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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0091.人形姫



 視点:ヴェル


 

 S級の一人、人形姫リーゼロッテ。


 どんな人なのか聞いたら、

 ディアさんはやけに渋い顔になって、


「陰険な女なのよ。

 ヴェルちゃんは気にしちゃダメよ」


 とだけ言って、詳しく教えてくれなかった。

 

 陰険って……それ一番不穏なんだけど。

 どういう陰険だよ。陰険にも種類あるだろ。

 せめてジャンルだけでも教えてくれよ。


 でも、女教皇アイリスの時と違って、

 ゼノンさんはクスクス笑い、


「明日になったらわかるよ」


 と、楽しそうに言っただけだった。

 

 ……この人、楽しんでやがる。

 絶対なんか面白いもの見る目してる。


 その後は、ゼノンさんとディアさんで

 遺跡内の遺体回収へ向かうらしく、

 俺たち四人は先に休ませてもらうことになった。

 

 あのAランクパーティの亡骸のやつだ。

 S級が動く案件って、こういうところの

 “責任”も含まれてるんだろう。


 俺たちのテントは、仮設ギルドから

 少し離れた場所に張った。

 

 風を避けられるように、木箱を重しにして、

 みんなで手分けして、杭を深く打ち込む。

 

 こういう野営の作業って、

 妙に懐かしい気持ちになる。


 奴隷時代とは違う。

 今は、自分の意思でやってる。

 隣に仲間がいる。


 さて、テントの中では、

 いつもの“活躍アピールタイム”が始まった。


「妾は無傷で捕獲したのじゃ!」


「私も必殺技、完成しましたよ!

 うまくいきました!~(えっへん)」


「……俺は、まあ、壁になっただけだ」


 自慢、珍しいドヤ顔。ぶっきらぼう。

 それぞれ得たものがあったんだろう。


 でも、みんな疲れていて、

 最初こそ元気に話していたのに、

 言葉が少しずつ短くなって、

 最後は誰からともなく寝息に変わっていった。


 ……俺以外。


 俺はさっきまで寝てたから、眠れない。

 目を閉じても、意識がやけに冴えている。

 一、二時間ほどゴロゴロしてみたが、

 むしろ目が冴えていくばかりだった。


 仕方なく、そっとテントを抜け出した。


 外は夜。

 焚き火の灯りが点々と揺れていて、影が踊る。

 見張りの交代の足音、遠くの笑い声、

 鉄を打つ音。まだ起きてる人は多いらしい。


 ふらっと、仮設ギルドの隣にある

 仮設酒場のテントへ寄ってみる。


 ……てか、酒場あるの謎だよなぁ。

 冒険者、お酒好きすぎるだろ……。


 酒場のテントに入ると、そこは完全に

 「文化祭をファンタジーでやりました」

 って感じの空間だった。

 

 椅子はなく、立ち飲み。

 木箱をひっくり返した机が並び、

 バーカウンターは樽を並べて板を渡しただけ。

 

 酒樽の匂いと汗の匂いが混じり、

 そこに肉の燻製の香りが乗っている。


 客は多いが、全員が酔ってるわけじゃない。

 

 明日も潜る奴、今日の戦果を報告してる奴、

 仲間の死を黙って飲み込んでる奴。

 酒場というより、作戦室みたいな空気もあった。


 俺は「知ってる人いないかなー」

 とキョロキョロしながら歩いてみた。

 ……それがよくなかった。


 左奥。人が少ない一角。

 そこで、しっかり目が合ってしまった。


 慈愛の緑(エメラルド)である。


 うわぁ……。


 五人ほどの集団で何か話している。

 全員、ローブの意匠が似ていて、

 雰囲気が揃っている。

 多分、虹の都(アイリスガルド)の連中だろう。

 

 エメラルドは俺を見ると、

 ふわっと慈愛の笑みを浮かべ、軽く会釈した。


 ……こっちは、魂が抜けかけた会釈を返す。


 幸い、向こうから来ない。

 助かった。マジで助かった。

 

 俺はそっと、呼吸を殺して、

 サササっと酒場から撤退した。


 触らぬ神に祟りなし。

 いや、神じゃない。祟りの方だ。うん。


 ……にしても。

 改めて見たら、美人だったなぁ。


 やめろ俺。

 触らぬと言ったばかりだ。

 触るな。考えるな。戻れ。


 そうして酒場から逃げた俺は、

 気分転換に拠点の広間をぐるりと歩く。


 木を切り開いて作られた

 この広場はそこそこ広い。

 

 テントも大きめのものが二十は張ってある。

 仮設ギルド前以外は見通しが悪く、

 灯りの届かない影が多い。


 ……ただ、テントの持ち主が

 もういないこともある。

 それが、冒険者の明日って奴だ。

 

 あのAランクパーティのテントも、

 この中にあるのだろう。

 

 そう思うと、さっきの肉の匂いも、

 急に重く感じて胸が詰まった。


 歩いて、歩いて、広場の端まで行くと、

 遺跡の入り口が見えた。

 夜なのに、いや、夜だからか。

 入口付近には見張りが立っている。

 冒険者やギルド員が交代で目を光らせていた。


 そろそろ戻るか。

 そう思って踵を返しかけたとき。


 見覚えのある“大きなフリフリピンク”が、

 ちっちゃな女の子と話していた。


 ディアさんだ。


 女の子はクラシカルな白と黒のゴスロリドレス。

 肌は陶器みたいに白く、

 銀髪のグルグルツインテール

 金と赤のオッドアイは妖しく光って見える。

 

