表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/102

0069.次のステージへ



 ──さて、そろそろ良いだろう。

 君たち、依頼を受けに行くよ。


 朝一番。


 ストレッチも終わってないタイミングで、

 それは唐突に告げられた。


 ゼノンさんの宣言である。


 ひと月は経っただろうか。

 相も変わらず、俺たちの生活リズムはこうだ。


 朝、ディアさんの地獄特訓。

 昼、ゼノンさんの魔法講義&実技。

 夕方は、各自自主練か、街へ買い物だ。


 しかしギルドからCランクの依頼は……来ない。


 けど、無駄に過ごしていたわけじゃない。

 日に日に俺たちの動きは良くなっていった。


 カルドと俺の連携。

 セリアの入り方。

 アノンの魔術の合わせ方。


 ちょっとした視線や息遣いで、

 次に誰がどう動くか分かる瞬間も増えてきた。


 一番の変化は、

 セリアが特訓に混ざったことだ。


「私も、自由の風ですから!」


 そう言った時のセリアの目は、

 冗談ひとつない、本気の覚悟を帯びていた。


「これで断っちゃ女が廃れるわねぇ」


 ディアさんは、

 そう言って白い歯を見せて笑った。


「うふっ、アナタみたいな子、大好きよ♡」


 口調は軽いが、その後の扱いは、

 俺たちとまったく同じだった。


 殴るときは殴る。

 投げ飛ばすときは投げ飛ばす。

 受け損ねれば容赦なく尻餅をつく。


 誤解されそうだが、

 正直、俺はそれが嬉しかった。


 ディアさんも、きちんとセリアを

 俺たちの“仲間”として

 見てくれているんだと思えたからだ。


 ……ただのオカマゴリラじゃないんだな、と。


 ……口が悪くなってきたのは、

 特訓が地獄のせいだ。たぶん。


     ◇


 朝の殴り合い地獄を終えたあと、

 汗と埃を洗い流し、少し腹に物を入れたら、

 次はゼノンさんの魔法講義タイムだ。


 アノンとセリアは言うまでもなく、

 俺とカルドも全員参加。


 風の滑走(スイフトウォーク)も、不動なんたらも、

 結局は“マナの流し方”が肝だからだ。


「風属性を“付与する”時と、

 “乗る”時の違いは何だい?」


「えっと……対象か、自分の身体か、ですか?」


「半分正解だね。

 セリアちゃん、残り半分、分かるかな?」


「……対象に流すか、

 空間の流れに混ぜるか、ですか?」


「そう、その通り」


 アノンの“感覚で覚えろ”式の説明と違って、

 ゼノンさんの話は理論立てていて、

 すごく頭に入りやすい。


 図を描き、例えを出し、

 マナの流れを“視覚化”させながら話してくれる。


 同じことをやっているはずなのに、

 理解度が段違いだ。

 これが“教え方の差”ってやつだろう。


「カルド君。君の不動の構えは

 “受けるため”だけじゃない。

 反撃への起点にもなるんだよ」


「反撃……?」


「力を流すだけではなく、

 “一度留めてから返す”イメージだね。

 山にぶつかった強い風が、

 斜面を滑って上空へ舞い上がるように」


 そう言いながら、ゼノンさんは小石を

 軽く弾き、カルドの胸元へ飛ばす。


 カルドは反射的に構え、石を胸板で受け止め

 ──その反動で、前足が一歩だけ自然と出た。


「……こうか」


「そう、それ。

 今の一歩が“攻めへの切り替え”になり得る。

 覚えておくといい」


 そんな毎日を繰り返し、

 「まあだいぶ慣れてきたな」と

 俺たち自身が思い始めたタイミングで。


 ──冒頭の爆弾発言である。


     ◇


「いつまでもCランクでは困るからね」


 食卓で紅茶を飲みながら、

 ゼノンさんはさらっと言った。


「無いなら仕事を引っ張ってくればいい。

 私がやると言えば、

 世界中から仕事が来るからね」


 そりゃそうだろうなぁ、としか言えない。

 世界のてっぺんにいる人の言うことはでかい。


「というわけで君たちが受けるのはコレだ」


 テーブルの上に、一枚の書類が置かれた。

 分厚い羊皮紙。端にはギルドの正式な封蝋。


 そこに踊る文字。


 A級依頼

 新たに出現した古代遺跡の調査と対処

 報酬:一千万ゴルド


「「「え、A級!?」」」


 俺とセリアとアノンの声が綺麗に揃った。

