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0055.充実した日々



 まよねこたちが来た次の日、

 俺たちの予定はがらりと変わった。


 セリア、まよねこ、ミキは留守番。

 俺とカルドとアノンの三人で

 依頼に出ることになった。


 その間、セリアはミキに家のことを教え、

 洗い物や洗濯などを一通り叩き込む。

 まよねこは納屋の改装に着手してくれていた。


 理由は単純だ。

 留守を任せられる人材を用意しておきたい。


 キロロの世話はというと、

 じいさんが「これはええ経験じゃ」

 と言いながら嬉々としてやっている。

 

 ドラゴンに餌をやりながら笑ってる

 車椅子の老人、絵面的にはかなりカオスだが、

 本人は楽しそうだし

 キロロも懐いているので問題なしだ。


 とはいえ、アノンが

 「妾も行かねば戦いの勘が鈍るのじゃ」

 とかなんとか言ってたくせに


 「この依頼はつまらん」

 「こんなのは妾のする仕事じゃない」

 「パッとせんのじゃ、パッと」


 などぶーぶー言ったせいもあって、

 この日はDランク依頼を一つこなしたところで

 時間切れになってしまった。

 

 帰り道、アノンは

 「本気を出せば三つは終わったはずなのじゃ」

 と威張っていたが、実際問題は、

 足を止めてお喋りしていた戦犯である。


 

 四日目。


 今度はミキとまよねこに、

 留守番の本番を任せることにした。


 ミキは「留守番任務、がんばるヨ!」

 と敬礼ポーズを取り、


 まよねこは

 「拙者、命を賭してこの拠点を

  守り抜く所存……デュフ」

 と妙なテンションで答える。


 キロロは、庭で尻尾をぱたぱたさせ、

 俺達を見送ってくれた。


 この日は久しぶりに、俺、カルド、セリア、

 アノンの四人でパーティを組んで依頼へ。

 やっぱり四人そろうと戦闘も移動も段違いだ。


 一つ目はキャラバンの護衛。

 二つ目は小鬼の巣の掃除。

 三つ目は薬草採取の護衛兼調査。


 どれも特筆する危険はなかったが、

 法術も魔術も物理も揃っていると、

 Dランク依頼はほとんど「作業」レベルに

 なることを実感した。


 それからも俺たちはペースを落とさず

 依頼をこなしていき六日目にノルマだった

 「Dランク依頼十件」を無事に達成した。


 ガレスさんとの約束の条件を満たしたことで、

 俺たちは一日の休みにすることになったのだ。


 その頃には、キロロもある程度

 自由に飛べるようになっていた。


 まだ全員まとめて乗せるのは無理だが、

 一人くらいなら背中に乗せてふわりと浮かび、

 ゆっくりなら家の周りを一周できる。



 休みの日というのもあって、

 キロロの順番待ちが始まった。



 まずセリアが、ちょこんと背中によじ登り、

 ぎゅっと首の根元を抱きしめる。

 

「わぁ……高いです……!」


 キロロがぎこちなく羽ばたいて

 空へ浮かぶたび、セリアの声が弾んだ。



 次はアノンだ。


「よいかキロロ! 妾を竜騎兵へと導くのじゃ!

  いざ参るのじゃぁぁ!」


 と乗った瞬間、キロロの翼がばさばさと暴れ、


「きゅい? きゅいきゅいきゅい!!」


 そのまま見事に振り落とされた。


「裏切られたのじゃぁぁぁ!」と

 地面でじたばたする紅蓮さんを見て、

 俺とカルドは声を出さずに笑った。



 そしてまさかの三番手は、ミキだった。


「搭乗許可、いただいたヨ。

 ミキ、竜騎兵モードに入るヨ!」


 ごぼうを掲げてキリッとした顔で背に乗り、

 きゅいきゅいと嬉しそうに鳴くキロロと

 ふわり、浮かび上がる。


「うわ、普通にバランスいいな」


「システムが補正しているヨ!」


 意味はよく分からないが、

 ミキはミキで楽しそうだし、

 キロロも楽しそうなのでよしとする。


 一方その頃、納屋のほうも、

 着々と姿を変えていた。


 まよねこは真面目で愚直な性格らしく、

 朝から晩まで寸法を測っては木材を切り、

 壁を張り、床を補強していた。


 現場の経験は伊達ではない。


「キロロ殿の寝床スペースでござるからして、

 耐荷重を最大限に……デュフ……」


 独り言の内容はアレだが、仕事ぶりは一流だ。


 出来上がっていくドラゴン用スペースに、

 キロロも早々と出入りするようになった。


 飲み水用の大きな桶、干し草のマット、

 ひんやりした石畳のゴロ寝スペース。


 キロロはそれらを確認するたびに

 「きゅいきゅい♪」と鳴き、頭や身体を

 まよねこに擦りつける。


「ドラゴンのキロロ殿が……

 拙者に懐いておられるでござる……尊い……」


 まよねこはほぼ毎回うるっとしていた。


 アノンは最初は

 「何故あの豚がキロロに好かれておるのじゃ!

