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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0078.名前が長い



 その後も、交戦は続いた。

 けれど──正直、驚くほど順調だった。


 兵士型が通路の陰からカツ、カツと現れ──


「不動じ──」


「んふっ♡ 寝てなさ〜い♡」


 カルドの一歩前に、

 ディアさんの拳が突き出される。

 ただのパンチ。名前も詠唱もない、雑な一撃。


 なのに兵士型の頭部は、

 軽く叩かれたみたいな音を立てて、

 そのまま胴ごと壁にめり込み、

 ガラガラと崩れ落ちた。


「……」


 カルドが口を開きかけたまま固まる。

 「不動じ」の続きは、虚空に消えた。


     ◇


 少し進むと、今度は曲がり角の奥から

 猟犬型が三体。


 ガキガキと金属を擦る音を響かせながら

 俺達に向かって飛び出してきた。


「不動城さ──」


爆炎旋風・核イクスプロージョン・コア!」


 アノンの詠唱が被さる。

 炎と風の魔力が一点で凝縮され、

 犬型の群れを飲み込む。


 ふくれあがる球体。

 そして、無音の爆発。


 次の瞬間には、猟犬型たちは

 足の一本すら残さず消し飛んでいた。


 カルドの「城さ」も、やっぱり空気に溶けた。


     ◇


 さらに進む。

 今度は兵士型と猟犬型の混成だ。


 数はそこそこ多いが、

 今の俺たちならどうということは──


「不動城塞か──」


「ぼ、撲殺天使モードっ!」


 やっつけ感あふれる宣言とともに、

 セリアが前へ飛び出す。

 杖を構え、足元をぐんと活性化。


 兵士型の懐に滑り込み、

 杖の先端を腹部に叩き込む。


 ガイン、と派手な音が鳴り、

 兵士型の体が『くの字』に折れた後、

 そのまま床にめり込んだ。


 猟犬型が横から噛みつこうと飛びかかる。

 だが、セリアは踵を返して、

 振り向きざまのフルスイング。


「やぁっ!」


 金属の犬が、文字通り撲殺された。

 床を転がり、バラバラになる猟犬型。


「……撲殺天使モード、

 名乗らなくてもよかったんじゃないか?」


 思わず小声でツッコむと、

 セリアは「聞こえてますよ」と言いたげに

 頬を膨らませた。ちょっと可愛い。

 いや、奴は撲殺天使だぞ。考えるな。


 その時、まだ残っていた奴がいたらしい。

 物陰から猟犬ハウンドが飛び出す。


「フドウジョウサイカグラデ……(めっちゃ早口)」


 カルドが、早口詠唱で

 何かを言い切ろうとしていたが、

 それを遮るように──


風穿一閃ペネトレイト!」


 俺のナイフが風に乗って走る。


 循環を乗せた一撃は、

 飛び出してきた猟犬型の首から頭にかけて、

 音もなく貫通して吹き飛ばした。


 カラン、と金属片が遅れて床に落ちる。


「…………」


 カルドの必殺技は、またしても出番を失った。


     ◇


 そんな感じで──出てきては、即殺。


 敵にとっては理不尽極まりないだろうが、

 こっちとしてはありがたいテンポの良さだ。


「妾達に敵は無しなのじゃ!」


 アノンが鼻高々に胸を張る。


「私も……役に立てて、良かったです!」


 セリアが頬を赤くしながら微笑んだ。


 さっきの撲殺モードを思い出したのか、

 少しだけ照れている。


「んふふ〜♡ いいわねいいわね!

