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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0075.アイリス教



「な、なんだったんですかあの人!?」


 セリアの悲鳴みたいな声が、

 石造りの階段に反響した。


 俺たちは、終わりの見えない地下階段を、

 ひたひたと降りているところだった。


 背後の地上の光はもう遠く、

 足音と灯りの魔石だけが頼りだ。


 さっき拠点で遭遇した

 “慈愛の緑”エメラルドの件を、

 誰からともなく蒸し返した結果が、

 セリアのそれだ。


 振り返ると、セリアは半泣きだった。

 視線が合うと、慌ててぷいっと顔をそらす。


 けど耳は赤い。


 怖かったのをごまかしてるのは、

 さすがにわかる。


「わかっただろう?

 彼女たちはまともじゃない」


 前を歩くゼノンさんが、淡々と言う。

 足音だけは静かで、声はいつも通り穏やかだ。


「慈愛の緑は、まだ害が無いから

 マシな方だけどね?♡」


 ディアさんが肩を竦めた。


 あのエメラルドを“マシ”って呼べる時点で、

 俺たちと価値観が違いすぎると思うのだけど。


「アレで……害が無いんですか……?」


 セリアが震え声でつぶやく。

 俺も同じ疑問を顔に出していたらしい。

 ゼノンさんがこちらを振り返り、

 クスッと笑った。


「彼女は攻撃はしてこないからね。

 ただ勧誘がしつこいだけだ」


「アタシがぶっ飛ばしたって言ってたのも

 あの子よ。言った通り“痛みも愛”

 って思ってるから、怒ってもないわ♡」


 怒ってない、って次元じゃないだろ、あれ。

 殴られて喜んでる奴のこと、

 俺の中で“害が無い”に分類できないんだけど。


 ──少なくとも、二度と会いたくない。


 言葉じゃなく、心で理解した。

 どうやら俺は“マンモーニ”だったらしい。


「彼女を始めとした“七彩の使徒”は、

 アイリスの能力で不可思議な力を持つ」


 ゼノンさんの声が、

 階段の空気を少しだけ冷やした。

 前を行くローブの背中が、

 わずかに重さを増した気がする。


「虹の七色と、アイリス教の教義である

 “七つの美徳”に応じた称号を持つメンバーだ」


 ゼノンさんは、淡々と名前を挙げていく。


「正義の赤 ガーネット

 希望の橙 カーネリアン

 堅固の黄 トパーズ

 慈愛の緑 エメラルド

 信仰の青 サファイア

 節制の藍 ラピスラズリ

 知恵の紫 アメシスト


 私は数人しか知らないが、

 聞いてる話は揃いも揃って、狂人だよ」


 最後だけ、はっきりと嫌悪を込めていた。


「アイリス教がヤバいってのはね、

 さっき見た通り“押し付け”が強いのよ」


 ディアさんが、指を一本立てて続ける。


「信仰の青なんて

 “信徒以外は死ぬべき”って豪語してるわ。

 あの狂気の押し付けに付き合わされる

 周りの身にもなって欲しいものね♡」


「過激派にも程がありすぎるな……」


 思わず本音が漏れた。

 セリアは「ひっ」と小さく肩を震わせ、

 アノンですら顔をしかめている。


「ただ、彼女たちも厄介だが──

 アイリスは更に厄介だ」


 階段の踊り場で一瞬足が止まり、

 ゼノンさんの声だけが下へ落ちていく。


「彼女は“転移者”でね。

 元の世界から持ち込んだ魔眼、

 異世界人による特異能力。

 そして──七彩の使徒の能力を“取り上げ”、

 自分で使うことも出来る」


「アイリスって人……

 ラスボスかなんかすか??」


 言わずにいられなかった。


 RPGだったら、序盤に出てきて

 怪しい風に見せかけた噛ませキャラ。からの、

 やっぱりラスボスです。みたいな奴だろ。


「そうだ、と私は言いたいがね」


 ゼノンさんは少しだけ肩を竦めた。


虹の都(アイリスガルド)は、一応“世界に貢献”はしている。

 やりすぎるのは七彩の使徒だけで、

 アイリス本人は“信仰の自由”を謳っているし、

 世のいくつもの高難度依頼をこなしている。

 彼女に救われた者も多いだろう」


 実績だけ聞けば、確かに“救世主”側だ。


「じゃあ、ヤバいのは七彩の使徒だけなのか?」


 カルドが、静かな声で尋ねた。

 階段を降りる足は止まらない。


 だが、その一歩一歩が、

 さっきまでよりわずかに重くなっている。


「表面上はね」


 ゼノンさんは、そこで言葉を一拍置いた。


「邪推かもしれないが。

 ──私は、彼女が“何か”を企んでいると、

 名を聞くたび常々考えている」


「実際、毎回都合がいいのよねぇ」


 ディアさんが横から口を挟む。


「大事件が起きると、大抵あの女と七彩の誰かが

 必ず現場に居合わせてるのよ。

 アイリス本人は“未来視”って言ってるけど♡」


「未来視!? そんなこと出来るんですか?」


 セリアが目を丸くする。


「妾も未来を見たいのじゃ!

