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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0080.分断



視点:アノン


「バラバラになってしまったようだね」


 父上の声は穏やかだった。

 その穏やかさが、逆に胸へ刺さる。


「ごめんなさいなのじゃ……」


 妾は唇を噛んだ。

 

 何をどう言い訳しても、

 妾が不用意に踏み込んだのは事実じゃ。


「いや、気にすることはない。

 あの類はディアでさえ踏むだろうから」


 父上はあっさりと言った。

 

 あっさり。

 だからこそ──妾の心はさらに締まる。


 今の言い方だと、

 父上なら踏まぬということじゃ。

 

 父上の娘である妾も、

 踏まぬ者にならねばならぬ。

 

 父上の隣を歩くなら、足元の罠くらい、

 当然見抜けて然るべきなのだ。


「ふふ、アノンは反省できる子だからね。

 少しずつでいい。それよりも、だ」


 父上は笑い、そして笑みを引っ込める。

 柔らかな瞳が、刃のように鋭くなる。


 今、妾たちがいるのは──

 長く伸びる回廊の途中だった。

 

 石床に細い亀裂が走り、

 ところどころに古い刻印がある。

 

 前方には、少し開けた広間が見える。

 

 振り返れば、闇へと吸い込まれるよう

 真っ直ぐな廊下が続き、光は薄い。

 

 遺跡の空気は冷え、

 静かすぎて心臓の音が耳についていた。


「広間の方に何かいるね」


 父上がゆっくりと言った。

 まるで、学者が未知の標本を

 見つけた時のような口ぶりで。


「そもそも、あの魔法陣は感知式じゃない。

 仕掛けられたものではなく、発動されたもの。

 私も見たことない古代機巧エンシェントギア

 いるのかもしれない。ここのボスとして、ね」


 父上の瞳に灯っているのは、

 不安でも懸念でもない。

 

 純粋な好奇心。

 愉悦。

 ワクワク。

 

 ……昔からずっと、父上はこうじゃ。

 だからこそ、父上との旅は不安がない。

 

 どんな危険があろうとも必ず打開策がある。

 妾はそう信じてしまえる。

 やっぱり父上は最高なのじゃ!


「アノン、一つ提案がある」


「なんじゃ?

 父上の提案なら何でも聞くのじゃ!」


 即答した。

 

 言った直後に、

 自分の声が少し上ずっていたのに気づいて、

 ほんの少し、頬が熱くなる。


「さすが私の娘だね」


 父上は一拍置いた。

 その間が、妙に長く感じた。


「──今までのアノンとの旅は

 『見ていなさい』と後ろに下がらせていた。

 だが、もう立派な冒険者だ。

 私とともに戦ってくれるかい?」


「あっ……」


 声が出なかった。

 胸が、きゅっと縮む。


 父上が、妾と。

 妾を“娘”ではなく、“戦力”として。

 “仲間”として。


 今、確かにそう言ったのじゃよな。


「も、勿論なのじゃ!!」


 言えた。

 叫ぶように言ってしまった。

 それでも、父上は笑わない。


「頼りにしてるよ、アノン」


 父上の眼が──変わっていた。

 

 妾を甘やかす目ではない。

 親バカの目でもない。

 

 同じ戦場に立つ者へ向ける、

 静かな信頼の目じゃった。


 妾の背筋が自然と伸びる。

 熱が全身に巡り、指先まで力が宿る。


「行こう。せっかくバラバラになったんだ。

 私たちが一番に奥へと行こうか」


「……あやつらは大丈夫じゃろうか」


 言葉が、漏れた。

 

 妾の中にはまだ、

 あの遺体の光景が焼き付いておる。

 

 穴の空いた身体。散らばった臓。

 冒険者の末路。夢の裏側。


「心配ないよ、アノン。

 たとえ、一人になったとしても、だ。

 彼らは私とディアが鍛えたんだよ?

