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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0081. カルド&ディアモンテ

すみません予約が夜になってました……



視点:カルド


「んまぁっ! 大当たりじゃないのよぉ〜♡」


 ディアモンテの声が、やけに反響する。

 

 広間、というよりも、天井の高い“空洞”だ。

 石造りの壁はところどころ黒く焦げた跡がある。

 

 床には砕けた石片と古代機巧の欠片。

 踏めば乾いた音が鳴り、

 静寂の中でそれがやけに大きい。


 俺たちが近づいた先には、確かに“何か”がいた。


 巨大な影が、鎮座している。

 いや、鎮座という言葉が似合うほど、

 そこに“置かれている”。


 古代機巧巨人エンシェントギアゴーレム

 

 名前だけは聞いていたが、

 実物を見ると笑いも出ない。


 城門ほどの背丈。肩は梁のように張り、

 腕は樽を三つ積んだような太さだ。

 装甲は黒光りし、関節の隙間に走る金属の筋が

 妙に生物じみた気味悪さを醸している。


「確かに大きくて……硬くて……ご立派ねぇ♡

 いやぁん! しかも黒光りしてるわぁ♡♡」


 ディアモンテが、目を輝かせて言う。

 こいつの口から出る言葉はいつだって不穏だ。


「ねぇねぇ、カルドちゃん♡

 まずはアタシに戦わせてちょうだい?

 お願いよぉ〜!」


 腕に絡みつかれた。筋肉の塊が、

 ぴたりと密着してくる。

 最悪だ。重い。熱い。圧が強い。


「わかったから抱きつくな」


「つれない〜♡」


 ふざけた口調のままディアモンテは前へ出る。

 

 この状況で余裕があるのは、

 素直に尊敬する。……尊敬したくないが。


「ゼノンちゃんが言うにはね、

 すっごく逞しいって聴いてるわん。

 アタシの踊る相手に相応しいかもって♡」


 ディアモンテが、突然スカートを捲るように

 ワンピースを脱ぎ捨てた。


「な、何してんだアンタは!!」


 視線のやり場に困るとかそういう次元じゃない。

 敵の前で脱ぐな。意味がわからない。


「大丈夫よ? 下履いてるもの♡」


 赤褌一丁。

 そして、筋肉。


 俺も鍛えている。鍛えてきた。

 

 だが、目の前のそれは別物だ。

 “鍛えている”という言葉の範囲外。


 筋肉の盛り上がりは鎧の板金の如く。

 皮膚の下に鉄が詰まっているように見える。

 生身のはずなのに、圧がある。威圧ではなく、

 存在そのものが武器になっている。


「さ〜て、じゃあ……始めようかしら」


 ディアモンテが歩み寄った瞬間。

 巨人の目が、青白く点った。


「──敵性反応ヲ確認。プロトコルヲ開始スル」


 金属の声が広間を満たし、巨人が動く。

 

 空気が震えた。

 石粉がふわりと舞い床の欠片が小さく跳ねる。

 

 さっきまで“置物”だったものが、

 確実に“兵器”へ変わった。


 巨木のような右腕が持ち上がる。

 そして、遠慮なく振り下ろされた。


 あの質量。

 直撃すれば、城門が壊れる。

 人間なら粉になる。


 だが。


「んっふぅ〜ん♡♡」


 ディアモンテは片足を床へ踏み鳴らし、

 左腕をすっと立てた。

 構えというより、腕をそこに置いただけ。


 次の瞬間、衝突音が来た。


『ガギンッ!!』


 鉄の扉を斧で叩いたような音。

 耳がじんと痺れる。


 そこにいたのは、

 微動だにしないディアモンテだった。

 

 踏み鳴らした足が床に突き刺さっている。

 床石を砕いて、身体を固定したのか。

 

 そんなこと、人間がする動きじゃない。


「ディアモンテ!!」


 叫びは遅い。

 ディアモンテは笑っていた。


「危険レベルヲ訂正。脅威度ヲ……

 準英傑レベルへ変更スル」


「準英傑だなんて光栄ねぇ♡」


 巨人が拳を連打する。二撃、三撃、四撃。

 拳が落ちるたび床が震え、壁が鳴る。

 

 だがディアモンテは、

 いつの間にか手すら使わず、

 ただ、仁王立ちで受けていた。


 ……受けている。

 “受けている”のに勝っているように見える。


「んふぅ〜♡

 確かにアタシといい勝負だったわね。

 昔、聞いた時のアタシ……なら!」


 ディアモンテが、

 振り下ろされる拳へ拳を合わせた。


 拳と拳がぶつかる。

 そして、結果が信じられない。


 古代機巧巨人の腕が砕けた。

 

 きゅうりで釘を叩いたみたいに砕け、

 金属片が雨のように降り注ぐ。


 夢かと見間違うような景色に、

 俺の口から出たのは、感想ですらない。


「壊して良かったのか?」


「いいのよ♡

 右手がなくても左手があるじゃない?

