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0038.ファンタジーの魔法武器

 


 三日目。


 昨日の失敗を、失敗のままで、

 終わらせるわけにはいかない。


 うろ覚えだが意識があったのは十回くらい。

 そこまでは再構築が出来ていた気がする。


 そのあとも何回かやったような気がするが、

 記憶はぐちゃぐちゃだ。朦朧としてたしな。


(認識できる限界が十回ってことにしとくか)


 実戦で意識が飛びかけてたら普通に死ぬ。

 だから「十回まで」と決めておく。


 それと、五回を超えたあたりから

 身体がしんどくなり始めてた。

 

 坑道の頃を思い出す。

 終わりの見えない石運びに、

 半泣きでツルハシ振ってたあの頃。


(……いかん、変な思い出に逃げてる)


 実戦で満足に戦える限界は五回ほど。

 そこから先、無理して伸ばしても十回まで。

 ここを俺の“ボーダーライン”ってことでいい。


(いわば、回数式の俺の切り札だな)


 昨日、布団の中で眠れずに、

 ひたすら別案を考えていた。

 

 ナイフに風を込めて投げる。

 俺の得意技、風の付与術。


 アノンに頭を下げて聞いたところによると、

 俺のやっていることは

 「風の法則『循環』の作用が強く出ている」

 らしい。


 循環。つまり滞らず巡ること。


 風の“循環”は、抵抗を削ぎ落とし、

 無駄な切り返しによる慣性を消す。

 エネルギーを殺すあらゆる要因へ

 反発的に働き作用するのが『循環』

 その結果として“速さ”が生まれる。


 木をぶち抜いた貫通力も、

 「進みを止めるもの」に対し、

 それを打ち破ろうとして高まるのだと。


 アノンは相変わらずのどや顔だったが、

 昨日は腹は立たなかった。


 理由は単純で、ずっと近くにいたからだ。

 

 セリアいわく、俺がぶっ倒れたあと、

 妾が余計なこと教え過ぎたのかもしれぬと、

 やたら心配してたらしい。

 ……本当に素直じゃないやつだ。


(とにかく俺の付与術は“法術型”の応用らしい)


 なら、こうも考えられる。


(魔術型なら、どうなる?)


 昨日は怖くて途中で止めたが、

 媒介への蓄積を最大まで高めて、

 「法則」じゃなく「現象」として

 解き放てば、真空波とかを作れるのでは?


 そう思って、俺は、

 ナイフにマナを溜め続けていた。


 しばらくやって分かったことがある。

 マナを込めれば込めるほど、

 ナイフが淡い緑に輝き始めるのだ。


(すげぇ。これぞまさに!

 ファンタジーの魔法武器って感じじゃんか)


 調子に乗った俺は、

 そのまま限界を見たくなった。


 もっと、もっと! と、

 マナを押し込んでいった、そのとき。


 パッキーン!!!


 乾いた、嫌な音が耳に刺さる。


 ナイフの表面に蜘蛛の巣みたいな亀裂。

 それを目にしたと思えば砕け散った。


 同時に、ナイフの位置を中心にして、

 アホみたいな風が爆発的に拡散する。


「ぶべらっ!!?」


 口から変な声が出たところで、

 意識がぷつりと切れた。


 ◇


「……おい、おいおい、まさか……」


 目を覚ませば、またもや見慣れた天井。

 窓から差し込む光は赤く、すっかり夕方だ。


「ようやく気がついたか。まったく!

 凡人を通り越して愚者じゃなお前は!!」


 隣の椅子にはアノン。

 腕を組み、頬を膨らませている。

 後ろにはセリアとカルドもいた。


「な、何が……?」


「空高く吹き飛ばされた貴様を、

 大きな凡人が受け止め、

 そして、セリアが癒してくれなければ、

 死んでおったのじゃぞ!」


 アノンはそう言いながら、

 グーで俺の腹をボスボス殴ってくる。

 地味に痛い。


「目を離すとすぐこれじゃ。

 貴様は小童以下じゃ、愚か者が!!」


「ぐっ……悪かったよ……」


 最後の一発は、ぽすんと力なく落とされた。


「……死んだら、許さぬからな」


 小さく、ぽろっと本音が落ちる。


「すまん」


 素直に声が出た。


 その瞬間、アノンはハッと顔を赤らめ、

 慌てて言葉を上塗りする。


「べ、別に妾は心配したわけではない!

 借金が残っておるじゃろうが!

