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0041.頼れる仲間



 近距離戦へと変わった瞬間、

 俺たちの戦い方も変わった。


 というか、変えざるを得なかった。


 理由は単純だ。

 アノンが、ほぼ役に立たなくなるからだ。


 あの速度のグレイヴバードに当てるには、

 大型の範囲魔法が必要になる。

 

 だがそれをやれば、

 俺たちごとまとめて焼くことになる。


 ウインドアロー的な直線魔法や、

 ファイアボール的な直撃魔法もあるが、

 どれも「狙う前提」とアノンは言った。


 追尾式ならともかく、

 素早く飛び回る相手には当てづらい。

 

 さっきの爆炎旋風が決まったのだって、

 奴らが遠距離から高度を変えようとしている

 “瞬間”を狙えたからこそだ。


(アイツらの頭の良さなら、

 アノンは真っ先に警戒対象にするだろうな)


 で、警戒したあとどう動くか。


 わざわざ、一匹タイマンで倒したカルドに、

 再び突っ込んでいくとは思えない。

 

 となると、次に狙われるのは、

 地上で一番“面倒”なやつ。


 つまり、俺とセリアってわけだ。


(だが、今はまだアノンを

 一番危険だと思ってるはずだ)


 それなら、先にこっちから頭数を削る。


「先に負傷してるほうを狙え!!」


 叫びながらも、俺はもう動いていた。


 二発目のナイフは既にマナを蓄えている。

 狙うのは──あえて、無傷の方だ。


 負傷している個体は、

 動きが乱れているぶん軌道が読みにくい。


 ならば、まだ飛行が安定している方が

 読みやすく、撃ち抜きやすい。


 俺の攻撃は敵が速かろうがあまり関係ない。

 

 “どこを通るか”さえわかれば、

 その道筋へナイフを滑らせればいい。


 風の軌道を読み、そこにナイフを乗せる。


「……っらぁ!!」


 一閃。


 ナイフはうなりを上げるでもなく、

 ただ静かに空を走った。

 

 次の瞬間、標的のグレイヴバードの頭部が、

 肩からごっそり消えた。


 あまりの速さに、首が削れたというより

 「存在しなくなった」ように見える。


 慣性のまま突き進んだ巨体が、

 やがてグラグラと空中でもつれて、

 地面へと墜落していった。


「残り三羽だ!!」


 叫ぶと同時に、別の方角で声が上がる。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 カルドだ。


(……あ、前に「叫べ」ってアドバイス。

 もしかして、実行してくれてたんだな。

 なんだよ、いい奴かよ)


 カルドの大剣が今度は槍のように放たれる。

 真っ直ぐ飛んだ刃は、負傷していた、

 グレイヴバードの胴体に深々突き刺さった。


 空中でぐにゃりとねじれる影。

 翼がばたつき、黒い羽根がばら撒かれ、

 そのまま真っ逆さまに落ちていく。


「残り二羽じゃ!!」


 アノンの声が弾む。興奮というより、

 「やっと敵の数が計算可能な領域になった」

 とでも言いたげな声だった。


 そこで、空気が変わる。


 鋭い視線を感じた。空間把握の感覚を、

 ほんの少しだけ“高く”向ける。


(……来たな)


 グレイヴバードの視線が、

 はっきりと俺に集まるのがわかった。


 さっきから頭を抜き飛ばしてるナイフ。

 指示に従って一切無駄なく動く前衛。

 支援や治癒で部隊の寿命を伸ばすセリア。


 それらを束ねている「要」がどこか。

 鳥頭でも、戦場の情報はちゃんと見てるな。


 負傷している一羽が、

 距離を保ちつつ真空波の構えを取った。

 

 そして、もう一羽の無傷の個体が、

 低空で俺を狙って接近して来る。


「ちっ……!

