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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0088.基礎こそ至上



 視点:アノン


「うげぇ、なのじゃ。

 こやつ、あの化け物の仲間じゃな?」


 笑い方が気に食わぬ。

 何より、自分が“賢い”と疑いもなく思っておる。


「そうだね。狂人の集いの一人だよ」


 父上が淡々と答えた。

 その声が静かなぶん、背筋に冷たいものが走る。


 慈愛のエメラルドは化け物じゃった。

 骨が折れても恍惚と笑い、痛みに愛を見出す。

 その同格なら、まともなわけがない。


「おやおや、これはこれは。

 かの大賢者と、そのご令嬢か」


 知恵のアメシストが、

 紫のオーブを指先でくるりと回しながら、

 芝居がかった口調で言う。


「怖いのかね? アノン嬢。

 恐怖とは無知から生まれる。

 愚か者は生きる価値がない。

 大賢者のご令嬢とは思えないほど

 君は……凡作なのかい?」


 ……なんじゃ、この無礼者。

 

 父上に頼んで消してもらおうかのぅ。

 父上は優しいが、怒らせれば、

 世界の天井をぶち抜くぞ?


 妾を愚弄するのは、まぁ、許してやろう。

 妾は寛大じゃ。寛大なのじゃ。


 じゃが。


 父上は違った。


「凡作……? アノンが……かい?」


 父上の声が、微かに低くなる。

 空気が一段、冷えた気がした。

 あっ、これは……激おこじゃ……。


「こんなに可愛くて、才気あふれ、

 どこに出しても誇りはあれど恥はなく、

 立てば星々、座れば太陽、歩く姿は白銀の月!

 そんなアノンが凡作だと、君は言うのかい!?」


「い、言い過ぎなのじゃ!」


 むず痒いのじゃ! 照れるのじゃ!!

 だが父上は止まらぬ。目が本気だ。


 じゃが、知恵の紫は鼻で笑った。


「この親にして、この子ありってところか。

 期待外れだよ、大賢者。

 盲目ゆえに何も知らないのだろうね」


 ……。

 今、父上を盲目と言ったか?


「貴様、父上を愚弄したのぅ?」


 胸の奥が熱くなる。

 よりによって、天下の大傑物である父上を!!


「第三時代にこの人ありと謳われ、

 かの四大国が頭も上げられず、

 まさに天を知り地を統べたのにも関わらず、

 謙虚かつ柔和な父上に期待外れ?

 ちっぽけな貴様なんぞの期待なんかで、

 偉大な父上を測るでない! この愚か者が!!」


「ふふっ、過大評価だよアノン……」


 父上が少しだけ照れたように目をそらす。

 可愛いのじゃ。

 だが、今はそんな場合ではない。


「これでも控えた方じゃ。父上を表すに、

 この世の語彙は足りなすぎるのじゃ!」


 妾が叫ぶと、アメシストは目を細める。


「繰り返そう。

 この親にしてこの子あり、だ」


「な、なにおぅ!?」


 この女、ズタズタに引き裂いてくれるわ!!


 妾が杖を握り直した瞬間、

 父上が手のひらを軽く上げた。

 止める合図。

 妾の身体が、条件反射で止まる。


「落ち着きなさい、アノン」


 父上の声は穏やかだ。

 だが、内側に鋼が通っておる。


「アノンのおかげで私は落ち着いたよ。

 彼女を許すつもりはないが……ね」


「でも、父上をも愚弄するのは許せないのじゃ!」


 父上は、ふっと息を吐いた。


「素数でも数えなさい。彼女は教育に悪い」


 ……素数。

 

 あの異世界の神父どもが、

 落ち着く時に数えるやつじゃな?

 腹立つが、父上の言うことは絶対じゃ。


「ここは私一人で戦うよ。

 ……何か隠してるようだしね」


 父上が一歩前へ出る。

 妾は唇を噛んだ。

 

 共に戦うと言ってくれたのに。

 だが仕方ないのぅ。

 父上の“勘”は外れたことがない。


「二、三……五……七……十一……」


 素数を数え始める。

 落ち着け。落ち着くのじゃ。

 妾は紅蓮の大魔導師。父上の娘。

 ここで騒ぐのは恥じゃ。


 父上がアメシストへ視線を向ける。


「さて、アメシスト。

 死ぬ決意は出来ただろうか?」


「無知もここまで来ると清々しい。

 私に挑むなど、勇気と無謀の差も知らないか?

