表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/151

0090.遺跡の一日目 リザルト



 視点:ヴェル


 マナ切れで戦えなくなった俺は、

 セリアに肩を貸してもらい、遺跡を出た。

 

 あれだけ勢いよく突っ込んで、

 最後は壁に激突して、気絶寸前。

 そりゃ当然だ。自業自得だ。


 仮設ギルドのテントに運び込まれ、

 簡易ベッドに転がされ、

 セリアが差し出してくれた水を飲んだ。

 ……ところまでは覚えている。

 

 その後、タブレット……じゃなくて

 石板を覗き込みながら、

 セリアと進捗を見ていた気もする。


 でも、そのうち俺は意識が落ちた。

 

 落ちる、というより沈む。身体が重くて、

 まぶたが鉛で、頭の中の音がだんだん遠くなる。

 そんな感じだった。


 そして、夜。

 俺はドヤ顔のアノンに起こされ、今に至る。


「いつまで寝てるのじゃ、意地悪な凡人!

 お主がぐうすか寝てる間に、

 妾は未開拓部分の半分を父上と開拓したぞ?

 まったく、仕方のない奴じゃ!」


 寝起きの耳に直撃するのが、それかよ。

 

 寝返りを打って無視しようとしたが、

 襟首を掴まれた。小柄なくせに力が強い。


「おおぅ、相変わらずアピールすごいなお前……」


 そう言いながらも、俺は内心ほっとしていた。

 無傷で戻ってきたんだな、こいつ。

 それだけで、胸の奥の氷が少し溶ける。


 アノンは「ふんっ」と鼻を鳴らし、

 俺の顔の前に石板を押し付けてきた。

 どうやら逃げられないようだ。


「ほら、見よ! 目で見ればわかるのじゃ!」


 渋々覗くと……確かに、空白が減っている。

 

 未踏の白地図が、

 線とメモで埋められていく感じが、

 妙に気持ちいい。

 討伐済みの古代機巧も増えていた。


 俺たちが倒した陸亀トータス

 そして、カルドとディアさんが巨人ゴーレムを。

 アノンとゼノンさんは大蛇サーペントを――無傷で捕獲。


(無傷で捕獲ってさらっと書いてるけど

 ……“捕獲”って何だよ……)


 普通、倒すだろ。

 捕獲って、野生動物じゃないんだぞ。


 さらに、他にも名前の知らない冒険者たちが

 結構成果を出しているらしい。

 大猿コング剣虎タイガー

 いかにも強そうなやつを倒している。


 そして、嫌な名前も混じっていた。

 慈愛の緑(エメラルド)――鎧蟹キャンサー討伐。


 ……あの人、生きてるだけじゃなくて

 普通に仕事してるのかよ。怖いよ。


「で、アノン。他のみんなは?」


 俺が聞くと、アノンは得意げに胸を張った。

 ……ない胸だけど、気持ちだけは百点満点だ。


「情報交換をしておる。

 今日の探索のまとめじゃの。

 他のパーティも帰ってきて、

 仮設ギルドへの報告も終わり、

 明日の方針が発表されるのじゃ」


「なるほどな」


 情報は仮設ギルドに集まる。

 

 この手の任務は情報が命だ。

 基本、共有しない奴が損をする。


「……まぁ、お主も聴きたいと思って

 こうして起こしにきてやったのじゃ。

 ありがたく思うと良い!」


 そう言って、アノンはぷいっと顔を逸らした。

 照れ隠し。わかりやすすぎる。


「確かにありがたい。ありがとうな、アノン」


「ふんっ! わかったのなら早く起きるのじゃ!」


     ◇


 というわけで、アノンに引っ張られるように

 仮設ギルド前へ向かった。

 夜風が冷たく、焚き火の匂いが混じる。

 テントの隙間から漏れる灯りが、

 いかにも“拠点”だぜ!って顔をする。


 集まっているのはざっと五十人ほど。

 冒険者たち、ギルド員、現場作業員。

 中には商魂たくましく来た商人もいる。


 それぞれが石板を手にしていたり、

 装備を外して休んでいたり、

 報告書を抱えていたりする。


 もちろん、カルドもセリアもいる。

 ゼノンさんとディアさんも、

 ちょっと離れた場所で人だかりを作っていた。

 さすがS級。どこにいても引力が違う。


 端っこにいたセリアとカルドが、

 俺たちに気づいて近づいてきた。


「あっ、ヴェルさん! お身体は大丈夫ですか?」


 セリアの声は柔らかい。

 ……機嫌を直したみたいで良かった。

 帰り道、セリアの顔が怖かったんだよな……。


「あぁ、もう調子は悪くない。

 それよりカルドの方こそ大丈夫か?

 顔に『疲れてる』って書いてあるけど?」


「問題ない。……とは言えないかもな。

 そこそこ疲れた」


 カルドは正直に言った。

 そして、小さく付け足す。


「それより、陸亀トータスをやったらしいな。

 セリアが嬉しそうに話していた」


 ……嬉しそうに。

 その言い方が妙に引っかかって、

 俺はセリアをチラッと見てしまう。

 セリアは「えへへ」と誤魔化すように笑った。


「カルドこそ巨人ゴーレムやったんだろ?

