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0046.次なる目標



 Eランクになった俺たちは、

 案の定というか予想通りというか……。


 とにかく、アノンがうるさかった。


「祝宴をせねばならんのじゃあああ!!」


 朝からそのテンションだったので、

 諦めてギルド併設の食堂に向かい

 ご飯を食べることになった。


 もちろん、ゴードンじいさんも招待である。

 アノンが「当然じゃろ」と譲らなかった。


 じいさんは強かな男だ。


 ゼノンの話をすれば

 アノンが喜ぶと完全に理解していて、

 実際に何度かそれでアノンを転がしている。


 その結果、アノンはすっかり

 じいさんを気に入ったようだ。ちょろい。


 奥の大きめのテーブルに陣取った

 俺たちの前に、料理が次々と運ばれてくる。


 肉の香り、スープの湯気、

 焼きたてパンの香ばしさ。

 うーむ、昼前とは思えない量だ。


「なれば、凡人共よ! 杯を掲げるがよい!」


 アノンが、堂々とした声で言った。


 手に持っているのは、

 どう見ても子供用グラスに入った、

 泡立ちまでついたリンゴジュースである。


(100%リンゴジュースなんだけどな……)


 とツッコミを胸の中にしまっておく。


「良いか、たかだかEランク。

 冒険者からすればただの一歩。

 じゃが、妾たちにとっては大いなる一歩!

 乾杯!!」


「「「「かんぱ〜い!!」」」」


 グラスのぶつかる音が、

 やたら大げさに響いた。


 月面に旗でも立てたのか、

 ってくらいのテンションである。


 乾杯を終えた俺たちは、

 さっそく料理に手を伸ばした。


 分厚いポークステーキに、

 山盛りポテト、野菜のグリル、

 香草をふんだんに使ったスープ。


 どれもこれも、

 庶民感覚からすれば贅沢メニューだ。


 じいさんなんか、年齢を感じさせない勢いで

 次々と皿に手を伸ばしている。


「おじいちゃん、はしたないですよ……?」


 セリアが困ったふりをしながら窘めるが、

 その口元はどう見ても笑っていた。


 目も口も柔らかくて、

 見ているこっちまで頬が緩む。


(いいなこういうの。微笑ましい)


「妾のおごりじゃ!

 使い切れぬほどお金はある。

 たんと食べるが良い! ワッハッハ!!」


 アノンが胸を張って宣言する。


 金持ちが言うと、

 こうも説得力があるんだなと

 妙なところで感心した。


 ふと周りに目を向けると、

 他の冒険者たちがこっちを見て

 ヒソヒソやっているのが見えた。

 これだけ騒いでいれば当然か。


(ギルド食堂でこのテンションなら、

 そりゃ目立つよな)


 そう思っていたところに、

 聞き慣れた笑い声が背後から飛んできた。


「景気が良いようだな、お前たち」


 ガレスさんだ。


 大皿を片手で抱えながら、

 豪快に笑っている。


「ジャンジャン食って金を使ってくれ!

 それで俺のミスで減給された分を

 賄ってくれたら助かる。ガッハッハ!!」


 そう言うと当然のように俺たちのテーブルへ

 ドカッと腰を下ろした。


「ふむ、ガレス。

 貴様も飲むことを許してやろう!

 こやつに酒を持ってきてやってくれ!!」


「ガッハッハ! 嬢ちゃんは話が早え!」


 アノンとガレスさんの相性は、

 よくわからない方向で良いみたいだ。


「ガレスさん、仕事中じゃないのか?」


「何を言っている。ウチは結果主義だ。

 これで仕事ができるなら良いんだよ。

 出来なかったらまた減給。それだけだ!!」


 豪快な言い草だけど、

 受付のお姉さんから聞いた話を思い出す。


 今回の依頼難度ミスの件は、

 全部ガレスさんが背負ったらしい。

 

 本来なら依頼受付の担当部署にも

 ペナルティがいく案件だ。


 けどガレスさんは、

 本部に向かってこう言い切ったと聞いた。

 

「手を抜いた奴はいない。

 仕組みを作っていなかった俺の責任だ」と。


「ガレスさん、俺は貴方のこと、

 かっこいいと思ってますよ」


 心の声じゃなく、

 ちゃんと口に出してみた。本心だからだ。


 部下のせいにする上司なんて、

 前世でいくらでも見てきた。

 

 でも、この人はそうじゃない。


 ただそれだけのことが、

 実はとんでもなく大事だ。


「何だ、俺にそっちの趣味はねぇぞ?