 カルドはと言えば、いつも通り寡黙なまま、

 目だけが大きく見開かれている。


 銀プレート取りたてホヤホヤの俺たちCランク。

 いきなりA級。


 たたでさえ飛び級でEからCになったのに、

 Cの依頼を一つも受けないままAランク依頼。

 おかしいにもほどがある。


 だが、ゼノンさんは

 そんなのお構いなしと返事をする。


「あぁ」


 ゼノンさんは紅茶を一口含み、

 当たり前のように頷いた。ニコニコである。


「私がパーティに入って受ければ通る。

 心配しなくていい。私一人でもこなせる。

 なのに、彼女もいるんだ」


 そう言って、視線を横に滑らせる。


 そこには、ソファに片肘をかけて座り、

 足を組んでこちらを見ているディアさん。


「んふっ♡」


 親指を立ててウインクしてきた。

 元気だなこの人。


「というわけで、私とディアをパーティに

 入れるために……ギルドへ向かおう」


 当然の顔で言われても、

 心の整理が追いつかない。


 A級依頼。

 報酬一千万ゴルド。


 桁の感覚がバグる。

 じいさんのドラゴンステーキの話が、

 急に現実味を帯びてきた。


「ちょ、ちょっと待ってほしいのじゃ!」


 先に声を上げたのはアノンだった。


「妾たち、まだCになったばかりじゃぞ!?

 A級など、普通はBランクでも

 手が届かぬ領域じゃ!」


「だからこそ、だよ」


 ゼノンさんは椅子から立ち上がり、

 窓の外を指さした。


 クロムの街。

 小さな家々と、遠くに見える鉱山の影。


「この街に、Cランクの依頼が

 回ってくるのをただ待つだけでは、

 君たちの時間が勿体ない。

 才能も、足も、今は前を向いている。

 止めるには惜しすぎる」


 穏やかな声なのに、

 言っていることは無茶振りだ。


「それに──」


 ゼノンさんは、俺たち四人を順番に見た。


「君たちなら、私の後ろで“守られているだけ”で

 終わるつもりはないだろう?」


 図星だった。


 Cランクのまま足踏みしている間も、

 どこかでずっと燻っていた感情。


 ゼノンの娘、紅蓮の大魔導師。

 撲殺天使。

 不撓不屈。

 風雲児。


 二つ名だけ立派に先行していくのが、

 正直、ちょっとむず痒かった。


「……行くしか、ないか」


 気づけば口が勝手にそう言っていた。


「ヴェルさん……」


 セリアが不安そうな顔をする。

 けど、その目の奥には、

 恐怖だけじゃない何かが見えた。


「行こう。どうせ逃げても

 ゼノンさんたちはどこまでも追いかけてくる」


 半分冗談、半分本気で言うと、

 カルドがふっと笑う。


「あぁ」


 短く、それだけ。


「ふんっ。まぁ良かろう。父上がついておる

 まぁ、失敗などありえんか」


 アノンは相変わらずの自信家ぶりだが、

 膝の上にはそっと握りしめた手が見えた。


「決まりだね」


 ゼノンさんは満足そうに頷き、

 ローブの裾を軽く整える。


「では、行こうか。ギルドへ」


 まだ心の整理はついていない。

 けれど、足はもう立ち上がっていた。


     ◇


 クロムのギルドへ向かう道。


 俺たち四人に加え、S級が二人。

 道行く人々の視線が、まあ、刺さる刺さる。


「あれ、ゼノン様じゃない?」

「隣にいるの、金剛鬼の……」

「え、あの子たち、一緒に歩いてない?」


 ひそひそ声が風に乗って届く。


「ヴェルさん……目立ってますね……」


「見ないふりしよう。

 現実から目を逸らす訓練だ」


「それ、良い訓練ではないと思います……」


 セリアのツッコミが正しい。


 前を歩くディアさんは、

 そういう視線を浴び慣れているのか、

 むしろ楽しそうに腰を揺らし歩いている。


「見て見てぇ?

 今日は可愛い坊やたちと一緒なのよぉ〜♡」


 余計に注目を集めている気がする。


 ギルドの建物が見えてきた。


 木製の看板。

 鉄で補強された大きな扉。


 何度も出入りしたはずなのに、

 今日はやけに巨大に見える。


「……行くか」


「あぁ」


 深呼吸を一つ。



 俺たちは、S級二人を引き連れて、

 クロムのギルドの扉を押し開けた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