 アナタ達、結構やるじゃな〜い!!」


 ディアさんが、肩や頭をぽんぽん叩いて回る。


 それだけで膝が折れそうなくらい重いのは

 気のせいじゃない。


「油断は禁物だ。とはいえ、よくやってるよ」


 ゼノンさんが穏やかな声で締めた。

 褒められるのは、やっぱり素直に嬉しい。


 みんな和気あいあい、キャッキャモード。

 スキップしそうなテンションである。


 ……この男以外は。

 ──そう、俺は気づいてしまったのだ。



 最後にトドメを刺した時、

 背中に慢性的な視線を感じて振り返ると。


 そこには、ジト目の相棒がいた。


 良く考えれば、さっきから全部、

 カルドが前に出る前に倒されている。


 盾役であるはずのカルドの活躍が、

 見事なまでに削られていた。


「ヴェル。話がある」


「な、なんだ?」


 珍しく真正面から呼び止められ、

 思わず背筋が伸びる。

 怒られるのだろうか……?


 「お前、調子乗ってる」とか言われたら

 どうしよう……。


「ヴェル、もしかして、俺の必殺技……。

 名前が長いのかもしれない」


「今更!? 多分、皆気づいてたよ!?」


 思わず盛大にツッコんでしまった。

 ここまで自覚なかったのかよ。


「そうだったのか?

 なぜ教えてくれなかったんだ」


「人のネームセンスにケチをつけるのは

 マナー違反だからだよ」


 あんなの好みの問題だ。

 自分がおかしいと思っても

 押し付けるものじゃない。


 ……と言いつつ、

 心の中では毎回ツッコんでたけど。


「てか、そもそもカルドの技は防御技だろ?

 仕方なくないか?」


 前に出る、受け止める、

 そのうえで勝機をつくる。

 カルドの“本分”はそこにある。


 俺たちがトドメで倒しちゃうのは、

 言ってしまえば仕方ないのだ。


「お前だけに教える」


 カルドが少し身をかがめ、

 こそこそと距離を詰めてくる。

 でかい男がこそこそすると、

 逆に目立つんだが。


「俺は新たな必殺技として、

 派生技を二つ作った」


「マジで?」


 こいつ、そういう所だけは本当に努力家だ。


「一つ目。自身の攻撃の瞬間に

 “不動城塞神楽殿”を使い、技の反動を抑え、

 衝撃を打点のみに集中させる攻撃技」


 カルドの目が、珍しくわずかに輝く。


「不動城塞神楽殿・剛衝集鎖 -須佐之男ノ型-だ」


「長えよ!!!」


 内容はめちゃくちゃカッコいい。

 コンセプトも分かる。

 ただ、名前の情報量が多すぎる。


「二つ目。敢えて“不動城塞神楽殿”を使わず

 相手の攻撃を待ち、相手の攻撃を受ける。

 そして、相手の攻撃が着弾すると同時に発動。

 衝撃を倍加して相手に返す反撃の技だ」


 そこまで聞いて、俺の脳内では

 完全に某格ゲーのカウンター技みたいな

 絵が出来上がっていた。


「不動城塞神楽殿・月面鏡象 -月読ノ型-だ」


「長えよ!!!!!」


 二回連続で叫んでしまった。


「お前マジでそれ全部言うつもりだったのか?」


「それが必殺技の決まりなんだろう?」


「いや、まあ決まりというか……」


 たしかに、ライダーキックも言わなきゃ

 ただの飛び蹴りだし、

 アンパンチも言わなきゃただのパンチだ。

 “名乗り”はロマンだ。否定はしない。


 しないけれども、だ。

 これはもう詠唱時間の問題で

 敵に割り込まれるやつだ。

 しかも相手にバレる。


「……お前が俺の代わりに必殺技を考えてくれ。

 出来れば硬派な名前がいい」


「硬派って?

