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0061.女子会



 火の国と水の国での嫌疑は晴れ、

 「洗脳でも人体錬成でもない」と

 ゼノンさんが保証したことで、

 ミキもようやく外を歩けるようになった。


 その空気の変化を何より喜んだのは、

 もちろん、セリアである。


「ミキさん、時間ありますか?

 もし良かったら一緒にお茶でもどうかなって」


 恥ずかしそうに、それでいて

 嬉しさを隠しきれない笑顔でそう誘ったのだ。


「女子会!? 妾も行くのじゃ!」


 アノンは当然のような顔をして割り込んだ。

 そしてミキは、相変わらずの微笑みで、


「女子会、初参加ヨ。ワクワクするヨ」


 とごぼうをぴょこんと掲げたのである。


 こうして、三人の

 初めての女子会が決まったのだ。


     ◇


 目的地は、アノン曰く

 「クロムで一番ケーキが美味い場所」

 なのだという喫茶店である。


 クロムの中心から少し外れた、

 石畳の路地を抜けた先にある小さな店だ。


 そこへ向かう道中のアノンは、

 落ち着きという言葉を完全に忘れていた。


「よいかセリア、そこのショートケーキは

 生クリームがふわっふわなのじゃ!

 甘さが本当にちょうど良くて、

 スポンジのしっとり具合ときたら

 想像を軽く凌駕するであろう!」


「しっとり……ふわふわ……」


 セリアは両手を胸の前で組み、

 うっとりと想像を膨らませる。


「それから、ベイクドチーズケーキ!

 あれは重厚でありながら後味はスッキリ。

 驚くほど軽いのじゃ!!

 香ばしさとチーズのコクが口内で

 舞踏会を始めるのじゃ!」


「ベイクドチーズ……

 そんなの絶対美味しいじゃないですか……!」


 セリアの頬は赤くなり、

 目は完全に“ケーキの世界”に旅立っている。


 彼女は普段どちらかと言えば

 慎ましやかな性格だが“甘いもの”に関してだけは

 別腹ならぬ“別人格”が出るのだ。


 一方、ミキはというと、

 ごぼうを肩に担ぎながら、首をかしげていた。


「ショートケーキ……チーズケーキ……」


 ミキは真面目に聞いているようで、

 若干違う方向へ話を飛ばす。


「ごぼうケーキは、ないのヨ?」


「聞いたことないですねそんなの!?」


 セリアが全力でツッコむ。

 アノンも眉間にしわを寄せた。


「野菜ケーキとは理解できなくもないが、

 よりによってごぼうをチョイスするセンスが

 理解不能なのじゃ……」


「ごぼうは万能ヨ。焼いてよし、

 煮てよし、叩いてよしヨ」


「最後の用途が物騒なんじゃが!?」


 そんな調子で道中は賑やかだった。


 アノンはケーキのラインナップを

 一つ一つ熱弁し、セリアはその全てに

 「それも食べたい」「あ、それも……」

 と反応していく。


 ミキはミキで、ときおり

 「ごぼうパフェは?」

 「ごぼうシュークリームは?」と

 斜め上の提案をしては、

 二人に同時に突っ込まれていた。


     ◇


 やがて、目的の喫茶店が見えてきた。


 木の扉に、磨き込まれたガラス窓。

  窓辺には色とりどりの小さな花が飾られ、

 店内からは柔らかな灯りが漏れている。


 外から見ても、ただの茶店ではなく

 “ちょっと良い店”であることが伝わる造りだ。


 セリアはその外観を一目見るなり、

 ぱっと表情を明るくした。


「……あ。ここ、知ってます」


「ほう、セリアも知っておったか」


「はい。市場の帰りとか、何度か前を通ってて、

 いつか入ってみたいなって思ってました。

 でも、ちょっとお高いと聞いていたので……」


 そう言って、申し訳なさそうに笑う。

 冒険者とはいえ、まだ新米Fランクだった頃は、

 気軽に通える店ではなかったのだろう。


 アノンは、ふふんと鼻を鳴らした。


「今日は妾の奢りじゃ!

 妾たちの昇格祝いとミキが晴れて

 外を歩けるようになったお祝いついでに、

 遠慮なく食うがよい!」


「えっ、でも……!

