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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0082.古代機巧巨人

 


 視点:カルド



 幸か不幸か。

 古代機巧巨人エンシェントギアゴーレムは“歩かない”造りらしい。


 鋼鉄の脚は床と噛み合うように据え付けられ、

 動けない代わりに上半身の出力だけで

 世界を叩き潰す設計なのだろう。

 立ち上がってからずっと拳の軌道がぶれない。


 俺は盾を前へ出し、腹の奥に力を沈める。

 

 不動明王・かまえ


 ヴェルが名付けたその言葉が今はありがたい。

 地に足を縫い付け衝撃を“流さず”受け止める。

 

 保持と活性で身体を固める感覚が、

 ようやく骨の奥まで馴染んできた。


 見た目は子供と巨人の喧嘩だ。

 

 だが、俺の目の端で踊る赤褌の化け物が、

 何よりの説得力だった。


 俺は、ディアモンテの拳を

 何度も何度も受け続けて来たんだ。


 なら、古代機巧巨人の打撃程度で

 俺が崩れるわけがない。崩れてはいけない。


「カルドちゃん! アンタは壊しちゃダメよ〜

 片腕は残しとかなきゃだし、

 核は抜き取れないんだから♡」


 ディアモンテが、

 通路側で雑魚を蹴散らしながら叫ぶ。


 兵士型ソルジャー猟犬型ハウンドが寄ってきては、

 あいつの一振りで壁に飾り直されていく。


 俺は盾越しに巨人の拳を受けながら、

 舌打ちしたい気分になる。


「じゃあどうしろって言うんだ」


 苛立ちは増していく。

 

 不動明王・かまえは無限じゃない。

 マナを燃やす以上、底はある。


 アノン達みたいに器用に取り込めない俺は、

 使うほどに削れていく感覚がわかる。

 熱でなく、骨の内側から乾いていく感覚だ。


 二十三、二十四……。


 俺は無意識に打たれた拳の数を数えていた。

 穴の中で数えていたのはヴェルだけじゃない。

 やることがないと人間は勝手に“区切り”を作る。


 ヴェルに憧れて真似した癖が、

 時を超え、今になって役に立っているようだ。


 三十七、三十八……。


 情報が足りない。

 核を抜けない、壊すな、片腕残せ。

 

 条件だけ増えて、突破口がない。

 ヴェルなら、ここで何かを見つけていた。

 坑道でも、あいつは自然に班を動かしていた。

 俺は指示される側に慣れすぎていたようだ。


 ……だが、今はいない。

 頼り切るわけにはいかん。


 四十九、五十……。


 俺は自由の風。

 不撓不屈のカルド。

 

 ここで折れたら、俺は俺を許せない。

 

 例え、不動明王が切れようと。

 例え、この身が壊れかけようと。

 俺が先に音を上げるわけにはいかない。


 五十八、五十九……。


 うつしは危ない。

 衝撃を返せば、拳どころか腕まで歪む。

 つどいも、タイミング次第で壊しすぎる。

 なら、探る。守って、観察して、

 この巨人の崩せる場所を探すしかない。


 六十五、六十六……ん?


 拳の速度が、落ちている。

 僅かだが確かに。

 

 振り下ろしの間が伸び、駆動音が掠れてきた。


 ……こいつも無限じゃないのか。

 動力源が尽きるか、蓄積が熱で鈍るか。

 どちらにせよ、長引けば“奴が”崩れる。


 俺は盾の角度を変え、

 かまえを一瞬だけ解いた。足が重い。

 自慢じゃないが俺の脚は速くない。


 だが、いま必要なのは速さじゃない。

 隙間に身体をねじ込む意志だ。


 次の拳が落ちる瞬間、

 もう一度だけ腹を締める。

 不動明王・かまえ

 受け止め、衝撃の“形”を掴む。


 拳が戻る。

 そのわずかな間に、俺は鋼鉄の脚へ前進した。


「片方があれば……いいんだよな」


 腕は片腕は残したから良いと言っていた。

 なら、同じだ。まずは片脚を殺す。

 歩けない設計なら、脚は“土台”だ。


 土台が歪めば上は傾く。

 核に手が届かなくても倒して無力化できる。


「不動城塞……つどい!」


 名はまだしっくりきていない。

 だが叫ばないと身体がついてこない。

 盾を振り抜き、着弾の瞬間に全身を固める。

 移動の勢い、腕力、重力、全部を一点へ。


 鈍い音。

 脚が“凹んだ”。


 凹んだだけだ。

 だが、凹むなら、折れる。


 次の拳が落ちる。

 

 俺はかまえで受ける。七十。

 手が痺れる。肩が焼ける。

 だが、足は滑らない。


 そして、拳がまた振り上げられる。


「不動城塞……つどい!」


 凹みが深くなる。

 鋼の表面が歪み、巻き付く鉄の帯が軋む。

 繰り返す。殴られ、殴り、殴られ、殴る。

 

 数はもう途中で消えた。

 残るのは衝撃と呼吸。

 そして、腹の奥に残った意地だけだ。


 ……やがて。

 古代機巧巨人の上体が、僅かに揺れた。


 そして、ひしゃげた脚が悲鳴を上げた。

 

 奴のその巨体が傾く。

 剥がれた鉄の隙間から見えたのは、木。

 硬そうな樫の丸太に、鉄を巻き付けている。

 軽さと硬さを両立させるための構造か。


 木なら砕ける。

 中に機巧がないなら壊しても違反にならない。


「不動城塞……つどい!」


 もう一撃。

 丸太が割れ、巨体がさらに沈む。

 拳が落ちてくるが、俺の感覚は慣れた。

 恐怖より、作業みたいな執念が勝つ。


 残る脚へ。

 同じことを繰り返す。


 身体の力が抜けていく。視界が狭くなる。

 喉が鉄の味を覚える。

 それでも、俺は盾を振った。


「俺が、不撓不屈だ」


 どれだけやったかわからない。

 勝てたのか、すぐには判断できなかった。


 ただ、気づけば。

 古代機巧巨人が“倒れて”いた。

 

 片腕は残っている。

 胸部はディアモンテが抜き取ったまま。

 機械の目は、虚しく点滅していた。


「んふふ〜♡

 ナイスガッツね。カルドちゃん♡」


 ディアモンテが、いつの間にかすぐ横にいた。


 息一つ乱していない。

 雑魚の残骸が遠くに転がっているのが見える。


 俺は膝に手をつき、肩で呼吸しながら言った。


「ヴェルみたいにスマートにやれねえんだ。

 待たせて悪かった」


 そんな俺の言葉に、

 ディアモンテが妙に柔らかく笑った。


「……何言ってるのよ。惚れ直したわ♡

 泥臭かろうと関係ないじゃないの。

 むしろ、アタシのタイプよ?

 こういう漢らしい戦い方って……さ♡」


「……勘弁してくれ」


 俺は、ヴェルみたいになりたい。

 

 だが、なれないものに

 縋り続けるわけにもいかん。


 俺は俺のやり方で、並ぶ。

 

 並んだと言い切るのはまだ早いが、

 少なくとも“ここで倒れなかった”事実は、

 これからの俺の足場になる。


「でも……。流石よ? 不撓不屈ちゃん♡」


「ただの諦めの悪い男ってだけだ」


 俺は倒れた巨人を見下ろした。

 

 焦げた石片の匂いが鼻につく。

 道の向こうはまだ遺跡が続く。


 どれだけ続こうと。

 諦めることは、ない。


 


 VS 古代機巧巨人エンシェントギアゴーレム

 

 ──勝者 不撓不屈 カルド。



 

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