 片腕なんてなくても研究とやらには

 なーんにも影響ないわ♡」


 そう言って、床から足を引き抜き軽く跳んだ。

 

 そして、ひしゃげた右腕の付け根へ

 踵落としを叩き込む。


 豆腐に箸を落としたみたいに、右腕が落ちた。

 音が軽いのが、逆に怖い。


「もう、今のアタシじゃ話にならないわ♡

 十年前だったら熱ぅ〜い勝負出来たのに。

 んもぅ、ザンネンねぇ♡」


「──破損甚大。修復プロト……」


「何言ってんのよぉ〜♡」


 ディアモンテが胸部へ拳を突き入れた。

 装甲が割れる。

 中から四角い板のようなユニットを引き抜く。


 巨人の動きが一瞬、鈍る。


「いや、だから壊していいのか?」


「ダメよ♡ でも綺麗に部品を取ったから。

 アタシはいいの♡」


 ディアモンテはそれを人差し指で

 今日にくるくると回し、無邪気に笑う。


「さて、と。これが、アタシの力よ?

 『愛裸武勇アイラブユー

 肌を露出すればするほど力が高まるの♡」


「気持ち悪い力だな」


「いけずねぇっ!」


 内容は最悪だが、強さは本物だ。

 

 俺の中で、冷静な計算が告げる。

 今の俺では、この男に勝つ道はない。

 勝負にならない。


 例え盾を構えても、

 拳で粉にされる未来しか見えない。


 ディアモンテは、急に真面目な目をした。

 いや、真面目に見えるだけで服は着てないが。


「とまぁ、そんなわけで。

 こっからはカルドちゃん、アンタの出番よ♡

 修復機能は潰しておいたわ。

 あとは壊さずに相手をしてあげなさ〜い?」


 ディアモンテがワイ字バランスを始める。

 

 ふざけているようで、周囲へ目は向いている。

 状況の把握が早い。

 こいつは戦闘狂だが、馬鹿ではない。


「理解不能。対処不能。応援ヲ要請……」


 金属の足音が増える。

 通路の奥から、複数の反応。

 兵士型ソルジャー猟犬型ハウンドだろう。

 ディアモンテが楽しそうに舌を鳴らした。


「雑魚はアタシに任せなさーい♡」


 ディアモンテが足を水平に振り抜く。

 

 それだけで、兵士型が壁へ叩きつけられ、

 猟犬型が空を飛ぶ。

 

 丸太で薙いだみたいな軌道。

 団扇で仰いだみたいな軽さ。

 強い。強すぎる。


「強者個体以外ノ個体、殲滅ニ入ル……!」


 巨人の視線が、俺へ向いた。

 青白い光が、狙いを定める。


 片腕を失っている。修復機能も切られた。

 それでも、圧が消えない。殺意が消えない。

 空気が、俺の肩へ乗るみたいに重い。


 俺は盾を構え、深く息を吸った。


 地に足をつけろ。腹に力を入れろ。

 押されて靡くな。引かれて追うな。

 大地を味方につけて、動かざる山となれ。


 ジュラの言葉。

 そして、ヴェルが名付けてもらった“型”。


 不動明王・かまえ

 名前がどうであれ、やることは一つだ。


「……相手をしよう。俺の名はカルド。

 不撓不屈のカルドだ」


 俺がそう告げた瞬間、巨人が踏み込んだ。

 床石が砕け、重量の波が押し寄せる。


 俺は腹に力を入れ、足裏で地面を噛んだ。

 マナが、土へ沈む感覚。

 身体の輪郭が、重くなる。

 自分が“そこに固定される”。


 巨人の左拳が、叩き落ちてくる。


 俺は盾を前へ。

 受ける。

 耐える。

 ただ、耐える。


 衝撃が来た。


 腕が軋む。骨が鳴る。

 だが、足は滑らない。

 床が沈む。石が割れる。

 それでも、俺は動かない。


 守りきれ。


 ディアモンテの笑い声が遠くで響く。


「いいわよカルドちゃん♡

 その顔! その意地! そういうの好きよぉ♡」


 好きとか言うな。

 俺は歯を食いしばり、視線を上げた。


 目の前の巨大な機械が、次の拳を振り上げる。


 

 ……戦いは、始まった。



 

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