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0036.大魔導師の授業



「さっそく練習じゃー!!」


 買い物から帰り、紅蓮の泣き虫が

 楽しそうに宣言した。


 俺たちは、じいさんの家の近くの空き地で、

 それぞれ自主練を始めることになった。


 カルドはさっそく、

 大盾の扱いの練習に入る。


 身体の半分以上を隠す分厚い鉄板を、

 最初はぎこちなく構えた。


 振り回す度、地面をガリガリ削っていたが、

 数度、十数度と試すうちに、

 徐々に無駄のない動きになっていく。


(……多分、アイツ、天才だな)


 重さに身体を合わせる感覚を掴むのが、

 尋常じゃなく、やたら早いのだ。


 じいさんの装備も、

 素のポテンシャルが噛み合い始めていた。


 一方そのころ、俺とセリアはというと。


「よいか凡人共。今から妾が“真なる魔法講座”を

 開いてやる。ありがたく拝聴するがよい」


 自称 大魔導師アノンの前で

 正座で横並びにさせられていた。

 状況だけ見れば完全に授業だ。


「……いつから俺は凡人になったんだっけ」


「生まれた時からであろう?」


 即答で返された。ぐうの音も出ない。


 アノンによると、魔法の上手さとは

 そのまま「マナの扱いの上手さ」らしい。


「まずは基礎からじゃな。

 一つ。大気からマナを“媒介に蓄積”すること。

 二つ。“体内に蓄える”為マナを変換すること。

 三つ。体内のマナを“魔法”に変換すること。

 四つ。大気のマナを“直接”使うこと。」


 指を一本ずつ立てながら、

 偉そうにドヤ顔で語っていく。


「ざっくり言えば、この四つが

 “基本にして全て”じゃ。

 この理をきちんと修め、極めればな。

 初見の魔法ですら見ただけで再現できる

 と父上は言っておった」


(いや、それ魔導師の頂点のセリフだろ。

 凡人に要求するハードルじゃないだろ)


 心の中でだけツッコんでおいた。


 口に出したら「やはり凡人」

 とか言われるのが目に見えてる。


 俺の魔法ナイフは、魔具店の時点で

 「同期」とやらをしてもらっている。

 ナイフがどこにいても“俺の魔力”を通して

 再構築できるよう、紋様を調整済みだ。


「では、まずは試しに妾に、

 貴様らの魔法を見せてみるがよい!」


 アノンに促され、俺は魔法ナイフを握る。

 息を整え、刃の根元に意識を集中させる。


(石のときと同じだ。

 風の流れを、刃に吹き込む)


 周囲のマナが、するすると。

 ナイフに吸い込まれていく感覚があった。


 石のときよりずっとスムーズで抵抗がない。

 むしろ、いくらでも入っていく。


(……おいおい、だいじょぶかこれ?)


 終わりが見えない吸収に、

 逆に怖くなって自分から制御を切った。

 近くの木を狙い、軽く振りかぶって投げる。


 一瞬だった。


 投げたと思った瞬間には、

 木の幹が爆ぜていた。


 テニスボール二個分くらいの穴が、

 木を突き抜けた跡としてずぼっと空く。


 そのままナイフは貫通し、

 俺の空間把握の範囲をあっさり超えて、

 ずっと先へ飛んでいったようだ。


「……なんていう兵器……」


 思わず口からこぼれた。

 隣で見ていたセリアは目を丸くし、

 のじゃロリ泣き虫ですらさすがに黙り込む。


「これ、大丈夫なのか……?」


 おそるおそるアノンを見る。


「ま、まあまあじゃな!!」


 アノンはなぜか胸を張っている。


「ま、妾も、これしきのことくらいは

 いつか、そのうち出来るであろうしな!

 別に、すごいというほどではないからな!」


(なんだか必死だな)


「あれじゃ!貴様がたまたま風の扱いだけは、

 “少しうまい”ただそれだけじゃ!

 勘違いするでないぞ、凡人!」


(はいはい、そういうことにしておくよ)


 心の中で頷いておいた。


「付与術だけのようじゃが……

 まぁ、妾の方が凄いのは揺るがぬ事実よ。

 念のため二度言っておく」


「分かった分かった」


 魔具店で習った要領で、

 「手元にナイフがある」とイメージする。


 すると、空気がねじれるような感覚と共に、

 手の中にナイフが“ぶぉん”と出現した。


「……おお」


 その瞬間、どっと疲労感が押し寄せる。


 足元から力が抜けるような、

 じわっとした怠さ。


(これがマナを持っていかれたってことか)


 便利だが、乱発はできなさそうだ。


「と、とにかくじゃ!

