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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0072.S級ってどんな人?



 俺は特訓したり、キロロに構ってあげたり、

 思ったよりちゃんと“準備期間”を準備に使って

 ──気づけば、もう旅立ちの日になっていた。


「お土産はドラゴンステーキじゃぞい!」


 朝っぱらから、ゴードンじいさんが

 縁側で茶を啜りながら無茶振りしてくる。


「無茶言うな」


 ドラゴンと戦う前提で話すな。

 Cランク上がったばっかりだぞ俺たち。


「ヴェル殿達が帰ってくる時は拙者、

 猛き武士もののふとして出迎えるでござるよ!!」


 まよねこが、筋肉痛でぷるぷるしながらも、

 なぜか刀もどきの木の棒を腰に差して

 仁王立ちしている。ポーズだけは完全に侍だ。


「期待しておく」


 これは冗談抜きに、ちょっと楽しみだ。

 あいつのことだ、本当にやりかねない。


「男子三日合わざれば勝俣してみよヨ!」


 ミキがごぼうを掲げながら、

 どこかで覚えてきたことわざを

 盛大に噛み砕いた。


「半ズボンにさせようとすな」


 俺はあんなに元気な人じゃない。


「きゅいきゅきゅい!!」


 キロロが翼をばさばささせながら鳴く。

 わかってるのかどうか怪しいが、

 テンションが高いのだけは伝わる。


「キロロ、ルス、マカセル」


 カルドが短く告げると、

 キロロは胸を張るように首を伸ばし、

 「きゅっ!」とひと鳴きした。

 ……たぶん、“任せろ”って意味だ。たぶん。


 そんな留守組の、

 熱いのかよくわからない声援を背中に受け、

 俺たちは水の国へと出立した。


     ◇


 クロムの街外れで、

 ギルド手配の馬車に乗り込む。


 荷台は幌付きで、そこそこ広い。

 六人乗っても窮屈ではないレベルだ。

 荷物用のスペースも区切られていて、

 むしろ快適と言っても良いかもしれない。


 馬車で向かえば水の国との国境まで三日ほど。

 そこから遺跡周辺までは、

 道が良ければ一日半。

 合計で「五日かからないくらい」というのが、

 今回の旅程だ。


 ガタリ、ゴトリ──。


 車輪が土を噛む音と、馬の蹄のリズムが、

 じんわりと身体に伝わってくる。


 荷台に座り込み、背中を板に預けていると、

 振動がちょうど良い揺り籠みたいで、

 危うく寝そうになる。


「さて、遺跡の調査だが君達は初めてだからね。

 軽く説明しておくよ」


 俺の瞼が落ちかけたところで、

 ゼノンさんの声が現実へと引き戻してくれた。


 遺跡調査。


 冒険者ものと言えば、

 ダンジョンと遺跡がセットだ。


 前世の知識は山ほどあるが、

 この世界の“ルール”はこの世界で

 きちんと学ばないといけない。


「遺跡の調査は大きく三つ。


 ひとつ目は“マッピング”。

 内部構造を出来るだけ正確に記録すること。


 ふたつ目が、“罠やギミックの把握”。

 そして三つ目が、“敵対する危険物の処理”だね」


 ゼノンさんは指を一本ずつ折りながら、

 いつもの講義モードで話していく。


「マッピングは、道に迷わない為だけじゃない。

 後から来る他の冒険者たちの命綱にもなる。

 危険度の高い場所や、魔物の巣、

 環境そのものが変質している場所は、

 特に丁寧に記録する必要があるね」


 ゲームっぽいミニマップが思い浮かぶ。

 現実は、ああいう親切設計じゃない。


 自分たちで全部、

 白地図に線を引いていく感じだ。


「最も、始めの二つは

 ヴェル君の出番が多いだろうね。

 空間把握は見えない道や罠を察知するのに

 とても役立つはずだよ」


「……プレッシャーですねぇ」


「ふふ。それだけ信頼しているということだ」


 軽く肩を叩かれ、少しだけ背筋が伸びる。


「また、こういう任務は、