 天下を取るのじゃ!!」


「んふふ~、アノンはパパだけ

 見てくれたらいいんだよ〜?」


 横でいつもの親バカスイッチが入った。


(大事な話だからアノンは黙っててくれ……)


 口に出すとゼノンさんが怖くなりそうなので、

 心の中だけで呟いておく。


 親バカモードに入ったゼノンさん。

 代わりに、ディアさんが話を引き取った。


「まぁ、あの子の魔眼は色々いわくがあるの♡」


 階段の灯りの魔石が一つ切れている場所を、

 ひょいと飛び越えながらディアさんが続ける。


「あの魔眼は、未来視・千里眼・透視。

 更には、魔眼と“目が合う”と操られるとまで。

 どこまで本当かは知らないけどね♡」


「やっぱラスボスでは?」


 思わず二回目の感想が出てしまった。


 むしろ、これでラスボスじゃないなら、

 誰がラスボスを名乗れるんだって話だ。


 ゼノンさんも、そこは否定しない。


「厄介なのは、彼女や七彩の使徒だけじゃない

 ──というのが虹の都の嫌なところだよ」


 言葉の響きが、少しだけ低くなる。


「アイリスの能力なのか、

 七彩の使徒へ能力は“授けられる”。

 さらにその配下にその“劣化版”を

 七彩の使徒から分け与えられるらしい」


「例えばね」


 ディアさんが指を立てて、

 楽しそうに付け加える。


「慈愛の徒と呼ばれる、

 さっきのエメラルドの門下は、

 本人ほどじゃないけど“再生能力”を得るのよ。

 自動治療の信徒が量産されるってわけ♡」


 ゾクッと背筋が冷たくなった。


 劣化版とはいえ、

 さっきみたいな狂信者が何人もいるとか。

 そんなの、悪夢以外の何物でもない。


「だから、冒険者を始め、

 様々な人が能力欲しさにそれぞれの門に下る。

 それが虹の都の人数の多さと、強さの秘密さ」


 ゼノンさんが淡々と言う。


(ねずみ講もやってんのかよ……)


 俺の中では、アイリスは

 完全に悪の親玉として固まった。

 悪の組織の教祖にしか見えない。


 “虹色”とかついてるけど、

 実質どす黒い一本線だろ。


「まぁ、アイリスの能力にも制限はあるはずだ。

 でなければ──」


 そこで、一瞬だけ、

 ゼノンさんの目つきが鋭くなる。


「とっくに、この世界は彼女の手中だからね」


 静かな断言。

 階段を降りる足音が、一瞬だけ止まりかけた。


 ほんの数秒の沈黙ののち、

 ゼノンさんはふっと息を吐き、

 いつもの穏やかな顔に戻り。

 ゼノンさんはニコッと笑ってみせた。


「まぁ、私の目の黒いうちは問題ないさ。

 任せておきなさい」


 さらっと。なんでもないように、

 とんでもない安心ワードを投げてくる。


「そんなことより……」


 ゼノンさんが、階段の下を顎で示した。


「ここから先が“調査区域”のようだよ」


 最後の段を降りきると──


 急に視界が開けた。


 地下のはずなのに、天井は思った以上に高い。


 岩肌むき出しではなく、

 均整の取れた石材で組まれた広い通路。

 壁のあちこちに、淡く光る魔法陣が浮かび、

 静かに回転している。


 中には、通路を完全に塞ぐように

 道の真ん中に展開しているものもあり、

 一目で「触っちゃいけないやつだ」とわかる。


 足元には、噂の古代機巧(エンシェントギア)と思われる

 沢山の“破片”が散らばっていた。


 金属とも石ともつかない材質。

 歯車と装甲片が混ざり合ったようなそれは、

 今はただのゴミに見えるのに、

 妙な“圧”だけは残っている。


 焦げ跡や、斬り裂かれたような溝。

 どこかの誰かが、ここで戦った痕跡が、

 通路のそこかしこに刻まれている。


「さぁ──Aランク依頼、開始だよ」


 ゼノンさんの声が、静かな空間に広がる。


 俺は、腰のナイフにそっと手を添えた。

 銀のプレートが、腰で小さく鳴る。


 深く息を吸い込む。


 湿った地下の空気は、

 少しだけ金属と油の匂いがした。


 こうして──

 俺たちの初めてのAランク依頼が、

 本格的に幕を開けた。



 

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