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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0085.古代機巧陸亀

 


 視点:ヴェル


 どうやら古代機巧陸亀エンシェントギアトータス

 バカじゃないらしい。

 

 ビームも、火炎放射も効かなかった。

 そう判断したのか、口元の筒は引っ込み、

 甲羅の砲口も閉じる。


 ――沈黙。

 

 ただ、あいつの目の光だけが、

 俺たちを測るように揺れていた。


 その隙に、俺たちは距離を取りながら、

 警戒を解かずに作戦を組み立てる。


「破壊は禁止、って言ってたけどさ。

 ……ゼノンさん、言ってたよな」


 脳内にその声が再生される。


『私であれば、土の保持で封殺できる。

 ディアなら──已む無く“抜き取る”だろうね』


 ディアさんも“建前”だって言ってた。

 つまり、目的は遺跡を守ることじゃない。

 研究に回せる“形”で残すことだ。


「目的は研究のため。

 なら、研究できる範囲を残せばいいはずだ」


「そう、だと思います」


 セリアが真剣に頷く。

 

 あの必殺技を見せた後なのに、

 浮かれた感じが一切ない。

 ここが彼女の強さだ。


「核の位置さえわかれば、

 そこを風穿一閃(ペネトレイト)で抜けば、それで終わる」


 言葉にしてみる。

 だが、問題は明白だ。


「……核の位置が、わからない」


 甲羅のどこか。胴体の奥。

 腹の下。首の付け根。

 

 わからない。

 空間把握は“位置”を掴む能力だ。

 内部構造を透視できるわけじゃない。


 その時――


「来ますっ!」


 セリアの声が跳ねた。

 同時に、俺たちは右へと動き出す。


 古代機巧陸亀はフィジカル戦法に切り替えた。

 つまり、突進と踏み潰し。


 ――亀のくせに、速い。


 ドスン、ドスンどころじゃない。

 床全体が揺れる。空気が押し潰される。

 体感はドドドドだ。

 

 全角のドドドドじゃない。

 半角のドドドドだ。圧が違う。


「ヴ、ヴェルさん!

 私、物理攻撃はちょっと……!」


「わかってる!!」


 セリアは二重活性で速度が跳ね上がっている。

 俺の風の滑走(スイフトウォーク)と遜色ない速さ。

 切り返しや急制動なら俺が勝るが、

 今は“逃げる”だけ。

 あのデカさ相手に機動性は必要ない。


 だが、広間は広い。けれど、無限じゃない。

 こちらが攻めなければ、いつかはジリ貧だ。


 しかし――条件がある。


『破壊禁止』


 この縛りが、思考の歯車に砂を噛ませる。

 大技で粉砕すれば終わる。だがそれは悪手だ。

 核を狙って、最小限で止める。

 それが、俺たちに課された“戦い方”だ。


「ど、どうしましょうヴェルさん!

 一旦引いて合流を優先しますか!?」


 セリアが息を弾ませながら叫ぶ。

 正しい判断だ。

 ゼノンさんとディアさんが合流すれば、

 これくらい即座に処理できるだろう。


「確かに、それも手だな……」


 グレイヴバードの時も撤退した。

 なす術がなかったから。


 でも――今回は違う。

 

 あの時は、やれることを全部やって、

 それでも駄目だった。

 今はどうだ? 何も試さず、逃げるのか?


 ……俺たちは何しに来た?


「セリア、撤退はまだ先にしよう」


 俺の声が、自分の耳にも不思議なくらい

 落ち着いて聞こえた。


「やれることをやって、ダメなら退く。

 遺跡踏破が目的じゃない。

 俺たちの目的は“Aランクになること”。

 遺跡踏破はそのための――目標だ!」


 目標は変えていい。諦めていい。

 でも、その前に“全力を出す”のが筋だ。


 逃げるのは切り札。

 何度も切っていい手札じゃない。

 簡単であるわけにはいかない。


「一つ、試したいことがある!」


「えっ? あっ、はいっ!!」


 古代機巧陸亀の胴体から地面までの高さは、

 二メートル弱。飛べば届く距離だ。


 俺は自分への循環をさらに強くし、

 風をもっと身体へと呼びつける。

 

 皮膚の上を滑る風が、次第に渦になり、

 俺の輪郭を薄くする。


 上がる速度。

 風を切り、摩擦を無にし、

 速く、速く――速く!!


