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0052.ヌス洞窟

放出パート2です!


つぎは19:40で!



 俺達は、そのままヌス洞窟の奥へと向かった。


 残り六日で十件。


 一日二件ペースは絶対に崩したくない。

 面倒な依頼で足を取られたら、

 ガレスさんの「はは~ん、まだ早かったか」が

 待っているに違いないからだ。余裕大事


 いや、それ以前に

 アノンのドヤ顔講釈が飛んでくる。

 それだけは勘弁してほしいかな……。



 辿り着いたヌス洞窟の入口は、

 かつて栄えていただけあって、

 人の手が入っていたのが一目で分かった。


 岩肌はなめらかに削られ、

 天井も崩れにくいよう支柱が

 組まれた形跡が残っている。


 けれど、今は明かりも少なく、

 冷たい風がひゅう、と抜けていくばかりだ。


 両側の壁に取り付けられた

 古びたランタンと、色を失った案内板。


 かつて賑わっていた喧噪が

 遠い過去の幻に変わったような。

 そんな、妙な寂しさが胸に残っていた。


(……こういう「終わった場所」って、

 なんか弱いんだよなぁ)


 なんて、ちょっとノスタルジーに

 浸りかけていたところで。

 カルドが低く声をかけてきた。


「足跡がある」


 指さされた先には、確かに靴跡があった。

 新しい。まだ土が潰れ切っていない。

 ここ数日のものだろう。


 それに、入口から少し入ったあたりには、

 車輪の跡も残っていた。


 土の削れ方を見るに、

 荷車か何かを通したようだ。


「……重さはそれなりだが、深さが足りん。

 人を乗せた荷台の跡じゃないな」


 カルドが淡々と評価する。

 俺も膝を折り、指で跡をなぞった。


(確かに、これで奴隷運んでたら、

 もっと深くえぐれてるよな)


 安堵が胸に広がる。


 奴隷関連の話には

 どうしても敏感になっている。

 自分が通ってきた道だからこそ、余計に。


 とはいえ、安心しきるわけにもいかない。

 荷台で運ぶ『ヤバいモノ』はいくらでもある。


「油断はなしな。二人とも、構えたまま進むぞ」


 無言で合図を送ると、

 カルドは大盾を、セリアは杖を握り直した。

 俺は先頭に立ち、洞窟内の空気を吸い込む。


 冷たい空気の向こうに、湿った土と岩の匂い。

 それに、僅かに油と鉄の匂いが混じっている。


(……灯りと金属、か。採掘か、何かの機械か)


 入口から少し中に入ったところで、 

 俺は空間把握を広げた。


 だが、範囲内にいるのは、

 小さなコウモリや虫の気配くらい。

 すぐ近くに人影はない。


 それでも三人とも一言も発さず、

 足音を殺して進む。


 中も、入口と同じく、

 人の手がしっかりと入っていた。

 分かれ道には朽ちかけた看板が残されている。


『第三坑道 →』『蛍光石積み出し場 ←』


 字はかすれて読みにくいが、

 方向くらいは分かる。


 地図もところどころに掲示されていて、

 当時は迷う余地もなかったのだろう。


「……相当栄えてたんだな、ここ」


「ですね……。

 こういうところ、ちょっとワクワクします」


 セリアが小声で応じる。


 その横顔は、先ほど狼を撲殺していた

 天使の悪魔とは別人のように、

 純粋に楽しげだ。ギャップがすごい。


 奥へと進むにつれ、足元に並行する

 鉄のレールが目につくようになった。

 鉱石を運ぶためのトロッコ用の線路だろう。


 問題は、そのレールの状態だった。


 分厚く積もったはずの砂埃が、

 一部だけ払われ、金属の鈍い光が見える。


「……最近、動かしてるな」


 カルドが呟く。


「うん。埃の積もり方が違う。

 ここ、何度もトロッコが往復してる」


 俺達はレールに沿って、

 さらに奥へと進むことにした。


 進むほどに、空気が変わる。

 湿気に混じって、紙とインク、それに油……

 何かの機械の匂いが強くなっていく。


 やがて、俺の空間把握が

 二つの人型反応を捉えた。


「……二人いる。どっちも人間サイズ。

 武装っぽいものは……うん。

 少なくとも今はなさそうで、座ってる」


 俺は振り返り、

 指で簡潔に合図を出してから、

 口元に手を寄せて囁いた。


「これから先、声の届く範囲だ。

 警戒は解かずに構えだけ維持。

 何かあったらすぐ下がれるよう準備」


 カルドは「了解した」と短く頷く。

 セリアもこくりと頷きながら、

 杖を胸の前で構える。


 気配のある方角へと慎重に進んでいくと、

 やがて、岩の壁越しに声が聞こえてきた。


『いやはや、拙者のせいでこんな狭いスペースに

 押し込められる形になってしまいまして。

 ……デュ……デュフ……!

