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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0079.頭を怪我された?



 

 俺たちは順調に遺跡を進んでいた。


 耳に届くのは、靴底が石床を叩く乾いた音。

 天井は高く、ところどころに光る魔法灯が、

 青白く通路を照らしている。

 

 冷たい空気と、古い石の匂い。

 今にも何かが飛び出してきそうな場所なのに

 ──俺たちは、正直ちょっと浮かれていた。


「ふはははは! 余裕なのじゃ!

 案外Aランクも大したことないのぅ!」


 先頭で胸を張るアノンが、

 これでもかとフラグを立てる。


「アノンだったらSランクもへっちゃらだよ〜」


 いつも通りな、そのアホ親子の会話は

 聞かなかったことにしつつも──

 俺たちも、気持ちは似たようなものだった。


「大したことないとまでは言えませんが……

 私たち、ちょっと強くなれたかも……?」


 セリアが、胸の前で手をぎゅっと握り

 少し照れた顔で言う。


「……まぁ、少しは悪くないのかもしれない」


 カルドは相変わらずの渋面だけど、

 声色はどこか誇らしげだ。


「何言ってるのよ♡ アナタたちは十分強いわ♡

 このアタシが保証してあげるわよ? うふ♡」


 ディアさんがドヤ顔でウインクしてくる。

 この人に褒められると、

 何だかんだで嬉しいから悔しい。


 あ〜、浮かれてんなぁ、俺たち。


 なんて、そう思いながらも。

 俺もしっかりと口元が緩んでいた。

 

 アノンほどの楽観はしていなくても──

 「この調子なら、割とイケるんじゃね?」

 なんて思っていたのは事実だ。


 だから、失敗した。


「アノン、待つんだ!」


 唐突に、ゼノンさんの声が鋭く跳ねた。


「ほぇ?」


 アノンが振り返るのと、

 彼女の足元で魔法陣がキィンと

 音を立てて輝き出すのは同時だった。


 眩い光、浮かび上がる幾何学模様。

 咄嗟にゼノンさんがアノンに飛びつき、

 その体を抱き寄せる。


 次の瞬間──二人は、その場から掻き消えた。


「アノン? ゼノンさん!?」


 セリアが悲鳴に近い声を上げる。

 

 パニック気味に駆け出して、

 二人がいた場所へ手を伸ばしたそのとき──


「待て、一旦──」


 俺がセリアの手を掴んだ瞬間。

 

 今度はセリアの足元に、

 同じような魔法陣が浮かび上がる。


「あっ──」


 情けない声を出したのを、はっきり自覚した。

 視界がギュンッと歪み、

 胃が浮くような感覚に襲われる。


 次に目に映ったのは、

 さっきまでとは違う通路だった。


 さっきよりも天井が低く、灯りの間隔も広い。

 薄暗い青白さが、より一層不安を煽る。


 握ったままの手を見下ろすとセリアの指。

 俺の手を、強く、けれど震えながら。

 しっかりと、握り返している。


「ご、ごめんなさいっ! 私のせいで!」


 セリアが、今にも泣きそうな顔で

 何度も何度も頭を下げてくる。


「いや、無事なら良いんだよ……だけど」


 俺は深呼吸を一つして、思考を回した。

 先人の知恵(アニメと漫画)をフル動員する。


 ダンジョン、転移魔法陣、

 仲間バラバラ、未知のエリア。


 ──あぁ、もう、考えるまでもねぇな。


「分断されちまったな」


「は、はい〜……」


 セリアが肩を落とす。

 

 目にうっすらと涙が溜まってて、

 見てるこっちが不安になりそうな顔だ。


 そこでようやく、

 まだ手を繋いだままだったことを思い出した。


「あ……」


 変に意識してしまった俺は、慌てて手を離す。

 ……のはやめた。多分そのほうが不安になる。


 代わりに、その手を腕相撲の時みたいに

 しっかりと組み直し、ぎゅっと握り込む。


「大丈夫だって!」


 わざと明るい声を出す。


「アノンの所にはゼノンさん。

 カルドはディアさんと一緒にいるだろうし!」


 あの後、更にバラバラになってなければ。

 まぁ、そこは敢えて口にしない。

 言うと余計不安になる。


「俺にはセリアが付いてるし……

 セリアには俺がついてる。だろ?」


 少しだけ照れくさくて、

 最後は誤魔化すように笑った。


「は、はいっ!」


 セリアの頬がぱっと赤くなって、

 すぐに花みたいな笑顔が咲く。

 

 さっきまで潤んでいた目に、

 今度は力が宿っていた。


「あっ、でも!!」


「でも?」


 もじもじと足元を見つめ、

 セリアは小さな声で続ける。


「二人きりなので、その……」


 えっ、えっ!?