 視界が目まぐるしく変わる。

 俺は目を閉じた。


 空間把握は視界を越える。

 むしろ目が邪魔だ。

 見える情報が多すぎると、判断が遅れる。


 最高速度。

 俺の“線”が、空間に刻まれる。


風斬一閃(レジスタンスゼロ)……!」


 魔法ナイフを頭上に掲げ、

 風の循環を刃に凝縮する。

 触れた瞬間、抵抗が消えるあの感覚。

 切るためだけの、薄い奇跡。


飛燕翼撃ザ・オーバー!!」


 俺は――飛んだ。


 ペンで紙に線を引くように、

 ナイフで古代機巧陸亀の腹を滑らせる。

 

 だが、次の瞬間。

 ──弾かれた。


 腹の下に、透明な膜。

 バリア。俺の刃が、押し戻される。

 このバリアはゼノンさんのバリアより硬いのか。


「チッ……!」


 その時――


「任せてください!」


 響くセリアの声。


零値点回帰アブソリュートキャンセル!」


 バリアが、消えた。

 いや、正確には“均された”。

 

 存在していたはずの現象が、

 世界の熱量と同調させられ、無へ帰っていく。


 撲殺天使ことセリアが、

 杖で叩き割ったように見えたのは錯覚じゃない。

 実際、セリアのキャンセルは“叩き消す”に近い。


 ……頼りになる天使様だぜ。


「助かる!」


 俺は空中で姿勢を切り返す。

 一線入れたところで、中身が見えるわけじゃない。

 もとより、そのつもりだった。


 切るのは“蓋”。

 開けるための線を、何本も刻む。


 風より速く、嵐より乱暴に。


 空間把握の中で、俺の軌道が描かれていく。

 空から見れば、それは――五芒星。


風斬一閃レジスタンスゼロ飛燕翼撃ザ・オーバー!」


 斬って、斬って……斬って!!


五芒星ペンタグラム!」


 腹の甲羅――いや、装甲板が、落ちた。

 ガコン、と鈍い音を立てて剥がれ、床に転がる。

 その瞬間、空間把握が“見えるもの”を拾った。


 体内の機巧。

 流れるマナの偏り。

 中心に近い“違和感”。


(……核だ)


 持ってくれ、俺のマナ!


「そこだ! 風穿一閃(ペネトレイトォ)!!」


 投げた。

 届いたのと投げたのが同時に感じる速度。

 風が“道”を作り、循環が抵抗を消す。


 ナイフは真っ直ぐに核を貫き

 ――亀を抜けて、そのまま壁へめり込んだ。


 グゥウウウン、と低い唸りを上げながら、

 古代機巧陸亀が傾く。

 

 巨大な胴体が、ゆっくり倒れ込む音が、

 広間の空気を震わせた。


 ……勝った。


 そう思った瞬間――


 俺の身体、いや、マナも限界を迎えた。

 慣性に逆らえない。

 風の滑走(スイフトウォーク)が切れたのか、

 風の支えが消え、俺はそのまま壁へ激突した。


「ぐっ……!!」


 強い痛み。

 胸の奥が潰れ、息が抜ける。


「ヴ、ヴェルさん!?」


 セリアの声が聞こえたような、

 聞こえてないような。

 視界が暗くなる。

 思考に、帷が降りてくる。


 ――でも、最後に一つだけ確信があった。


 俺たちは、二人でも戦える。

 そして、二人だからこそ出来た。


 その確信ごと、闇に沈んでいった。



 

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