 ほ、本当に申し訳ないというか、ふひぃ!』


 ねっとりと湿度を帯びたやたら早口な声。

 息継ぎの間が変で、妙なところで震える語尾。


 俺とカルドとセリアは、ぴたりと足を止めた。


(古のオタク?)


 前世日本のネット文化を知っている身として

 思わず顔を覆いたくなるテンプレだった。


 横を見ると、セリアが震えている。

 とても分かりやすく顔を曇らせていた。


 有り体に言えば、

 「気色悪い」がそのまま表情になっていた。


『い、いやその……拙者はですね……、

 ミキたそがお側にいて下さるだけで十分。

 いえ、むしろそれ以上の幸せは

 存在しないのでござる……デュフ……!

 ミキたそさえいてくれれば、

 拙者の人生、フルコンプ確定でして……

 ふひぃ……尊すぎてSAN値が

 回復いたすでござるよ……!』


 セリフが長い。情報量が多い。

 そして語彙が完全にいにしえのオタクだ。


(こいつ、絶対俺と同じ世界から来てる)


 確信した瞬間、追い打ちが入った。


『ミッキミキにしてあげるヨ!』


 どこから出ているのか分からない、

 電子音混じりの、妙に高い声。

 スピーカーから押し出されるようなあの声。


「あ、間違いないわ」


 心の中で断言した。

 ミッキミキにしてあげる。

 とにかく分かったことが一つある。


(敵では、ない。たぶん)


 これは少なくとも、

 奴隷売買や盗賊ギルドの空気じゃない。


 どっちかというと

 「こじらせたファンの隠れ家」の臭いだ。


 俺は判断を下し、ナイフを下ろした。


 カルドは、ちらと俺を見て、眉をひそめる。

 「本当に大丈夫か?」と顔に書いてあるが、

 殺気も敵意も感じていないのは同じらしい。


 セリアに至っては、杖を握る手が

 ぷるぷる震えている。別の意味で危ない。


 最後の角を曲がると、

 ぽっかりと広がった空間に出た。


 そこにいたのは──


 ぽよぽよした体型に、サラサラの前髪。

 白い肌は不健康なまでに青白く、

 背中を丸めた姿勢で何やら机に向かう眼鏡男。


 そして、その隣に立つ、

 信じ難いほど完成度の高い等身大の少女像。


 目が行くのは、まずそっちだ。


 黄色よりのパステルカラーな黄緑の

 長いポニーテールに、真っ白な肌。

 薄いグレーと白を基調とした近未来な衣装。


 腕や脚には、どこか機械的なデザインライン。

 胸元には『MIKI 01』と書かれてあり

 手にはトレードマークの謎のごぼう。


 ……初風ミキ。


 俺のいた世界で、

 誰もが一度は見たことのある、

 あの「電脳歌姫」と瓜二つの姿がそこにある。


 しかも、ただの人形じゃない。

 時折、首をかしげたり、瞬きしたり、

 視線を動かしたりしている。


(こいつ、動くぞ……!!)


 思わず、心の中で叫んだ。

 俺の隣でセリアが、怪訝な表情から一転。

 真剣な顔つきになる。


 セリアの目にはこう映っているのだろう。

 「怪しい男に軟禁された女の人」。


(……まずい。このままだと、

 天使の悪魔モードが発動する)


 案の定、俺達が姿を現した瞬間、

 セリアの中で何かがカチリと

 音を立てたのが分かった。


「そこの男の方!」


 杖を構えたセリアが、ビシッと男を指さす。


「今すぐその女性を離しなさい!!」


 完全に誘拐犯を見る目だ。

 まぁ、事情を知らない人が見れば、

 そう見えるのも無理はない。


「ぶ、ぶひぃ!?」



 2000年代初期を感じさせる、

 典型的ないにしえのオタクが、

 間抜けな悲鳴を上げた。



 

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