 単独パーティだけで行うとは限らない。

 複数のパーティが同じ依頼を、

 それぞれ別のギルドで受けて、

 現地で“何も知らずに合流”することもある」


「え、そんなこともあるんですか?」


「あるとも。

 むしろ、その方が多いくらいだね。

 遺跡の規模が大きい場合、

 一つのパーティだけで調査するのは非効率だ」


 確かに。


 中規模のダンジョンですら、

 踏破するのに何日もかかるのに、

 古代遺跡なんてなると文字通り“迷宮”だろう。


「大抵の場合、

 遺跡の近くには“派遣されたギルド員”がいる。

 依頼を受けたパーティから情報をまとめ、

 調査区域内で得たものを預かったりする為に、

 簡易的なギルドが建てられているはずだ」


「仮設のギルド、ってことですね」


「そう。その仮設ギルドに報告した時点で、

 情報などは“手柄”としてカウントされる。

 だから、情報を出し惜しみしても

 基本的には得をしない。とはいえ──」


 そこで、ゼノンさんは肩をすくめて笑った。


「提出せずに、こっそり最奥を目指す者もいる。

 “最奥到達”という栄誉は、ポイントとは別に、

 名誉と利権をもたらすからね」


「なるほどな……。

 ゲームでいう“世界初クリア”みたいなもんか」


「がめつい連中はどこにでもいるのよねぇ。

 アタシ、そういう強かな子嫌いじゃないけど♡」


 ディアさんが反対側の席で脚を組んで笑う。

 その笑い方が、ちょっと獲物を見つけた

 猛獣っぽいのが気になる。


「まぁ、今回君達は初めてなんだ。

 私もディアも、今更少し手柄を立てたところで

 何の足しにもならないからね。

 ゆっくりじっくり進めると良い」


 ゼノンさんは、軽く目を細めてそう締めた。


 余裕がある。

 余裕がある人間は、だいたいかっこいい。


「わっ、見て〜! 綺麗な蝶々よ〜! うふっ♡」


 窓の隙間から飛び込んできた光に舞う、

 小さな蝶を見つけて、ディアさんがはしゃぐ。

 こちらもある意味、余裕がある。

 かっこいいかは、判断が分かれるところだ。


「俺は俺にやれることをやるだけだ」


 カルドはいつも通り、

 ぶれないスタンスを口にする。


「私は良いところ見せられるよう頑張りますっ!」


 セリアは胸の前で手をぎゅっと握り、

 目をきらきらさせていた。

 たぶん“古代遺跡”という単語で、

 冒険者ロマンが一気に加速している。


「妾の活躍を期待しておると良い!

 遺跡なぞ楽勝なのじゃ!!」


 アノンは絶好調である。

 こういうときのアノンは本当に頼もしいが、

 同時にフラグ製造機でもある。


「まぁ、折角の機会だ。やるぞ、自由の風!!」


 気合を入れる意味も込めて、俺は声を上げた。


「おぅ」「はいっ!」「当然じゃ!」


 三者三様の返事が重なる。

 ディアさんが「若いって良いわねぇ。青春よ♡」

 と頬に手を当て、ゼノンさんは静かに微笑む。


 正直、不安もある。けれど──それ以上に、

 ワクワクの方が勝っていた。


(楽しみだぜ……!)


     ◇


 馬車での旅は、退屈だと思っていた。

 実際、前世の旅番組なんかでは

 「移動時間との戦い」とかよく言っていた。


 でも、案外──楽しかった。


 動かずとも出来る特訓。

 例えば、手元でマナを操る練習。


 風の滑走スイフトウォークに使う循環の感覚を、

 足を動かさずに再現してみたり、

 カルドは座ったまま、

 不動の山の“重心”だけを一生懸命探っていた。


 合間合間に、ゼノンさんに遺跡での立ち回り、

 今回の任務とは別パターンの防衛任務や

 制圧任務などの話も聞けた。


 中でも、一番盛り上がったのは──S級の話だ。


「S級は今十一人いるはずだ」


「そうねぇ。私たちと違って、

 個性豊かなクセの多いメンバーよ♡」


「本気で言ってます?」


 クセの塊みたいな二人が何か言ってる。

 食材で言えばアンタ達はパクチーだぞ?