 年齢は……十歳にも満たないだろう。

 なのに、立ち姿が妙に整っていて、

 子どもというより“飾り物”みたいだった。


 ファンタジーの世界だ。

 こんな冒険者がいてもおかしくない。

 テンプレといえばテンプレだ。

 

 ……ただ、ディアさん|(筋肉オネエ)と

 並ぶと、絵面がカオスすぎる。


 俺は声をかけようと近づいた。

 ……が、空気が変だった。良くない。

 

 女の子はムスッとした顔で口をつぐみ、

 ディアさんはディアさんで、

 やたらムキになっている。


 その原因は──


 女の子の隣にあった、木の人形だった。


 女の子と同じくらいの背丈の木製人形。

 なのに、カラコロと音を鳴らして動き、

 そして平然と喋っていた。


「相変ワらず、趣味悪イ化け物。

 お目々ガ腐ルかラ、向こウへ行ケ」


「アンタよりマシよ。いい歳こいて。

 お人形遊びして恥ずかしくないのかしら?」


 ……お人形?

 まさか、この子が“人形姫”?


「人形使イに歳ハ関係ナい。古臭イ親父。

 頑固、腐レ野郎。固いノハ、筋肉ダけにシろ」


「親父? アンタとアタシ、

 歳二つしか変わらないじゃないのよぅ!

 それに、アタシはまだ三十三よ!」


 ここ最近で一番驚いた。

 ディアさん、まだ三十三!?

 

 もっと年上だと思ってた!

 貫禄と年季で四十代くらいかと……!

 トータルで言えば俺より年下なの??


 俺の脳内でディアさんの年齢が

 本当に? 俺より? とぐるぐる回ってる間に、

 隣で楽しそうにそれを眺めていたゼノンさんが

 俺に気づいて、ヒョイヒョイと手招きした。



 ディアさんと女の子が喧嘩を一旦やめ、

 同時にこっちを向いた。

 木の人形も首をぎこっと回し、俺を見た。


「ヴェルくん、紹介するよ。彼女がS級の一人。

 人形姫のリーゼロッテだよ」


 やっぱりそうだったのね……。


 俺が固まっていると、

 木の人形が先に口を開いた。


「コイツガ、ゼノンの新しイお気に入リ?」


 その声と同時に、人形が跳んだ。


「ちょっ!!」


 避けようとした。

 ……のに、身体が硬直して動かない。


 ゾワッとした。

 

 空気が一瞬で重くなり、

 縛られたように筋肉が言うことを聞かなくなる。

 

 そしてそのまま、人形が俺の上に

 マウントを取る形で跨ってきた。


「うわっ、重っ──」


 次の瞬間。


 ガコッ。


 人形の腕が折れた。

 中から、キィーーーンと音を立て、

 物騒な丸鋸がせり出す。


 俺は軽く、いや全力でパニックである。


「ちょ! なんなんだこれ!!」


 視界の端でディアさんが心底嫌そうな顔をした。


「本当に……趣味が悪いのよねアンタ!!」


 次の瞬間、ディアさんの

 拳が重い音を立てて炸裂した。


 ガコン!


 人形は派手な音を立てて吹っ飛び、

 地面を転がって木にぶつかり止まった。


 デジャブだ。

 慈愛の緑(エメラルド)の二の舞。

 でも助かった。本当に助かった。


 女の子──リーゼロッテは表情を変えず、

 宙を撫でるように手を動かす。

 すると、吹っ飛んだ人形がカラコロと起き上がり、

 元の位置に戻ってくる。


「冗談通じなイ。ツマらなイ。

 こレだカラ、化け物オカまは嫌イ」


「んふっ、両思いね♡」


 ディアさんが嬉しそうに言う。

 俺は嬉しくない。心臓がまだ痛い。


 ゼノンさんは呑気に笑っている。

 今俺、下手したら殺されてたよな? よな!?


「な、なんなんですかこの人!」


 情けなくも、俺はディアさんの後ろへ逃げた。


「あら、アタシを頼ってくれるの?

 んもぉ、ヴェルちゃん可愛いわね〜♡

 安心しなさい? アタシがリズから、

 ちゃ〜んと守ってあげるから♡」


 それを聞いて、木の人形が、

 無表情のまま大袈裟なリアクションを取る。


「大丈夫ナのカ? 風ノ小僧。

 ソの化け物ト関わルと……掘らレちゃウぞ?

 ……まサカ! そうイウ繋がリ? 既ニ!?」


(ちげぇよ!!)


 叫びたいのを飲み込む。

 今ここで叫ぶと、また何か飛んできそうだ。


 そんな俺の肩に、

 ゼノンさんがぽん、と手を置いた。


「安心していい。

 リズはイタズラ好きなだけで、

 いい子だから」


 ……いい子の基準がやばい。

 ゼノンさんは普通じゃないからなぁ……。


「それに、ディアとリズはいつも仲悪そうだけど、

 本当は大の仲良しだからね?」


 その瞬間、二人がキッと睨み合う。


「仲良くないわよ、こんな子!」

「仲良クなイ。こンナ化け物!」


 中々のハモリだった。


「真似しないで頂戴?」

「真似すルナ、筋肉」


 またハモりが発生する。

 ゼノンさんがクスクスと笑う。


「ね? 仲良いだろう?」


 これが、俺と人形姫との。

 

 いずれ師匠と呼ぶことになる、

 リズさんとの出会いは、

 血の気の引くほど派手な幕開けだった。


 

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