0050.ドタバタEランク依頼
さて、キロロを拾ったことで、
……俺達は忙しくなった。
何故なら、一週間で十五の依頼をこなしつつ、
ちびドラ育成もしないといけないからだ。
……と、建前ではそう言えるのだが、
本音を言おう。
「キロロを構いたい! それだけである!」
全員の胸の内を、一言でまとめるとこれだ。
詳細は以下である。
「私はおじいちゃんの世話もあるし残りますから
三人で行ってきてくれませんか?」
セリアが胸の前で手を組み、
殊勝な表情で言う。
が、目線は明らかにキロロに見つめていた。
「およよ? 妾は熱があるやもしれぬ。
非常に残念じゃが、妾が留守を守ろう」
アノンは額に手を当て、
フラフラしながら椅子に腰掛ける。
演技が舞台じみている。
「……俺の筋肉が、
今日は休むべきと言ってるみたいだ。
すまん。お前らに任せる」
カルドは、なぜか真面目な顔で
自分の上腕二頭筋を見つめていた。
筋肉会議があったらしい。
などと供述しており……以下略、である。
「まぁ、いいさ」
俺はニヤリと笑い、
「じゃあ三人とも留守番してな!!
キロロ、二人でいこうぜ!」
と、ちびドラの背に飛びついた。
「キュイ〜♪」
キロロはびくっと身体を震わせ、
不器用に羽をパタパタさせる。
黄金の背中は、思ったよりしっかりしていた。
鱗が装甲みたいで座り心地はよくないが、
安心感はある。
「やっぱりな!
コイツの元の重さを考えれば、
俺一人くらい誤差なはずだ!」
「ず、ずるい!
キロちゃん、私もお願いします!」
セリアがローブの裾をつまんで、
小走りに寄ってくる。完全に子供の顔だ。
「妾も! 妾もじゃ〜!」
アノンが杖を掲げながら突っ込んできた。
テンションだけは誰よりも高い。
「金壁……キロロはみんなの仲間だ。
独り占めは争いを生むぞ」
カルドは何気なく名前をすり替えつつ、
もっともらしいことを言う。
どう考えても今「金壁嶄劉七紅葉」って
呼ぼうとしてたな、お前。
俺は相棒に生暖かい視線を向けつつ、
ニヤリと口角を上げた。
「あれれ~? おかしいなぁ。
さっきまで留守番しなきゃって
言ってなかったっけ〜?」
三人同時にビクッ、と肩を跳ねさせる。
「あ、おじいちゃんは大丈夫なようです!!」
「妾も何か熱が引いたようじゃ!」
「筋肉の意見を聞いていたら、
身体は鍛えられない。そうだろ?」
熱い手のひら返しである。
勢いがありすぎて手首から先が
どこかに飛んでいきそうだ。
「……はぁ。仕方ないな。
じゃ、全員で一回乗ってみるか!」
とにかく、一度やってみよう精神。
俺たちの悪い癖だ。
四人でキロロにしがみつく。
背中に俺、首のあたりにセリア、
腰のあたりにアノンがしがみつき、
尻尾の上でカルドがバランスを取る。
「きゅ、きゅっ……きゅ〜ん!!」
羽がバサバサとむなしい音を立て
風を切ったかと思うと……。
「……あ、これあかんやつ」
ぽてり。
キロロは、その場で
前足から崩れ落ちるように倒れた。
乗っていた俺たちは、見事に草原へ四散。
見事な四人同時受け身である。
「いってぇ……!」
「きゃっ!」
「ぬおっ!」
「……」
カルドだけ無言でムクリと立ち上がった。
一人だけ大きく飛ばされたから多分一番痛い。
「四人が乗るには、まだ早いな……」
現実を認めるしかない。
まだ身体も回復しきっておらずそもそも雛竜。
無茶させて折れでもしたら笑えない。
「まぁ、連れて歩くには目立ちすぎるし、
キロロは多分まだ弱い」
いざ狙われたときのことを考えれば、
護衛を置くのはむしろ当然だ。
「キロロ。お前の安全のためだ。
お留守番、出来るか?」
「きゅ〜……」
しょぼん、とした顔で鳴く。
黄金色の瞳がうるうるしてて、
胸が締め付けられる。ずるいぞこの野郎。
が、ここで甘やかすと
「泣けば何とかなる」と学習しそうだ。
教育方針というやつである。
「今日はセリアが残る! 明日はアノン!」
俺は勢いで指を突きつけた。
「俺とカルドは我慢!!
納屋に住んでるし夜構えばいい!
