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0039.グレイヴバード 決戦前



 ふわぁぁ……。


 俺は盛大な欠伸をかました。


「なんじゃ、寝むれておらぬのか?」


 向かいの席で足を組んでいたアノンが、

 じろりとこちらをねめつける。


「まぁなー」


 雑に返す。


 昨日、一日じゅう木に縛られて

 「動くな」と言われた俺は、

 どうにも納得がいかず、みんなが眠る夜中。

 こっそり抜け出して外で特訓していたのだ。


(魔術としての“付与” 結論から言えば、失敗)


 ナイフに“循環”じゃなく、“風の斬撃”とか、

 そういう感じで魔術を乗せようとして、

 何も起きなかった。


 厳密には

 「ちょっとだけ降るのが速く」なった。

 だが、期待していたような派手ゼロだ。


 そこまで考えていたところで、

 すぐ隣にふんわりとした気配が座ってきた。


「ヴェルさん、まさかとは思いますが……」


 セリアが、わざとらしいほどに

 丁寧な笑顔を浮かべた。


「夜中に抜け出して特訓、

 とかしてないですよね?」


 圧がすごい。


「し、してないよぉ……」


 声が裏返る。怖い。


「こいつは昔から考え事をして寝れない奴だ。

 頭の中がごちゃごちゃしてるみたいでな」


 カルドが、淡々と助け舟を出してくれた。


 ありがとう。

 昨日笑ってたことは水に流して、

 そのまま川を超えて海の果てまで流して

 綺麗さっぱり忘れておくよ。


 朝食を食べ終わったところで、

 ゴードンじいさんの“激励タイム”が始まった。


「よし、この五日間!

 お主らも色々考えたのじゃろう!」


 じいさんは、白い髭をさすりながら、

 順番に俺たちの顔を見ていく。


「ワシから言えることは、

 ……無事に帰ってこい。それだけじゃ」


 短く、しかし重い言葉。


「言うまでもないが、退却は恥ではない!

 肝に銘じておくのじゃぞ! ホッホッホ!」


「負ける前提で話すなよな〜」


 つい口が出たが、すぐに自分で理解する。

 “無理するな”ってことだ。


 カルドも、セリアも、アノンも、

 それぞれ真っ直ぐな目でじいさんを見て

 しっかりと頷いていた。


「よし、なら行くぞ!」


 俺の声に、三人とも席を立つ。


 今回はグレイヴバードを倒した証拠も

 町へ持ち帰るつもりだった。

 

 素材としても高く売れるらしいし、

 鎧屋のドワーフにも顔を立てたい。


 だから、事前に時間指定で頼んでおいた

 前回と同じ馬車に乗り込む。


 四人と、武具と、期待と不安を乗せて、

 馬車は北の国立公園へ向かって走り出した。


 ◇


 ガタゴトと車輪が揺れる音の中、

 俺たちは最後の作戦確認をする。


「まずはカルドからだな」


「ある程度自在に大盾を扱えるようになった。

 近距離での戦闘になったら、

 翼の一撃に合わせてカウンターを狙う」


 短く、要点だけを言うカルド。

 新しい大盾はすでに身体の一部みたいに

 馴染んでいる。多分こいつ、本気で天才だ。


「次、アノン」


「妾は……すまぬが、

 詠唱が早くなったりはしておらぬ」


 アノンは少しだけバツが悪そうに言ったが、

 すぐに胸を張る。


「じゃが、十分にマナを貯めておいたゆえに、

 前に撃った規模の魔法なら

 五回は使えるじゃろう」


「十分すぎるわ!」


 思わず声が出る。

 あの爆炎を四発追加で撃てるのは反則だ。


「セリアは?」


 視線を向けると、

 セリアはきゅっと杖を握りしめた。


「私は、皆さんに“活性”での補助を

 かけられるようになりました。

 それに……法術じゃないと言われた

 癒やしの術ですが、法術の勉強をしたから

 自分になら強めの“活性”を重ねられます」


 そこで一度、言葉を切る。


「それを使って、私も。

 ヴェルさんと一緒に“囮”をします!」


「は?」


 俺だけじゃなく、カルドもアノンも

 同時に声を上げた。


「待つのじゃ!