 きちんと返すまで死なせぬぞ愚か者!!」


 そう言われても、さすがに分かる。

 せっかく出来た仲間だ。

 逆の立場なら、俺だって怒る。


「ああ。……ほんとに悪かった」


 きっちり頭を下げて謝ると、

 アノンは視線をそらし、そっぽを向いた。


 そこで、もう一人の刺客が静かに現れる。


「もう、無茶は禁止です」


 セリアの“目が笑っていない笑顔”が、

 ベッド脇に立っていた。


 あ、これダメなやつだ。


「 禁 止 で す 」


 ひと文字ずつ区切られる。

 その圧に、俺は思わず背筋を伸ばした。


「お返事は?」


「はい……」


 カルドはというと、口元に拳を当て、

 肩を微妙に揺らしている。

 笑ってるな、あいつ。


 そうしてこの日の俺は、

 そのまま大人しく眠らされることになった。


 ◇


 四日目。

 リベンジまで、残り一日。明日である。


 俺は今、木に縛られている。


「……納得いかねぇ……」


 縄でしっかり幹に固定された俺の前で、

 アノンが腕を組んでふんぞり返っていた。


「いいか凡人。貴様にはまず、

 “体内へのマナ蓄積を学ぶ”ことが

 今すべき最重要課題なのじゃ!

 自由にすると愚かなことをするからな!!」


 ぐうの音も出ない。

 無茶したのは事実だしな。


 そんなわけで、俺は縛られたのだ。


 セリアとアノンの練習場所のすぐそば、

 木に括りつけられたまま、

 ひたすら空気とマナを読むことを

 義務付けられているのである。


 そのおかげで二人の会話は丸聞こえである。


「セリア、もう一度“活性”じゃ。

 さっきより少し弱めにな」


「が、頑張ってみます」


 セリアが杖を握り、深く息を吸う。

 周りのマナが寄ってくるのが分かる。


 杖の先端がかすかに赤く光り、

 セリアの身体を淡い光が流れる。


 宝石が光らないのは、

 活性の火だったからだろう。

 

 ほんのわずかだが、

 動きがシャキっとしたように見えた。


「うむ、悪くない。法術の四元素を、

 初歩とはいえ全部触れておる。

 妾の目から見ても、素質はあるのじゃ」


「アノンは私に甘いですからね」


「ば、馬鹿を申すな!

 妾はいつでも公平無私じゃ!

 妾の評価基準で言えば、

 凡人の百倍はマシというだけじゃ!!」


 俺の方をぐいっと親指で指してくんな。


(でも、たかだか三日で四元素全部初級って、

 普通にすごくないか?)


 マナの流れを見る限り、

 セリアの体内では、風、水、土、火。

 四つの性質が別々に形になり始めている。


 法術の“型”が、想像以上の速度で

 身についてるのが分かる。


「これで……私のやりたいことも、

 できるかもしれません」


 セリアがぽつりと漏らした。


「やりたいこと?」


「はい。人を癒やすだけじゃなくて、

 ……守れるようになりたいんです。

 おじいちゃんも、みんなも、

 もう誰も倒れないように」


 その横顔は、いつものおっとりした表情。

 だが、目だけが真っ直ぐだった。


「ふん、よい心がけじゃ。

 妾が直々に鍛えてやるのじゃから、

 存分に感謝するがよい!」


「ふふっ、ありがとうございますアノン……」


 その呼び方にアノンの耳がぴょっと揺れた。

 照れてんのが丸わかりだ。


 その少し離れた場所では、今日もカルドが

 「ふっ」「ふん」と短く息を吐きながら、

 大盾を振り回している。


 縦に構え、横に払う。

 くるりと身体を回転させて、

 大盾を背に回し、その反動で前へ押し出す。


 最初のぎこちなさはもうどこにもない。

 棒術の演舞みたいに滑らかだ。


(……あいつ、やっぱり才能お化けだろ)


 そしてアノンはというと、

 一定の間隔でふっと目を閉じて、

 体内にマナを圧縮し、また解放している。


 見せてもらったブラックホール吸収を、

 今はほどほどの力で繰り返しているらしい。


 マナの流れを眺めているだけでも、

 勉強にはなる。なるんだろうけどさ?


(……俺は?)


 縄で木に縛られたまま、

 ひたすら呼吸だけを整えている。


 体内のマナをどけて、空きスペースを作り、

 外から入ってきたら戻す。

 頭の中では完璧にイメージ出来ているのに、

 実感はさっぱりだ。


 マナは相変わらず、

 自然回復くらいでしか入ってこない。

 器が大きくなった感覚も今のところゼロだ。


(本当に、これで大丈夫なのか俺?)


 セリアは日ごとに

 魔法のバリエーションを増やしていく。


 カルドは盾と大剣を

 完全に自分のものにしつつある。


 アノンはそもそも規格外だ。


 俺だけ、木に縛られて、

 ひたすら空気を眺めている。

 進捗、ゼロ。


(いや、焦ったところでどうにもならんか)


 それでも、木の幹越しに伝わる風の振動や、

 仲間たちの息遣い、マナの渦を、

 俺は目を閉じて刻み込んでいく。


 こうして、あっさりと四日目は終わった。




(ええ、本当に大丈夫なのか俺!?)



 

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