 投げるモーションにも入れねえ!」


 真空波の軌道と、突撃してくる個体の

 コースが交差する。


 動き方を少しでも間違えれば、

 その場で身体がバラバラになりそうな

 線の集中具合だった。


「左に二歩、ここでしゃがんで、前に一歩。

 その後四歩下がる。半歩右にずれて、

 更に三歩下がる──」


 頭の中でコースを並べながら、

 俺は自分の動きを組み立てる。


「一秒しゃがんで、そのまま前に飛び込み、

 すぐ跳ねるように右へ飛んで、前に五歩」


 口に出しながらでもギリギリ間に合うか。

 一歩でも踏み込みの深さを間違えれば、

 即死亡コースだ。


(ドワーフのおっちゃんのために、

 一撃くらい受け止めてやりたいけど

 ……怖えもんは怖えよ普通に!!)


 おっちゃんの鎧の話を思い出しつつ、

 背筋に冷たい汗がつたう。


 そんな時、視界の端で白いローブが揺れた。


「──セリア!?」


 彼女が、前へ出た。


「待て、セリア!!」


 叫んだ時には、もう遅い。


 負傷しているグレイヴバードは、

 こちらの迷いを“好機”と見たのか、

 セリアめがけて真空波を放った。


 空が裂ける。


 空気の“傷口”が一直線に、セリアへと走る。


(くそっ、避けられるポイントが範囲にない)


 空間を読む。

 読むが、どこにも“安全地帯”がない。


「セリア!!」


 喉が勝手に叫ぶ。

 次の瞬間、真空波は腕をクロスに組み、

 受け止める体勢のセリアを飲み込んだ──


 ……はずだった。


「……は?」


 セリアは、立っていた。

 ローブの裾も、杖も、肌も。

 どこにも傷はない。


 真空波が通り過ぎた地面には、

 くっきりと溝が刻まれているのに。


 驚いている暇はない。

 思考より先に身体が動く。


 俺は即座にナイフを、

 負傷したグレイヴバードへ投げた。


「らぁっ!!」


 風を裂いて走ったナイフは、

 羽ばたきが乱れていた奴の胸を貫いた。


 そのままナイフは背中側まで突き抜け、

 遠くへ消えていく。


 同時に、俺は二歩下がり、

 その場でしゃがむ。


 ぶぉん!


 さきほどまで俺の頭があった空間を、

 グレイヴバードの翼が薙いだ。

 

 髪がまたもや逆立ち、頬に砂が飛ぶ。


 顔を上げると、真空波を放っていた個体が

 ゆっくりと墜ちていくのが見えた。


 大きく翼を痙攣させながら、

 やがて動かなくなる。


「残り一匹……!」


 息が上がる。

 心臓がバクバクとうるさい。


(後で絶対セリアに怒ろう)


 そう思った矢先、

 当の本人が声を張り上げた。


「ヴェルさん! 私が囮になります!!」


 顔つきは、完全に覚悟を決めたそれだった。


 いつものおっとりした笑顔でも、

 あわあわ慌てる顔でもない。

 決めたことから絶対に退かない人間の目だ。


(……そうだよな)


 心のどこかで「止めなきゃ」と思った。


 けど、そのすぐ隣で、別の声が囁く。


(これがカルドだったら止めたか?)


 答えは、すぐに出た。


 止めない。頼る。


 じゃあ、セリアだけが駄目な理由は何だ?


 前衛じゃないから?

 今は、前衛だ。


 当たると危険だから?

 それはカルドだって同じだ。

 

 奴はあの化け物じみた突撃を、

 完璧なカウンターで受け止めただけだ。


 さっきの真空波だって、

 セリアは自分の力で受け止めた。

 

 何らかの理屈があるのかもしれないが、

 事実として「耐えた」。


 女だから?