 まさか、これは──セリアルート!?


 俺の中の前世のオタク脳が、全力で騒ぎ出す。


「絶っ対、無茶だけはやめてくださいね?」


 い、いつもの奴ぅ!!!


「……俺、そんなに無茶してるっけ!?」


「出会いがアレでしたから……」


 アレ、ってのは最初の奴。

 イノシシダイブのことだろう。

 

 セリアを庇って飛び込んで、

 俺だけ盛大に轢かれた、あの日。


「いや、あれは無我夢中で……」


 言い訳っぽくなってしまう。


 そんな他愛もないやり取りをしながら、

 俺たちは歩き出した。

 

 空間把握を広げて周囲に敵影がないのを

 確かめながら慎重に、しかし足は止めない。


「ヴェルさんはカルドさんと違うので、

 無茶はしちゃダメなんですよ?」


「いや、カルドだって怪我するときはするぞ?」


「そうなんですか?」


 セリアがぱちぱちと瞬きをする。


 俺は、坑道時代のことを思い出した。


「ラグアスっていう、

 俺たちの弟みたいなヤツがいてな。

 一回、荷台を倒したことがあったんだ。

 身体が小さかったから、横転させて」


 あれは、たしか三年前くらい。

 あいつがまだ十歳前後の頃だ。


「カルドがラグアスを助けようとしてさ。

 横から飛び込んで、自分の荷台を放って、

 代わりに荷台を受け止めに行ったんだ」


「え……」


「で、ラグアスを押し出すようにしてな。

 でも受け止められるわけも無く……。

 二台の荷台がカルドに倒れ込んだ。

 あっ、ダジャレじゃないぞ?」


 セリアがクスッと笑いかけて、

 慌てて口元を押さえる。

 笑いのツボが浅いタイプだ、やっぱり。


「どうなったんですか?」


 そこはちゃんと真面目な声で聞いてくる。


「荷台は砂や岩の欠片が乗ってて結構重いんだ。

 下敷きになったら骨折じゃすまない時もある。

 環境も悪いし、感染症とかもあるしで、

 普通なら大ごとになる」


「えっ! じゃあ……!?」


「あぁ、カルドは怪我をした」


 あの時の光景が、ありありと蘇る。

 沈黙を切り裂くように、粉塵の中から。

 カルドはゆっくり立ち上がって──


『足、くじいちまった』と。


「足を……くじいた??」


 セリアがポカンとした顔をして、俺を見る。


「あぁ。最初は俺も強がりだと思った。

 アイツ『冷やせば治る』とか言ってさ。

 で、その日。アホみたいにふーふーしてた」


「も、もしかして……頭を怪我されたとか?」


 さり気なくカルドはディスられてる。


「そしたらさ、次の日ほんとに治ってたんだ。

 びっこ引いてたのがケロッと。

 あれ、これやっぱカルドすげぇって話か?」


「ふ、ふふふっ……あはははは!」


 セリアが堪えきれずに吹き出した。

 

 肩を震わせて笑いながら、

 目尻に涙を浮かべている。


「……やっぱり流石ですね、カルドさん」


 笑い終わって、ぽつりと呟いたその一言。

 頬が、ほんのり赤い。


 ん? なんか、今の言い方……。

 ちょっと特別感なかったか?


 えっ? セリアルートはカルド!?


 胸の奥が、ちくっとした。

 納得いかねぇ……と一瞬だけ思いかけて──


 でも、もしカルドに春が来るのなら、

 それはそれで悪くないか、とも思う。

 

 あいつはずっと、誰かの盾になってきた。

 

 そのあいつに「流石ですね」なんて

 笑顔を向けてくれる人がいるなら──

 それは素直に、祝ってやりたい気もする。


 俺はニヤニヤしながら。

 セリアは柔らかく微笑みながら。


 青白く光る遺跡の通路を。

 奥へ、奥へと進んでいくのだった。



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