

 恐ろしい真実、ダンジョンの裏の仕掛け。

 そういう説明が来ると身構える。


 そして、出てきたのは。


「ア、あリのママ今起こッタ事ヲ話すゼ!」


 ……あっ。


 俺は察した。アノンも察した。

 ゼノンさんの英才教育を受けてるだけある。


「何ヲ言っテルいるのカ、わからネーと思ウが、

 敵も何ヲされタノか、わからナかっタ」


 と言いきって、

 ほんのりドヤ顔で俺に聞いてくる。


「使い方、アッてた?」


「えぇ、まぁ……」


 俺は乾いた笑いを飲み込みながら頷いた。

 やっぱりこの人、ゼノンさんの“類友”だ。

 そして、たぶん……悪い人じゃない。


 ただ、もっと恐ろしいものの

 片鱗を味わったぜ。


 兎にも角にも。


 こうして俺たちは危機感を抱く暇すらなく、

 奥へ、奥へと進んでいったのであった。


 

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