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0045.はじめの一歩

 


 昨日いち早く寝落ちしたせいか、

 目が覚めたのも一番だった。


 隣ではカルドが、

 死んだように静かに寝ている。

 

 なるべく音を立てないよう、

 そろりそろりと布団から抜け出した。


 引き戸を少しだけ開けると、

 ひんやりした朝の空気が頬を撫でる。

 じいさんの家を抜けて外に出ると、

 畑の向こうにいつもの草原が広がっていた。


「ん〜、いい曇りだな」


 高く広がる空に、でっかい綿を

 ぐいっと引き延ばしたみたいな白い雲。

 

 黒くもなく、薄くもなく、

 雨の気配は当分なさそうな、

 「今日も一日よろしく頼むぞ」な雲である。


 俺は畑から少し離れた草原まで歩き、

 腰のナイフを引き抜いた。


(感覚、忘れねえうちにやっとかないとな)


 新しい、俺の必殺技。

 風の付与魔術の、応用版だ。


「……よし」


 ナイフをつまんで、

 手首でくる、くる、と軽く回す。


 大気に散らばるマナが、

 ナイフの周りに寄ってくる感覚に集中して、

 さらにくるくると回す。


 手の中のナイフが、ふっと軽くなった。


「溜まったら──」


 草原の真ん中に立って、振り下ろす。


 シュバババッ!!


 音もなく、風がねじれて爆ぜた。

 目には見えないのに、前方の草が

 ミシンに掛けたように細切れになる。


「おぉ、出来た出来た!」


 思わずニヤける。

 昨日の一発だけの偶然じゃない。

 再現性は、ばっちりだ。


「奥義『繚乱旋風エングレイヴ』……って感じかな。」


 ひとまず必殺技の確認は完了。


 あとは、体内にマナを吸う練習だ。

 これは座る。家の中でやればいい。


「外でやってるところセリアに見つかったら、

 絶対なんか誤解されるしな〜」


 などと、非常に正しい自己分析を口ずさみ

 草原を後にしていると。


「随分と早い朝ですね、ヴェルさん。

 で、誤解ってなんですか??(にこにこ)」


「セ、セリア!? オ、オハヨウゴザイマス!」


 家の前、完全に進行方向で待ち構えていた。

 にこにこ笑顔で立っている。怖い。主に目が。


「はい、おはようございます。

 で、なんですか?(にこにこ)」


「無茶はしてません!!」


「もちろんですよ。

 するわけ……ありませんよね?」


「ハイ、オッシャルトオリデス」


 片手をぎゅっと握られ、

 そのまま家の中へ半ば連行される。

 

 ドキっとする。恋愛的な意味で。

 ではなく恐怖と言う名の脈動で。


 ……まぁ、衝動で動きがちな俺だ。


 こうして世話をかいてながら、

 ブレーキを踏んでくれる人がいる。

 それは……素直にありがたいことだな。

 

 カルド然り、セリア然り。

 のじゃロリは……うん、あいつは……。


 ブレーキどころかアクセル踏みそうだ。

 いてもいなくても変わらんよ。


 閑話休題。


 囲炉裏のある居間に戻ると、

 今日はいつもと様子が違った。

 

 テーブルの上には、湯気を立てるスープ、

 焼きたてのパン、山盛りスクランブルエッグ。

 カリカリのベーコンまで並んでいる。


「い、一体なんじゃこれはぁ!」


 ゴードンじいさんが、目を丸くして叫んだ。


 いつもの粥と干し肉〜からの、

 このアップグレードは、

 たしかにインパクトがある。


「いや、実はだな?」


 俺は頭をかきながら、

 昨夜の清算結果をかいつまんで説明した。


「報酬が四人で1500万超えてだな……」


「なんじゃと!? 

 お主らFランクだったんじゃろ!?

 何があったらそうなるのじゃ!?」


「あぁ〜、なんかギルドのミスらしくて。

 グレイヴバードがCランク相当の依頼で

 それをEランク任務にしちゃったって

 ミスによる上乗せがかかって、そうなった」


「ふむ……一人当たり350万くらいかの?」


「400万ちょい」


「な、なんとまぁ……!」


 じいさんは頭を抱え、

 ヒゲをわしゃわしゃとかき回した。


「じゃが、残念じゃのう」


「残念?」


「うむ。まだ“悔いのない贅沢リスト”は

 全然考えておらん。非常に悔しいがの!