 そんな危ない真似はさせられぬ!」


「そうだ。セリア、お前は――」


「ヴェルさんだって危ないじゃないですか」


 静かな声が、俺たちの言葉を止める。


「私を仲間と認めてくれるのなら、

 戦わせてください」


 セリアの目は、柔らかいのに、

 揺れていなかった。

 引く気がない。そういう目だ。


「……分かった。

 ただし、俺もだけど無茶は禁止だ。

 それと、俺の指示には従ってくれ。

 攻撃が来る方向なら、俺には読めるからさ」


「ふふふ。ヴェルさんが“無茶するな”なんて

 そんなこと言えるんですね?」


「ぐぬぬ、それは言わないでくれ……」


 これが噂の天然毒舌というやつだな。

 胸に刺さる。


「最後、俺の番か……」


 視線が集まる。まずい。

 みんな、明らかに出来ることが増えている。


「えーと、俺は……その……」


 昨日爆発した話は、

 言うまでもなく封印である。


「投げるものが、石からナイフになりました」


 沈黙。


 自分で言っておいてなんだが、

 情けなさで死にそうだ。

 ほぼ何も変わってないにもほどがある。


 三人は目を合わせ、こくりと頷く。


「「「わかった」」」


「ごめんなさい」


 頭を下げるしかない。

 とはいえ、何も変わってないわけじゃない。

 マナの込め具合や、射程の感覚は、

 確実に前より“分かって”いる。


(あとは、ちゃんと生きて帰って、

 少しずつ積み上げるだけだ)


 そうこうしているうちに、

 馬車が速度を落とし始めた。

 窓の外には、見覚えのある木々と、広い空。


「着いたようじゃな」


 馬車を降り、東の空を仰ぐ。


 あのときと変わらず、

 巨大な鳥たちが旋回していた。


 高い空の上、ゆるゆると輪を描きながら、

 下界を見張っている。


「セリア、お主もマナを集めておくと良い」


 アノンが杖を掲げる。

 空気を読むとアノンの周りが渦を巻き、

 マナが杖に吸い込まれていくのが分かる。


「わかりました!」


 セリアもローブの袖を整え、

 杖を両手で構えた。


 こちらは渦というより、

 静かな流れが杖に集まっていく。

 性格が出てる気がする。


「体内のマナも問題ないかの?」


「あっ、アノン! それは内緒ですって!!」


 セリアが真っ赤になって、

 アノンの肩をぽこぽこ叩く。


「……まさか」


 嫌な予感がして、口を開いた。


「おい、セリア。もしかして……。

 体内にマナを取り込むやつをさ、

 ――もう出来るのか?」


「ほ、ほらぁ! アノンのバカ!

 内緒って言ったじゃないですか!!」


 ぽこぽこがボスボスにレベルアップした。


 アノンはというと、なぜか胸を張っている。


「まっ、まぁ良いではないか!

 いつかはバレることじゃし! ワッハッハ!」


「バカ〜〜!!」


 セリアの怒りと、アノンのどや顔。

 その横で「うんうん」と頷くカルド。


 どうやら、“マナを体内に取り込めない”のは、

 この場で俺だけらしい。カルドはアレだし。


(……なんだか、締まらねぇな)


 正直、ショックはでかい。

 だからといって止まるつもりは毛頭ない。


「とにかく、行くか」


 俺はナイフの柄を握りしめ、

 旋回する鳥たちを睨んだ。


 胸の奥で、怖さとワクワクが混ざり合う。


(さぁ、第二ラウンドだ)


 俺たちフライハイトの、グレイヴバードへの

 リベンジマッチへと、足を踏み出した。

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