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0060.ファミリアとは



「うん、確かに洗脳の形跡も錬成反応もない。

 私から水の国と火の国には話しておくよ」


 ミキの頭の少し上あたりに手をかざしていた

 ゼノンさんは名残惜しそうにマナを払う。


 検査は数秒で終わった。

 けど、それを待つ間のまよねこの汗の量は、

 すでに一仕事終えた人のそれだった。


「で、デュフッ……! こ、これで晴れて無実が

 証明されたというわけでござるな!?

 火の国でも水の国でも、

 もはや拙者は“合法オタク”ということに……!」


「良かったヨ。これでセリアと女子会できるヨ」


 ごぼうをぴょこぴょこ振りながら、

 ミキが淡々と告げる。


 その言葉に一番最初に反応したのは、

 やっぱりセリアだった。


「女子会……! ミキさんと……、

 私と……あとアノンさんも……!」


 目を輝かせながらミキに抱きつくセリア。


 そこへ、わかりやすく

 不安そうな顔をしたアノンが飛んできた。


「誘ってくれるんじゃな!?

 妾もちゃんと誘ってくれるんじゃな!? 

 女子会からハブられるなど、

 妾のプライドが粉砕じゃぞ!!」


「ふふっ、アノンさん抜きで

 女子会が成立すると思いますか?」


 セリアがくすっと笑って返すと、

 アノンは胸を張る。

 ……胸は無いけど気持ちは盛大に張っている。


「ふ、ふんっ。当然じゃな!

 妾が居らねば女子会の華やかさが

 七割は落ちるからの!」


「数字盛りすぎじゃない?」と

 心の中でツッコんでおいた。


「でも、自由になったってことは、

 いつかまよねこはここを出ていくのか?」


 俺が何となく気になって聞くと、

 まよねこはビシィッと俺の方へ向き直り、

 いつもの湿度高めボイスでまくし立てる。


「い、いえいえいえ!

 とんでもないでござるヴェル殿!

 こ、このゴードン殿のご自宅兼、

 雛竜キロロ殿が住まうこの聖地は、

 もはや拙者にとって第二の聖地なるもの!

 いや、現世における最終セーブポイント

 と申しますか……! デュフッ!

 それに、こ、ここには同郷にして

 心の支えたるヴェル殿(同志)がおられるので、

 離れるなどありえないのでござるよぉ……!」


 今、俺の名前に変なルビを振ったよな絶対。


「……まぁ、いいけど」


 実際、まよねこは真面目で働き者だし、

 キロロにも懐かれている。

 変なところは多いけど、悪い奴じゃない。

 セリアも、あの様子を見る限り歓迎だろう。


 朝食を食べ終わる頃には、

 まよねこ達は「これからも一緒」

 が当たり前みたいな空気になっていた。


 なんだかんだで、

 うちの拠点はどんどん賑やかになっていく。


     ◇


 朝食の後、俺とカルドとセリアと

 アノンの四人でギルドへ向かった。

 目当ては、もちろんCランクの依頼だ。


「Cランクともあれば、

 ちっとは“冒険者してる感”でてくるかなぁ」


 浮かれ気味にそんなことを言ったら、

 カルドに「浮かれすぎると死ぬぞ」

 と一言釘を刺された。正論。何も言えない。


 ギルドに着き、掲示板を見上げる。

 F、E、Dの紙がそれなりに貼られているのに

 対して──Cの欄は、きれいなもんだった。

 風通し良すぎる。


「……ないな」

「ないですね」

「ないのじゃ……」


 三人分の「ない」がハモった。


 受付のお姉さんに声をかけると、

 申し訳なさそうに笑われた。


「ごめんなさいね。クロムは小さい町だから、

 今Cランクの依頼は切らしちゃってるの。

 そもそもCランク以上になると、

 パーティさんやファミリアさんを指名で

 お願いすることがあるのよね」


「ファミリア?」


 俺が首を傾げると、

 何故かカルドまで「お前……」

 みたいな顔をしてくる。


「えぇ、知らないの?」って

 顔を三方向から向けられた。

 あぁ、知らねえんだよ!悪いかよ!


「す、すみません。

 ファミリアってなんですか?」


 聞けばいいのだ。知らないことは聞けばいい。

 受付のお姉さんは、慣れた様子で微笑んだ。


「パーティは知ってるわよね?

 ギルドが正式に認めてる

 “冒険者の集まり”の単位。

 だいたい三人から六人まで」


「うん、それはわかります」


「で、そのパーティを、

 さらにまとめたのが“ファミリア”。

 簡単に言うと……冒険者が作った“ギルド”