 タブレット見たぜ」


「あれは、ほとんどディアモンテがやった。

 俺が相手した時には再生もしないし、

 片腕もない、まさに半減した状態だ」


 カルドはさらっと言うが、

 近くの木の根元に座り込む。


 立っているのもしんどいんだろう。

 言わないけど。


「まぁ、妾はお主らと違って

 無傷で捕獲してるがの!!」


 アノンがまた胸を張る。

 本当にいつまでも変わらんな、

 紅蓮のおちびさんは。


「はいはい、すごいすごい」


 俺が雑に流すと、

 アノンは「むぅ」と頬を膨らませる。


 ちょうどその時、

 ギルド員がテントから出てきて、

 声を張り上げた。


「大変お待たせいたしました!

 最新の情報を同期いたしますので、

 石板をご確認ください!」


 アノンが石板を持っていたので、

 必然的に俺たちはそこへ集まって覗き込む。

 

 地図自体はさっき見た時と大きく変わらない。

 

 だが、討伐位置、注意点、罠の傾向、

 通路の崩落危険など、手書きの補足が

 かなり追加されていた。


 それを見てセリアが呟く。


「私たちが踏んだ転移の情報は載ってませんね」


「転移は罠ではなく発動されたものじゃ。

 今はないじゃろうし、あったとするなら

 同じ場所でなくても踏むじゃろう」


 相変わらずドヤ顔の紅蓮ちゃまが応える。

 カルドも頷いた。


「ディアモンテも似たようなことを言っていた。

 何者かがわざと分断させたらしい」


 言おうとしたことを取られて悔しかったのか、

 アノンが慌てて締めに入る。


「もっと高位の敵がおるかもしれん。

 そういうことじゃ!」


 ……ずっとドヤ顔なんだけど、

 この子なにかあったの?

 今日のアノン、ずっと機嫌いいぞ。


 疑問符が顔に出ていたのか、

 セリアがクスッと笑い、

 俺の耳元に小声で教えてくれた。


 ゼノンさんから今までとは違って、

 共に戦ってくれと言われたらしい。

 

 アメシスト戦では後ろで控えたが、

 他の場面で大活躍した!

 という話を散々聞かされたとか。


 なるほど。

 それでドヤ顔が止まらないのか。

 わかりやすすぎる。


 ……っていうか。


「アノン、知恵の紫(アメシスト)に会ったのか?」


「んむ。父上が有無も言わさず

 始末してくれたのじゃ。

 ……まぁ、慈愛の緑(エメラルド)が来て

 連れて行かれたがの」


慈愛の緑(エメラルド)ねぇ……」


 俺の今世でのファーストキスを奪った女だ。

 ……唇、柔らかかったなぁ。


「……ん? なんじゃ鼻の下なんぞ伸ばして。

 気持ち悪い奴じゃな」


「えっ!?」


 慌てて顔を引き締める。

 反射でセリアの方を見ると

 ──ニコニコしていた。

 

 優しいニコニコじゃない。

 何かいいことでも? のニコニコだ。怖い。


 話を変えねば!! 今すぐ!!


「と、とにかく! みんな無事でよかった。

 幸いみんな成果を出してるし、

 一日目は順調だったと言っていいと思う!!」


 リーダーっぽいことを言ってみる。

 実際、石板を見る限り成果は十分だ。


「明日は残りの未開拓区域をみんなで調査しよう!」


「その必要は無くなりそうだよ、ヴェル君」


 背後から声。振り返ると、

 ゼノンさんとディアさんが来ていた。


「ヴェルちゃんの言う通り、

 アンタたち、かーなーりいい成果よ♡

 良くやったじゃないの♡」


 言いながらディアさんが抱きついてくる。

 

 やめろ、今人前だ。

 しかも俺の身体まだ痛いんだってば。

 必死に抵抗している俺の横で、

 ゼノンさんが続けた。


「十分貢献したと言える。本来なら明日も。

 と、言いたいところなんだがね。

 明日は私たちの出番はほぼないと言っていい」


「出番がないってどういうことですか?」


 セリアが首をかしげる。

 

 ディアさんはむくれ、

 ゼノンさんは少し笑ってから教えてくれた。


「犠牲者も結構出たからね。

 明日は“ダンジョン探索のスペシャリスト”が

 ここに来ることになったらしいんだ」


 一息置いて、ゼノンさんはさらっと言う。


「この遺跡ダンジョンでも、

 たった一人で踏破できるS級冒険者。

 人形姫、リーゼロッテがね」


 ……は?


 俺の頭の中で、理解が一拍遅れて爆発した。


 S級、また増えるの?

 しかも“人形姫”。

 名前の圧がもう強い。


 嫌な予感と、ワクワクと、

 ちょっとした恐怖が、胸の中で同時に鳴り始めた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