 君はノミと同類だよ?」


「ふむ。ノミと同類……か。

 私が君と戦うのは勇気からではないのだが」


「十三……十七……十九……二十三……」


 数える。数える。心を落ち着かせる。

 

 父上の背中は静かで、

 ただそれだけで勝利が近いと分かる。


 父上が高らかに叫ぶ。


「エルフの矜持は、知恵の矜持!

 エルフの素晴らしさは、知恵の素晴らしさ!」


 き、聞いたことあるような名台詞じゃあ!!



視点:ゼノン


 さて、と。

 アメシストか。


 聞いている話では、私と同じ魔導師型。

 だが、先に“勝った気”になっている者は、

 総じて足元が甘い。


「真空のスクエアホロウ


 彼女が唱える。

 

 空気が一瞬、抜け落ちた。

 四角い境界が形成され、

 内側の空間だけが切り取られる。


 音が遠くなり、肌の感覚が薄くなる。

 真空で“囲う”魔術。なるほど、嫌な一手だ。


 次に来るのは、圧力差を利用した爆縮。

 アノンの爆炎旋風・核と似た系統だろう。


臨海爆縮インプロージョン!」


 内側の空間が潰れ、圧が一点へ収束する。

 

 だが、その“核”となる反応は、

 結局のところ、基礎法術で制御できる。


「土の女神よ、風の女神よ」


 保持で“原子”を守る。

 循環で真空の境界をほどく。

 圧の差を均し、檻は消えた。


 アメシストの顔が歪む。


「なんだと?」


「……簡単だよ。

 その魔術は原子核の連鎖による反応が肝だ。

 ならば原子核を保持で守れば良い。

 真空は循環で相殺した。他に疑問はあるかい?」


「……たかだか基礎法術で防いだだと?」


「うーん。基礎こそが至上。

 それを応用するのが知恵じゃないのかい?」


 私は少しだけ肩をすくめた。

 この程度で“知恵の紫”は名乗れないのでは?


「ならば、これはどうだ!

 雷電槍(ライトニングボルト)!」


 紫のオーブが光り、電位差が生まれる。

 槍の形を取った雷がこちらへ走る。だが。


「水の女神よ」


 調和。

 電位差が消え、雷は霧散する。


 アメシストが歯噛みする。


「おのれ……!」


 弱いものいじめは趣味ではない。

 

 だが、アノンの前だ。

 講義の機会としては悪くない。


「雷とはプラスとマイナスによる電位差から

 生まれるエネルギーだろう?

 なら、水の調和でその電位差を均せばいい。

 違うかい?」


 わざと、少しだけ丁寧に言ってやる。

 だが、気になるのは別だ。


 視界の端。

 古代機巧大蛇エンシェントギアサーペント


 動いている。

 だが、遅すぎる。

 本来の性能が抑えられているのか、

 それとも“何かを待っている”のか。


「ふふふ、はははははっ!! 面白い!

 良いだろう、認めよう!!」


 アメシストが急に笑い始める。

 妙に芝居がかっている。

 狙っているなら大したものだね。


「これはどうだ? 大賢者!」


 彼女が一気に距離を詰めてきた。

 活性と循環。ヴェルくんの滑走に似た速度だ。

 悪くない。が、近接に寄れば勝てるとでも?


 その瞬間。


『ドゴォッ!』


 私の背と側面に、土の壁が盛り上がった。

 退路を潰す。閉じ込めて、何かを当てる。

 意図は見える。


 私はバリアを張る。

 今回は、慎重に。ヴェルくんの時のように、

 油断して簡易なもので“抜け”は作らない。


 ……はずだった。

 バリアが張られない。これは……抑制?


「ふはははは! 愚か者め! 土の負術!!」


 アメシストの手が、私の腕を掴む。


 ぞわり、と嫌な感覚。

 皮膚の下の“形”が崩れていく。

 砂のように、灰のように。


 ――なるほど。これが狙いか。


 背後で、素数を数えていたアノンの声が

 ……途切れた。


「ち、父上!!!」


 そして、娘の悲鳴が。遺跡にこだました。


 



 

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