 むざむざとやられるほど柔に育ててないよ」


 父上は歩き出しながら、淡々と言う。

 淡々なのに、声には確信がある。


 それでも、不安は拭えない。

 心配は途切れない。

 妾はまだ、強くない。


 そんな妾の心を読んだように、

 父上は振り返り、頭を撫でた。

 子ども扱いではない。

 励ますための、短い触れ方。


「断言する。彼らは死なない。

 まあ、怪我くらいはするかもね。ハハハ」


 父上の笑い声が、冷たい回廊に軽く響く。

 妾は、思わず苦笑する。


「そうじゃな! 妾の弟子じゃからな!!」


 そう言った瞬間、

 胸の奥の重さが少しだけ軽くなる。

 

 父上がそう言うなら、

 怪我くらいはするんじゃろう。

 ……まあよかろう! 生きて帰れば勝ちじゃ!


 妾は杖を握り直し、父上の隣へ並ぶ。

 広間の影が、近づく。

 そこに潜む未知が、こちらを待っている。



視点:カルド


 静かだ。

 静かすぎる。


 遠くで水が滴る音がする。

 石の匂いと、乾いた空気。

 足音だけが、通路に反響して戻ってくる。


 アノンとゼノンが消えた。

 ヴェルとセリアも消えた。

 そして俺の隣には──


「んまぁ〜、二人きりになっちゃったわね♡

 カルドちゃん、デートって奴よ?

 緊張しちゃうわぁ♡」


 ディアモンテがいた。


「……勘弁してくれ」


 短く返す。

 こういう相手には、短く。

 会話を伸ばせば負ける。


 しかし、ディアモンテは笑いながら

 楽しそうに歩調を合わせてくる。

 

 フリフリの服が、

 遺跡の空気にあまりにも場違いだ。

 場違いすぎて怖い。


「まぁ〜、アレはトラップ式じゃなくて、

 発動式だったからねぇ。

 誰かがアタシたちを見てるってことねぇ♡

 エッチなおませさん♡」


「発動式?」


 聞き返してしまった。

 最小限の情報は必要だ。

 

 俺はヴェルと違って、

 勢いで進むタイプではない。


「えぇ、そうよ。

 おそらく古代機巧のボスの仕業ね♡

 ゼノンちゃんからも聞いたことない

 多分、今までの上位タイプの新種よぉ♡

 ワクワクしちゃう♡♡」


 “ワクワク”という単語が、

 ここまで不吉に聞こえるのは初めてだ。

 だが、ディアモンテが浮かれているのは

 悪いことばかりでもない。

 

 この男は──強い。

 強すぎるほど強い。

 それがいる、という安心感が確かにある。


「ふふっ。よく考えたら

 カルドちゃんと二人になるの初めてよね?」


 ディアがこちらを覗き込んでくる。

 顔が近い。濃い。圧がある。


「そうだな。変なことは考えるな」


「んもぉ! 変なことって例えば?

 どんなことなのかしら!? ンフッ♡」


 俺は深呼吸し、目を前へ固定する。


「……いくぞ」


 余計な相槌は打たない。

 反応した時点で相手の土俵だ。


 俺は歩みを進める。

 ヴェルはすぐに相手のペースに飲まれ、

 軽口を返して翻弄される。

 

 あいつはそれで生き残ってきた部分もある。

 が、俺は同じやり方を選ばない。

 それで失敗したところも何度も見たからだ。


「ほんっとにクールなんだから♡」


 背後から甘ったるい声が追ってくる。

 

 無視する。

 無視が一番効くと、ここ一ヶ月で学んだ。


 だが、無視しても消えないものがある。

 通路の先に漂う、わずかな違和感。

 空気の密度が変わる。

 足元の刻印が増える。

 そして、微かに……金属が擦れるような音。


 敵がいる。

 それも、おそらく近い。


 俺は盾を構える。

 ディアは、肩を回す音を鳴らす。


「ねぇカルドちゃん♡

 あの子たちがいないのは寂しいけど……」


 ディアの声が、少しだけ低くなる。

 ふざけた声色の奥に、戦う者の芯が覗く。


「二人でも、十分よね?」


「……あぁ」


 それだけ答えた。

 俺の中で、余計なものが静かに落ちる。


 目の前の闇の向こうにある広間へ。

 俺は、足を止めずに進んでいった。



 

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