「S級ってどんな方々なんですか?」


 セリアが興味津々で身を乗り出す。

 元々冒険者に憧れてたんだ。

 最上位ランクに憧れないわけがない。


「そうだね。

 私やディアのようにソロで動く者もいれば、

 パーティで動く者もいる。

 中にはファミリアを持つ者もいるね」


「アタシのお気に入りはクリードちゃんかしら。

 あの子、まだ若いのにしっかりしていて

 ピリッとしてるの。食べちゃいたい♡」


 ゾクッと鳥肌が立った。

 この人、すぐこういう事言うんだが慣れない。


「私が注目するのはクロナ君とシロナ君だね。

 彼女達は双子の姉妹でどちらもS級だ。

 死神姉妹と呼ばれている。

 謎も多いし興味が尽きないよ」


「妾が一番じゃ!」


「うんうん、アノンはSS級だからね〜!」


 自称SS級爆誕。

 本当にゼノンさんはアノンに甘すぎる!!


「ルルちゃんも凄いわね。

 あの子は、唯一アタシと殴り合い出来る

 有望な子よ〜♡」


「アンタと殴り合えるのか?」


 カルドが、珍しく素早く食いついた。


 無理もない。

 ディアさんと殴り合い=死

 とほぼ同義だ。


「そそ! S級の中で強さの序列を付けるなら、

 悔しいけどあの子のほうがアタシより上ね。

 魔法も使えるもの。と言ってもぉ、

 ゼノンちゃんの魔法には敵わないけどね♡」


「S級ってやべえな……」


 当たり前と言えば当たり前かもしれないが、

 “ディアさんより強い”という存在がいる。

 と考えると、背筋が寒くなる。


「後は去年S級になった

 ミストラル君も私は気になってるよ」


「あぁ、霧魔女ね?

 あの子、仮面で顔を隠してるし、

 高圧的だし、アタシは苦手だわ〜」


「天候を支配すると呼ばれる彼女の魔術は

 実に興味深い。戦ってみたいものだね」


「もうっ! ゼノンちゃんってば脳筋♡」


(アンタが言うなよ!!)


 ゼノンさんも十分脳筋だが、

 ディアさんは典型的な脳筋だ。

 考えるよりも殴ってみるタイプ。


 そんな会話を聞いていたセリアが、

 ふと思い出したように口を開く。


「そう言えば、今から行く水の国にも、

 S級のファミリアがあるんですよね?」


 その瞬間、空気がピリッとした気がした。


「彼女はダメだ」

「あの子はダメね」


 二人が、珍しく同じタイミングで即答した。


 たしか、水の国のトップファミリアの主は、

 魔眼使いで、“女教皇”と呼ばれる

 アイリスって名前だったはずだ。


「腹黒い女狐だから、

 あの教団には絶対関わっちゃダメよ♡」


「目をつけられると、入信するまでしつこい。

 あれは最早、宗教という名の“邪教”だからね。

 今回も王都には近づかない予定だ」


「そうねぇ。アタシも昔、

 S級になる前にしつこかった“七彩の使徒”とか

 いう幹部を一人殴り飛ばしてやったわ♡」


「良くやったねディア。

 それは世界に貢献している」


 二人とも口元は笑っているが、

 目が一切笑っていない。

 この二人が揃って「ダメ」と言う相手。

 想像したくないが──ヤバいのは間違いない。


(絶対に関わらない。近寄らない。

 虹が見えたら逆方向に全力ダッシュだ)


 心の中で固く誓った。

 こういう誓いがフラグになるのが

 物語の常だが、俺は物語じゃない。現実だ。

 ……フラグにならないことを、全力で祈る。



 俺たちはそのあとも、

 他愛のない話題に移りながら、

 ゆっくりと、水の国。

 ──古代遺跡を目指していった。


 

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