  世も末なのじゃ!」と抗議していた。


 が、じいさんが

 「母屋にも部屋を増築する話が出ておるぞい」

 と言った瞬間、態度が一変した。


「ふむ、豚のくせによう働くではないか。

 褒美として妾の私室も増築する権利を

 貴様に与えてやるのじゃ」


 どの口が言うのかと思いつつ、

 まよねこは「ありがたき幸せ……!」と感涙。

 ちょろい × ちょろい の化学反応である。


 ミキもまた、セリアと並ぶレベルで

 家事をこなせるようになっていた。


「洗濯完了したヨ。次は夕飯の支度を手伝うヨ」


「助かります、ミキさん。包丁は危ないので、

 野菜を洗うのをお願いしますね」


 だが、セリアはふと遠い目をしてつぶやいた。


「……私のアイデンティティが、

 日々侵食されている気がします」


 家事万能ヒーラーの座を脅かされて

 若干焦りを覚えているらしいが、

 ミキはミキで「セリア、すごい人ヨ」と

 全肯定しているので、まぁうまく回っている。


 まぁ、二人共撲殺系だしな。と呟いたことで、

 睨まれたのは俺が悪かったと思う。ごめん。

 

 そんなこんなで、依頼を進めながらも、

 俺たちの仲は深まり、じいさんの家は

 日に日に拠点らしく賑やかになっていった。


 ……あの人が来るまでは。



 七日目の夜。

 明日、ガレスさんのところへ

 昇格試験の話を聞きに行こうと、

 皆で盛り上がっていたときだった。


 コン、コン。


 戸を叩く音が、静かな夜に小さく響いた。


「夜なのに……?」


 セリアが小首をかしげる。

 じいさんも「誰かのう?」と眉をひそめた。


「念のため、俺が出る」


 立ち上がった俺は、腰のナイフに

 そっと手を添えながら戸口へ向かう。


 外から漂う気配を空間把握で探るが、

 敵意や殺気は感じない。


 ゆっくりと戸を引くと、

 そこには四十代くらいの男が立っていた。


 長い黒髪を軽く束ね、穏やかな金色の瞳。

 耳は鋭く尖り、気品と威厳を兼ね備えた

 洗練されたエルフの雰囲気をまとっている。


「夜更けにすまない。ギルドに行ったら、

 君たちはここにいると聞いてね」


 柔らかな声。落ち着いた低音だった。


「ど、どなたに……用でしょう?」


 思わず敬語になってしまう俺。


 そのとき、背後からアノンの声が飛んできた。


「なんじゃ。適当にあしらってはよう戻れ。

 さもなくば貴様の肉は妾が……」


 が、そこでアノンの言葉はぷつりと途切れた。


 不審に思って振り返ると、

 アノンが玄関先で棒立ちになり、

 その男を凝視していた。


「ち……」


「ち?」


「ち……」


「なんだよ」


「父上!!」


 叫ぶような声が、家の中に響いた。

 男はふわりと目を細めゆっくりと腕を広げる。


「アノン〜。探したよ〜!

 昇格のお祝いに来たよ〜!」


「父上〜! ありがとうなのじゃ〜!!」


 さっきまで尊大だった

 紅蓮の大魔導師|(自称)は

 見る影もなく子どものように

 その胸へ飛び込んでいった。


 黒髪のエルフの男は、その小さな身体を

 当然のように受け止める。

 そして、くしゃりと優しく頭を撫でた。


「よしよし。ずいぶん逞しくなったね、アノン」


「当然なのじゃ! 妾は父上の娘で、

 紅蓮の大魔導師じゃからな!」


「うんうん。世界一可愛い大魔導師だとも」


 べったべたに甘やかす父親モードである。

 アノンは「や、やめるのじゃ!」と言いつつ

 まったく離れようとしない。


 俺とカルドとセリアは、

 その光景を口をぽかんと開けたまま見ていた。


 ……父上? とか呼んでたよな、今。

 ということは、この人が。


 何度も耳にした名。

 十数万人いる冒険者の、最上位。


 たった十名ほどしかいないと言われる、

 「Sランク」のひとり。



 千年郷せんねんきょう ゼノン。

 その本人なのであった。

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