それで今日でEを五つ終わらせて、
明日から一日二個ペースでD依頼!!」
ざっくりとしたスケジュールを宣言する。
これがこなせなきゃ、
そもそもCランクなんて無理だ。
「キロロは、ついてきたいなら、
この二日で自分だけでも飛べるようになれ!」
グッと親指を立てて見せる。
指差しよりは前向きに見えるだろう。多分。
「きゅーん♪」
キロロは俺の胸元に顔をすり寄せてきて、
猫みたいに頬を擦り付けてくるだけだった。
……かわいい。
けど、分かってるのかどうかは不明である。
そんな中、カルドが小さく咳払いした。
「……オマエ、トベル。トモニ、イケル」
例の胡散臭い原始人風会話である。
「ヴェルさんの仕業ですね?」
セリアがじとっとした目で俺を見る。
「いや、たしかに俺がやってたけどさ。
セリアの言い方よ」
だが、カルドは少し頬を染めつつ、
真面目な顔のまま言った。
「この話し方なら、伝わってる気がするんだ」
「なるほど?」
と、セリアもすぐさま便乗する。
「キロチャン、ダイスキ。
キョウ、イッショ、ワタシ」
「きゅーん♪」
尻尾をぱたぱた振りながら、
セリアのほうに寄っていくキロロ。
「ホントだ! 伝わりました!!」
「……実際のところは分からんけどな」
まぁ、楽しそうだから良いか。
「ワラワ、キサマノ、アルジ。
ボンジン、ワガデシ。
ワラワ、ウヤマ……ぐぬぅ!!」
アノンが謎の支配者ロールで喋り始めた瞬間、
キロロがパクリと頭に噛みついた。
「はぁ〜なぁ〜せぇ〜!!」
じたばた暴れるのじゃロリをよそに、
俺たちはとりあえず話をまとめる。
「じゃ、今日はセリアがキロロと留守番。
じいさんの世話もあるし、ちょうどいい」
「はいっ! 任せてください!」
セリアは満面の笑みでキロロの首元を撫でる。
黄金の鱗が気持ちいいのか、
キロロも喉を鳴らしていた。
「妾の番は明日じゃな!
魔力の扱いを仕込んでやるのじゃ。
雛竜といえど、早いうちから
マナの流れを覚えさせておくのは悪くない」
アノンは若干噛まれ跡を押さえながらも、
やる気だけは満々だ。
「じゃあ、行くか」
俺とカルドは互いに頷き合い、装備を整えた。
魔法ナイフ、アーマービーの鎧、大盾と大剣。
もう、Fランクとは見た目からして違う。
「よし、なら行ってくる!」
「気を付けてのぅ。ホッホッホ。
何かあったらさっさと逃げるのじゃぞ!」
じいさんに手を振り、
俺たちはクロムの街へと向かった。
◇
その日の依頼は、事前に目星をつけていた
「埋め合わせ用」のEランクを五つ。
難易度こそ低いが、足を使うものばかりだ。
コレを手分けして行った。
一つ目は、近くの街までの護衛。
荷馬車を引く商人のオッサンはカルドが担当。
道中やたらと話が長かったらしいが、
危険はほとんどなかった。
出てきたのも狼もどきが数匹程度で、
カルドの大盾で即片付きだったらしい。
二つ目は、近隣の調査。
新しく出来た獣道の先に、
魔物の巣がないかを確認する仕事だ。
コレは俺が担当。空間把握で索敵しつつ、
罠など無いかをチェックする。
「怪しい穴」はいくつかあったが、
全部ただのキツネの巣だった。
三つ目は、鉱石の採掘補助。
これは俺とカルドでやった。
坑道の中は懐かしい匂い。奴隷時代を思い出し
一瞬顔が引きつったが、今は違う。
同じ「石を運ぶ」でも、
今は報酬もあれば、隣にカルドもいる。
あのときより、ずっと軽かった。
四つ目は、井戸の清掃と魔物侵入経路の確認。
これは俺とアノン。
何故このような場所を妾が〜!!
とうるさいが無視をしておいた。
水の匂いで寄って来る
スライムもどきが一匹いたが、
アノンの火球で弾け、泡になって消えた。
村の子供たちが目を輝かせて「すげー!」と
言われたアノンが誇らしげで微笑ましかった。
五つ目は、街道沿いの「怪しい光」の調査。
妾の出番じゃ! とアノンが向かった。
夜になると光るというので
身構えて行ったらしいがただの発光苔だった。
採取してお土産に持って帰ったらしい。
きっとセリアとキロロが喜ぶだろう。
「……で、どうにか一日で五つか」
夕方、ギルドに戻って報告を終える頃には、
さすがに足が棒のようになっていた。
「だが、これでEランクのノルマは達成だ。
明日からはDだな」
「一日二つペース、だったな」
「あぁ。やれるか?」
「やるさ」
カルドの短い返事に、俺も笑って頷く。
受付で確認すると、間違いなく
「Dランク依頼資格」の欄には丸が付いた。
「よし、じゃあ帰るか」
「キロロのところへ、だな」
「アヤツが妾を待っておる!!」
俺たちは足どりこそ重いが、
気持ちは軽く、クロムの街を後にした。
◇
じいさんの家に戻ると、
納屋の前で不思議な光景が広がっていた。
セリアがローブを翻しながら走り、
その上空をキロロが低く旋回している。
まだまだぎこちないが、
今朝より明らかに長く飛べていた。
「おかえりなさい!」
セリアが両手を振る。
「見てください! キロロ、
一人でここまで飛べるようになったんです!」
「きゅいっ!」
自慢げに一声鳴き、
俺たちの頭上をくるりと回るキロロ。
まだよろめくが、着地も安定していた。
「……こっちも、ちゃんと進歩してるわけだな」
「あぁ」
カルドが小さく笑う。
こうして、俺たちは一日で
五つのEランク依頼をこなし、
Dランク依頼の受託資格を手に入れた。
そして、雛竜キロロもまた、
少しだけ「冒険者の仲間」に近づいたのだ。