 ガッハッハ!!」


「安心してくれ、俺も女が好きだから」


 くだらない冗談を飛ばし合って笑っていると

 ガレスさんの酒が運ばれてきた。


「ふむ! なら改めて!」


 ガレスさんがジョッキを掲げる。


「自由の風の、ますますの活躍に!

 乾杯!!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 昼間だというのに、

 テーブルの熱気はどんどん高まっていく。



 しばらくはひたすら飯と笑い声。

 

 ステーキもスープも消え、

 パンのカゴも空っぽになった頃、

 ほろ酔いのガレスさんが、

 ジョッキをテーブルに置いて言った。


「お前たちのDランクの試験についてだがな」


 ガレスさんの声はさっきまでと違う

 真面目なモノだった。


「そこも試験免除にできる。そこまでだがな。

 だが、ついでにその時点で級を飛ばして

 Cランクの試験を受けさせてやれる」


「……え?」


「どういうことじゃ?」


 俺たちの視線が一斉に集まる。


 ガレスさんは、空になったジョッキを

 指でくるくる回しながら説明してくれた。


 F→Eと、E→Dの昇級は、

 コツコツ依頼をこなし、依頼主の声を拾い、

 ギルド側が「その冒険者の人となり」を

 見定める期間らしい。


 ここは飛び級免除できない。


 銅ランク、と呼ばれるFとEを超える

 最大の壁は人間性だと。


 簡単な仕事ですら蔑ろにする奴に

 大きな仕事は任せられないってことらしい。


 一方で、銀ランクと呼ばれるDとCは実力。

 金ランクと呼ばれるBとAは信用。

 試験の内容も、その銀ランクからは

 ほぼ「腕前勝負」になる。


「へー……ってことは、このプレート、

 次は銀になるってことなんだな」


「なんだ、お前今の話聞いて

 気にするのはそんなところかよ!」


 バシバシと背中を叩かれる。普通に痛い。



「……てわけで、人間性は疑うこたねえだろ。

 町でも評判いいぜ? お前ら」


「ほ、本当ですか?」


 セリアが目を丸くする。


「ああ。特にカルドとセリア、

 お前たちは最高だって噂だ」


「……光栄だな」


「そ、そんな……身に余る評価です……」


 カルドはわずかに口元を緩め、

 セリアは真っ赤になって俯いた。


「なぬ! 妾はなんて言われてるんだ!」


 アノンが身を乗り出す。


「ははは! 嬢ちゃんとヴェルは、

 空気読めないことがある、だとさ!」


「ぐぬぬ! 納得がいかぬ!

 其奴を呼んでまいれ!」


 アノンが机を叩いて怒る横で、

 俺は力なく笑って流した。

 心当たりがありすぎて、何も返せない。


「というわけでだ」


 ガレスさんは、少し真顔に戻る。


「一週間だ。条件は一週間以内に、

 残りのEランク任務五個を消化して、

 Dランク依頼を十個こなせ。

 それで昇格資格が手に入る」


「……一週間で、十五件?」


「お前らなら出来るだろ。

 グレイヴバードの時に見せた手際と行動力。

 そして度胸があればな」


 その上で、とガレスさんは続ける。


「そしたら“飛び級”で

 Cランクの昇格試験を受けさせてやる。

 落ちればD、受かればC。

 お前たちにデメリットはない」


 胸の奥で、何かがぼっと燃え上がる。


「まぁ、一週間でEはともかく、

 DをこなせないようじゃCは無理だからな。

 せいぜい俺を楽しませてくれよ」


 最後にニヤリと笑って、

 ガレスさんは立ち上がった。

 

 次の瞬間には、

 完全にギルドマスターの顔になって

 カウンターへ向かっていく。


(やっぱり、ただの酔っぱらいじゃないんだ

 あのおっさん)


 そんなズレたことを考えながらも、

 俺の闘志はしっかり火がついていた。


「ってわけらしいが……やるよな?」


「勿論だ」


「はいっ!」


「無論じゃ!」


 即答だった。

 誰一人として迷っていない。


「目指すは飛び級でCランク!

 行くぞ、自由の風だ!!」


「ホッホッホ、デザートを頼むぞい〜!」


 じいさんの締まりのない注文が、

 妙にいい感じの締めになって、

 テーブルは笑い声に包まれた。



 こうして、俺たちの祝宴は、

 まだまだ賑やかに続いていくのだった。



 

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