 だから……お金は自分たちで使うと良い。

 ホッホッホ!!」


 まったく、このじいさん本気で貰う気がない。


「……だろうなぁ」


 俺はカルドとセリアと視線を交わす。

 三人同時に、くすっと笑った。


「おじいちゃん、

 ちゃんと困ったらちゃんと言ってね?」


「わかったわかった。

 その時は頼らせてもらうぞい」


「うむ。妾にもいつでも頼るが良い!」


 アノンが、パンを頬張りながら胸を張る。


「このボロ家も立て直してやるからな!」


 素直にいい話なんだけど、

 言葉のチョイスが刺さる。


 やっぱりアノンは、

 俺くらい空気が読めないんだな〜。

 としみじみ思ったのであった。


 ◇ ◇ ◇


 腹を満たした俺たちは、

 二つ目のEランク任務を受けるべく、

 皆でギルドへ向かった。


 ギルドの掲示板には昨日と同じように、

 羊皮紙が所狭しと貼られている。


 Eランクの札がかかった板の前に立ち、

 三人と一ロリで並んで目を通す。


「全部で十こクリアしないと昇級しないからな」


「地道に積むしかない、ということだな」


「ふむ。ここまで来たら、

 一気に駆け上がりたいところじゃが……」


 ざっと見たところ、

 グレイヴバードみたいな大物は、

 当然ながらない。当たり前である。


 代わりにずらりと並んでいるのは、

 わりと平和な内容だ。


 子供への魔法講師募集。

 自警団の夜間見回り補助。

 山のキノコ狩りに同行し、獣から護衛。

 近所の運動会の救護員(要・法術使い)。


「……正直、一人でも出来そうだよな、これ」


「腕試しというより信用と実績づくり、

 という感じですね」


「手分けして実績を埋める方が効果的いい」


「妾も、子供に魔法の真髄というものを

 教えてやらねばならんしな」


「それはやめといた方が……」


 などと言いつつ、

 俺たちは話し合って決めた。


 依頼主がパーティ指定していないものは、

 パーティ単位で受けた上で、

 実働は各自バラバラでこなす。


 報酬も実績も自由の風に入るから、

 ギルドから見ても問題なし。

 効率重視の、地道なランク上げ作業だ。


 俺は自警団の見回り補助と、

 キノコ狩りの護衛に顔を出し、


 カルドは夜間見回りと

 荷物運び系の依頼を淡々と片付け、


 セリアは運動会の救護員や、

 体調不良の人への付き添いなどを担当し、


 アノンは子供たちの前で

 「火球の安全な出し方」を教え……かけて、

 途中から「安全な方」に修正させられた。


 そんな日が二日ほど続いた。


 ◇ ◇ ◇


「これで十件目です。お疲れ様でした!

 フライハイトの皆さん!」


 ギルドの受付カウンターで、

 例の優しげなお姉さんが笑顔で言った。


 カウンター越しに渡される書類には、

 俺たちの名前とこなした依頼の一覧が

 ずらりと並んでいる。


「これで……昇級資格、ってやつだな?」


「ええ。本来であれば、

 ここから“昇級試験”を受けていただく。

 という流れなのですが──」


 一瞬、言葉を区切ってからお姉さんは続けた。


「皆さんの場合は例外です!

 グレイヴバードの件がありますので、

 試験は免除になります」


「免除?」


「はい。ギルドとしての判断です。

 本来であればCランク相当だった任務を、

 Fランク四名で完遂されたこと。

 依頼主からの評判も良好だったこと。

 これらを踏まえまして……」


 受付の奥から、ガレスさんが顔を出した。


「文句なしだ。昇級だよ、お前ら」


「っ!」


「わぁ……!」


 胸の奥がじんわり熱くなる。


「お前たちは今日をもってEランク冒険者だ。

 まだまだ駆け出しだが、胸張っていい」


「む、胸くらいならいくらでも張るのじゃ!」


「その胸は物理的にはそんなに張れないだろ」


「うるさいわ、凡人!」


 そんなやり取りを挟みつつ、

 俺たちは新しいプレートを受け取った。


 金属札の色は以前とは変わらない。

 だが、刻まれたFからEに変わった

 たったそれだけなのに、妙に重く見える。


「……やったな」


「ああ」


「ふふっ」


「当然の結果じゃな!」


 気づけば、全員が笑っていた。


 こうして俺たち自由の風は、

 はじめの一歩を踏み出した。



 奴隷でも穴掘りでもない。

 Eランク冒険者としての、正式な一歩を。



 

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