 って思ってくれればいいわ」


「あー、ゲームでいうクランとかアレか」


 思わず前世ワードが出てしまった。、


「ファミリアを名乗るには条件があるの」


 そう言って、お姉さんは指を折っていく。


「まず一つ目。十人以上の構成員がいること」


「十人……」


 俺たちは同時に頭の中で数を数えた。

 俺、カルド、セリア、アノン。

 まよねこが冒険者になったとしても、

 じいさんやミキはだめだろうしなぁ。


「二つ目は、ギルドのある

 “街”の中に拠点があること。

 ゴードンさんのお家みたいに

 町の外だと条件を満たさないの」


「……ダメじゃん」


「残念じゃのう」と

 じいさんの真似をしそうになりぐっと堪える。


「三つ目が一番大変ね。

 構成員全員の“依頼ポイント”の合計が

 50000ポイントを超えること」


「相変わらずありえん数字じゃ」


 アノンは面白くなさそうに呟いた。

 お姉さんは笑いながら続ける。


「Fランクの依頼は成功で1ポイント、

 Eが2ポイント、Dが4ポイントって、

 二倍ずつ増えていくの。

 Cなら8、Bなら16、Aなら32……って感じね」


 前世の経験から言えば、

 いかにもゲームっぽい設計だ。

 ただ、現実にやるとなると笑えない。


「昇級のたびに、そのランクの依頼を五回、

 一つ上のランクを十回こなさないと

 いけないのは知ってるわよね?」


「はい」


「飛び級しないで真面目にやっていくと、

 A級の昇格試験を終えた時点で、

 最短でも一人あたり775ポイントくらいなの。

 だから50000ポイントって、実際は中々よ?」


「775……」


 俺の頭の中にちっちゃい電卓が浮かぶ。

 四人分合わせてみても3000ちょい。

 単純計算で、俺たちだけで十倍以上稼いでも、

 50000には届かない。


「まぁ、その条件があるからこそ、

 ファミリアは“信用と実績の塊”って扱いなの。

 有名どころには国から直接依頼が来たり、

 ギルドを通して大規模な案件を任されたりね」


 お姉さんは、カウンター奥の掲示板を指さす。

 そこには、最近の“各国における

 年間依頼ポイントランキング”らしき

 紙が貼られている。


「毎年、その年の依頼ポイントの総計で、

 各国のトップ10ファミリアが発表されるのよ。

 ちょっとした風物詩ね。

 賭けの対象にする人もいるくらい」


「へぇ……」


 話を聞いているうちに、

 俺の中にじわじわとワクワクが膨らんでいく。

 上を目指す道筋が、ぼんやり見えてきた感覚。


「そうそう。せっかくだから、

 各国のトップも教えてあげるわ」


 お姉さんが楽しそうに、指を一本ずつ立てる。


「まず、ここ土の国タイターンのトップは、

 S級“盤外王クリード”さんが率いる戦盤遊戯(バトルボード)

 軍隊みたいなファミリアで、

 マスターのクリードさんは『戦術の鬼神』

 なんて呼ばれてるわね」


「鬼神って表現やめてほしいな」


 神とか出始めたら

 想像のスケールが一気にバグる。


「水の国アクアリアは、

 S級“女教皇アイリス”さんの虹の都(アイリスガルド)

 独自の“アイリス教”って宗教を

 母体にしてるファミリアで、

 信徒の数がとにかく多いの。

 あ、アイリスさんは魔眼使いらしいわよ」


 「魔眼……絶対悪人じゃん」


 思わず本音が漏れる。


 横でアノンが

 「確かにアヤツは悪のボス感が半端ないのぅ」

 と頷いていた。


「火の国フレイナスは、

 “女神様”なんて安直な二つ名のS級、

 ニケさんが率いる勝利の女神(ヴィクトリア)がトップね」


「安直って言っちゃうんだ……」


「面白いのはね、このファミリア、

 メンバー全員がニケさんのファンなのよ。

 完全にファンクラブがトップに君臨してるの。

 武の国って呼ばれてるのに、

 あれでちゃんと結果残してるんだから凄いわ」


「推しファミリアか……」


 まよねこがいっぱいいるところを想像して

 ぶるっと身震いがしたので考えるのをやめた。


「風の国ウインディは毎年トップが変わるの。

 騎士団が強すぎて、そもそも冒険者が

 風の国で活動することが少ないのもあって。

 大きな事件は騎士団が解決しちゃうから」


「……親父、マジでとんでもなかったんだな」


 改めて実家の重さを思い知らされる。

 ストーム家の名前が、ふと遠く感じた。


「まぁ、今の俺等にファミリアはまだ早い」


 カルドがぽつりと言う。


「そうですね。まずはCランクを

 きちんとこなさないと、ですね」


 セリアが胸の前で手を組んで微笑む。


「妾がBになったら、

 “アノン教ファミリア”を立ち上げるのじゃ!」


「それだけは全力で阻止するからな」


 軽口を叩き合っていると、

 受付のお姉さんがふっと笑った。


「Cランクの依頼が出たら、

 ゴードンさんのお家に使いを出しますね。

 自由の風は(フライハイト)、私達の期待のパーティですから」


「……うわ、むずむずする」


 素直に嬉しいのに、

 素直に受け取るとこそばゆい。

 そんな俺を見て、アノンが鼻で笑った。


「ふんっ。凡人のくせに、

 期待されて鼻の下が伸びておるのじゃ」


「伸びてねえよ」


「伸びてますよ?」


 セリアにまで追撃され、

 カルドには「事実だ」と言われた。

 どうやら伸びていたらしい。


「……とにかく、ありがとうございまーす。

 また顔出します」


 照れ隠しに頭を掻きながら、

 俺たちはギルドを後にした。



 青空が広がるクロムの街。


 銀プレートを腰にぶら下げた

 俺達の足取りはいつもより少しだけ軽かった。


 

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