 意地悪な凡人の能力は分かったのじゃ!」


「誰が意地悪だよ」


「貴様以外に誰がいる。

 そのまま一人で自己練習に励むがよい。

 妾の目の届かぬところでな!」


 カルドが少し離れたところで

 肩を震わせていた。

 口元を手で隠しているが、絶対笑ってる。


(大きな凡人がカルドで、

 意地悪な凡人が俺ってことか。はいはい)


 アノンがくるりと向きを変えた。


「次は癒やしの術の番じゃな!」


「え、えっと……

 じゃあ、いつもの、癒やしの術を」


 セリアはそっとアノンの手を取ると、

 静かに目を閉じた。


「……癒やしの光よ」


 淡い温もりが、空気に滲む。

 けれど、アノンの顔は、怪訝そうに歪んだ。


「……おかしいのじゃ。

 この術は“法術”ではないぞ?」


 アノンが、セリアの持つ杖の先を指さす。

 青と緑の宝石は、どちらも暗いままだ。


「マナの流れが感じられぬ。

 杖も反応しておらぬ。

 治癒の“結果”だけが生じておる……」


「実際に怪我がないからじゃないか?」


 そう言って、俺は仕舞ったナイフを取り出す

 自分の指先を軽くナイフで引っかいた。

 ちく、と痛みが走り、赤い線が浮かぶ。


「セリア、これでやってみたらどうだ?」


「あ、すみません……ありがとうございます」


 セリアは申し訳なさそうに頭を下げ、

 俺の指先をそっと包んだ。

 再び、柔らかな気配が満ちる。


 傷は、数秒もせずにすっと塞がった。


 だが、やはり杖の緑の宝石は光らなかった。


「……やはり、これは法術ではない。

 もちろん、魔術でもない。

 じゃが、治療はされておる……」


 アノンがぶつぶつとつぶやき始める。


「マナの干渉がない……

 けれど生命力の流れは変化しておる……?

 これは……もしや“マール”の……」


「大魔導師さんも分からないのかなぁ〜?」


 つい、口が滑った。思ったと同時に出てた。

 アノンの視線が、びしっとこっちに向く。


「……貴様、あとで覚えておれ」


 そして、セリアもキッ! と俺を睨んだ。


「ヴェルさん、意地悪ですね」


「ごめんなさい。

 はい、多分また空気読めてなかったです」


 自覚はある。

 治せる気はあんまりしないけど。


 アノンはしばらく考え込んでいたが、

 やがて頭をぶんぶん振った。


「……まあ、考えても仕方あるまい!」


 ぴしっと姿勢を正す。


「この術の正体はひとまず置いておくとして、

 千年郷ゼノンの娘である妾が!

 手取り足取り、一から“法術”を教えてやる!」


 アノンがセリアの手を握る。

 セリアはぱっと顔を明るくした。


「ありがとうございます、アノンさん!」


 その呼び方が気に入らなかったのか、

 アノンの眉がぴくりと上がる。


「ア、アノンさんではない!」


「えっ、すみません。

 えーと……お願いします、“師匠”!」


「ちがう!!」


 即座に否定された。


「ア、アノンでよい。

 ……その、妾も……“セリア”と呼ぶが、

 も、文句は言わせぬからな!」


 最後の方、完全に勢いで言っていた。

 セリアは嬉しそうに目を潤ませ、

 そのままアノンに抱きつく。


「はいっ。アノン!

 これからもよろしくお願いします!」


「は、離せ! い、いや、離さなくてもよいが!

 ちがう! 法術の練習なのじゃ〜!!」


 口ではぎゃあぎゃあ言っているくせに、

 アノンの腕はしっかりとセリアを抱き返し、

 どうやらいつまでも離すつもりはない。


(……ちょろいやつだな〜)


 カルドと目が合う。お互い、何も言わずに、

 同時に口元を緩めた。


 風の付与と、魔法ナイフ。

 大盾の構え。

 セリアの不思議な治療術と新しく学ぶ法術。

 泣き虫でうるさい紅蓮の大魔導師見習い。


 それぞれが、それぞれの力を伸ばす一日は、

 なんだか、とても悪くないものに思えた。



 

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