 理由にならない。


 セリアはここに立っている時点で「戦う側」


 止める理由は、どこにもない。

 なら、返す言葉は一つだけだ。


「頼んだぞ、セリア!!」


「はいっ!!」


 ぱっと花が咲いたみたいに、

 セリアの笑顔が弾けた。


 次の瞬間には、

 その身体が前へと飛び出している。


 活性の法術を自分に重ねたセリアの動きは、

 俺の予測をも一歩先に行っていた。

 

 空間把握で「このくらい」と

 想定するラインをフィジカルで、

 平然と飛び越えていく。


 真空波の殺線を大きな動きで躱し続ける。


(……本当に、頼りになる仲間だよ)


 俺は、最後の一羽に意識を集中させる。


 タメが必要な俺のナイフを、

 ここで外すわけにはいかない。

 

 どうせ貯めるなら、

 考えていた「もう一つ」を試したい。


 戦う前の話だ

 アノンとセリアのマナの集め方を見た。


 アノンは渦状。

 嵐の目に向かって巻き込むように。

 

 セリアは蟻地獄状。

 静かに、しかし確実に落とし込むように。


 俺のナイフのマナの貯まり方は、

 明らかに後者だった。

 触媒として“受け止める”方向の性質が強い。


(もし、法術が「受け止める」型で、

 魔術が「かき混ぜる」型だとしたら……?)


 渦状に集める方法は知らない。

 なら、無理矢理“渦”を作ればいい。


 俺は、ナイフを持った腕を、

 手首から先でくるくると回し始めた。


 マナをかき混ぜるように。

 くるくる、くるくると。


 目に見えない何かが、

 ナイフの周囲で巻き込まれる感覚がある。

 

 ゆっくりと回転していた流れが、

 次第に一点へと集中していく。


(当然だよな。かき混ぜられたら、

 マナだって渦状に集まるしかない)


 駄目なら、そのまま投げればいい。

 ただの強化ナイフとして使えば、

 それでも十分役には立つ。


 だが、もし──

 法術スタイルの付与を、

 魔術式に変換できたなら。


(“刻める”はずだ)


 グレイヴバードの動きが、

 俺のナイフへと向き始める。


「セリア、後退しろ!!」


「はいっ!」


 狙いが変わる気配を感じたのか、

 俺の短い言葉だけで、理解し、

 セリアはすっとラインから外れてくれた。

 

 視線は敵に向けたまま、

 完全に俺の指示を信じている動きだ。


 グレイヴバードは、ナイフを構えた俺を捉え

 ──逃げるだけでは討たれると悟ったらしい。


 ジグザグに軌道を歪めながら、

 殺意を丸ごと乗せて突っ込んでくる。


「おあつらえ向きだぜ!!」


 心臓の鼓動が、妙に静かに聞こえる。


「喰らえ!!」


 俺はナイフを振り下ろすように払う。


 ──シュオン。


 低く、細い音が鳴った。


 続けて。


 シュババババ!!


 風が爆ぜる。


 さっきまで俺が投げていた

 「一直線」の刃とは違う。


 今度の風は、ねじ曲がり、絡まり合い、

 複数の線となって空間を裂いた。


 渦巻く鎌風。入り乱れる螺旋。

 空間ごと削り取るような、

 何本もの“見えない刃”。


 つむじ風が、球体で

 暴れ回っているような光景だった。


 グレイヴバードの黒い体が、

 その中を突き抜けようとして──

 そのまま、木の葉みたいに細切れにされる。


 固いはずの骨も、厚い羽根も、

 その全てが意味をなさない。

 片っ端から刻み裂く風の檻。


 やがて、残ったのは、

 力を失って落ちていく肉塊だけだった。


「左に、四歩」


 自分で自分に指示を飛ばし、

 静かに横へ歩く。


 ドゴォン!!


 さっきまで俺が立っていた場所に、

 グレイヴバードの残骸が叩きつけられた。

 土煙が上がり、羽根と血が辺りに散る。


 風が、一拍遅れて俺たちの頬を撫でた。


 静寂。

 世界から、キョアアという鳴き声が消えている。


(……終わった、のか)


 耳の奥で、自分の心臓の音だけが

 やたらとうるさく響く。


 少し遅れて、カルドの大きな息が聞こえた。


 セリアが胸に手を当てて、

 ほっと息を吐く気配が伝わってくる。


 アノンは、口をぽかんと開けたまま、

 上空と俺とを何度も見比べていた。



 Eランク任務。

 北の国立公園近くの上空に出没する、

 大型の鳥の魔物を撃退せよ


 対グレイヴバード戦。



 ──完遂。


 

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