 カタカナじゃなくて漢字ってこと?」


「……なんだそれは?」


「あー、いや、こっちのメタトーク。すまん」


 というわけで、親友からの久々の相談内容は

 『必殺技の名前考えてくれ』であった。


 なんだよこの青春。中学二年生かよ。

 でもまぁ、頼られて悪い気はしない。


「いいか、カルド。

 俺の世界には“不動明王”ってのがいる」


「不動明王?」


「大雑把に言えば、煩悩を断ち切り、

 正しい道に引っ張っていく神様みたいな奴だ。

 大体、お前よりムキムキ」


「悪くない名前だな」


 カルドの目が、珍しく真顔のまま

 キラッとした気がした。


「だからもうさ、

 “不動明王・(うつし)”とか

 “不動明王・(つどい)”とかで良くないか? 

 基本のは“不動明王・(かまえ)”みたいな」


 とりあえず候補を口にしてみる。


 こういうのは、きっかけさえあれば

 本人の中で勝手に育つものだ。


 必殺技の名前ってのは、

 やっぱり自分でしっくり来るやつを

 選びたいだろうし。


うつし……つどい……そして(かまえ)……。

 悪くない。流石だな、ヴェル」


「えっ? いいのか!?」


「あぁ。それに“不動明王”だけ先に言えば、

 後は一言で済む」


 そう言って、カルドは軽く腰を落とす。

 空気が、ほんの少しだけピリッとした。


「不動明王──」


 低く、しかしはっきりとした声。

 そして、拳を構えながら一歩踏み出し──


つどい!」


 床が、ドン、と鳴った。


 空の相手に向かって振るわれた

 模擬の一撃なのに、衝撃波みたいなものが

 足元に伝わってくる。


「……悪くない」


 カルドが、ほんの少しだけ、口元を緩めた。


 わかりづらいけど、

 あれは多分、最高レベルのドヤ顔だ。


「お、おぅ。良かったな」


 正直、さっきの長いやつより百倍覚えやすい。


 こうして、いまいち戦いに乗り遅れていた

 我らが守護神カルドだが──


 その後の戦闘では、そこそこどころか、

 がっつり活躍することになる。


     ◇


「来るぞ、左!」


 空間把握で感じ取った気配に合わせて叫ぶ。

 通路の影から、猟犬型が三体、

 横並びで突っ込んでくる。


「不動明王──かまえ!」


 カルドが一歩前に出て、

 両足を床に根を張るように構えた瞬間──

 目には見えない“壁”が、

 奴らの前に立ち上がったように感じた。


 金属の犬たちが、

 そのままカルドの胸元へ激突する。


 が。


 カルドは、一歩も動かなかった。


 ガギン、と鈍い金属音。

 衝撃で砕けたのは、猟犬型の脚や顎の方だ。


「今だ!」


 俺とセリアが飛び出し、

 残った部品を叩き斬り、叩き割る。

 数秒で戦闘は終わった。


 そして次の戦い。


 兵士型が槍を構え、

 一点に突きを集中させて突進してくる。


「不動明王──うつし!」


 カルドはあえて半歩だけ下がり、

 槍の穂先を胸元で受け止める。

 同時に、全身に“あの時”と同じ、

 山のような気配を纏った。


 刹那、槍の突きが、

 ほぼそのままの勢いでひしゃげる。


 ガキィィン!!


 逆流した衝撃で兵士型の攻撃を無にして

 そのまま大盾で打ち下ろす。

 兵士型の胸部装甲が叩き潰されたような形だ。


「……やっぱり、俺の技はこういう時こそだな」


 カルドがぽつりと呟いた。


 まだ、ディアさんのワンパンや

 アノンの爆炎に比べれば派手さはない。


 それでも、“俺たちじゃ受け切れない攻撃”を、

 真正面から止めてくれるというのは、

 想像以上に心強い。


「ふっ。これで俺にも出来たな、“必殺技”」


 少しだけ、胸を張るカルドを見て、

 俺も思わず笑った。


「だな。カッコよかったぜ、不動明王さんよ」


 こうして。


 少し前までは、敵が出てくるたびに

 一歩遅れていたカルドだが──

 以降の戦闘では、“前に立つ壁”として。

 俺たちの先頭を歩くようになったのだった。



 

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