 私たちも依頼報酬を頂いてますから、

 自分で払えますよ?」


 セリアは慌てて首を振る。


 だが、その目は完全に

 ケーキの魔力に捕らわれていた。


「うむ、そういう真面目なところは好ましいが、

 今日は妾の気分なのじゃ。

 素直に甘えるがよい!」


 以前のアノンならば

 「妾が奢ってやることに感謝するがよい!」

 とでも言っていただろう。

 明確に、距離が縮まっている証左である。


 セリアはその変化を敏感に感じ取り、

 顔をほころばせた。


「はい。じゃあ……、

 ありがたく甘えさせてもらいますね。

 ありがとうございます、アノン」


 そう言って、ぎゅっとアノンを抱きしめる。


「ぬぁっ!? なんじゃ、

 いきなり抱きついてくるでない!」


 アノンは真っ赤でジタバタと暴れるものの、

 その腕を本気で振り払おうとはしていない。

 むしろどこか嬉しそうですらある。


「ふふっ。アノンってこの前までは、

 “セリアといえど馴れ馴れしくするでない”とか

 言ってたのに、今日は言わないんですね?」


「し、親友じゃもんな? それくらいは、

 まぁ、その、許してやらんこともないのじゃ」


「ふふっ。やっぱりアノン可愛いですっ」


「や、やめぬかぁぁ!!」


 セリアはその言葉に満足したのか、

 抱擁の力を少しだけ強めた。


 アノンは顔を真っ赤にしながらも、

 結局そのままされるがままである。


 一方ミキは、ごぼうをふりふりしながら

 きっぱりと言った。


「ミキは、お金ないヨ。

 だから、遠慮なく奢られるヨ。

 アノン、ありがとうヨ!」


「お主はもうちっと遠慮という概念を

 学ぶべきじゃろうな!!」


     ◇


 中へ足を踏み入れると、

 ふわりと漂うのは焙煎した豆と焼き菓子の

 甘い匂いである。


 照明はやや落とされ、

 落ち着いた木のテーブルと椅子が

 整然と並んでいる。


 壁には静かな風景画が掛けられ、

 棚にはセンスの良いティーカップが

 ずらりと並んでいた。


 客層も、どことなく上品である。


 本を読んでいる老紳士、

 静かに談笑する中年夫婦、

 窓際で紅茶を楽しむ若い女性。


 賑やかではあるが、

 決して騒がしくない“上品なざわめき”が

 店内には満ちていた。


 そんな空間に、アノン、セリア、

 ミキの三人組が入ってくる。


 店の主と思しき小柄な影が、

 奥からとてとてと歩いてきた。


 女性ドワーフである。


 一般的な人間と比べても、

 頭が一回り大きく、ずんぐりした幼児体型。


 だが、その顔立ちは整っており、

 ぱっちりとした瞳とふわふわの髪が相まり、

 “ロリ”の一言に尽きる外見なのだ。

 それでいて、纏っているエプロンドレスは

 上質で、所作も落ち着いている。


 このギャップこそが、

 この店の隠れた名物であるという噂もある。


「いらっしゃいませぅ。

 三名様でよろしいですか?」


 柔らかな声でそう言うドワーフの店主に、

 セリアがペコリと頭を下げる。


「うむ、三人なのじゃ。席はどこでも構わん」


「それじゃあ、カウンターがちょうど

 三席空いてますから、そちらへどうぞぉ」


 案内されたのは、カウンター席だった。


 磨き込まれた木のカウンター越しに、

 丁寧に並べられたカップ、

 ポットなどが見える特等席である。


 一瞬、アノンが奥を見て『げっ!』

 というような表情を浮かべたが

 ささっと目をそらして見なかったことにした。


 席に座ると同時に、

 三人は一斉にメニューへと視線を落とした。


「……わぁ……!」


 セリアの目が、ますます輝きを増す。


「いちごのショートケーキに、

 ベイクドチーズ……チョコレートタルトに、

 フルーツタルトとプリンアラモードも!」


 ページをめくるたびに

 何度も小さく悲鳴を上げるその様は、

 もはや“甘味の精霊”にでも

 取り憑かれているかのようである。


 アノンはというと、

 メニューを見ながら満足げに頷いていた。


「ふふん、そうじゃろそうじゃろ。

 ここのラインナップは実に充実しておる。

 紅茶も種類が多いしの」


 ミキは、ごぼうを立てたまま、

 メニューを真剣に凝視している。


「……」


「ミキさん?」


「やはり、ごぼうケーキは、ないヨ」


「あるわけないでしょう!?」

 

 セリアの全力ツッコミがカウンターに響いた。


 やがて注文の段になると、

 遠慮という概念は見事に消し飛んだ。


「ショートケーキと、ベイクドチーズケーキと、

 この季節のフルーツタルトと……。

 すみません、このプリンアラモードも……」


「妾はチョコレートタルト、ミルフィーユ、

 オレンジのシフォン、それから……

 この“気まぐれケーキセット”とやらもじゃ」


「ミキは、ショートケーキとチーズケーキと、

 ロールケーキと……あとモンブランと

 シュークリームも食べたいヨ」


 気がつけば、一人あたり五個を超えるケーキが

 注文されていたのである。


 ドワーフ店主が「まぁまぁ」と

 目を丸くしながらも、嬉しそうに頷く。


「たくさん頼んでくれてありがとぉ。

 順番にお持ちしますねぇ」


 ニコリとわらって店主はショーケースへ。

 


 そうして三人はケーキが待ち遠しいと、

 足をわずかにプラプラさせながら談笑し、

 和やかに過ごしていた。



 

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