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0034.どこもかしこもドワーフ



 俺達は、そのままアノンが

 「妾の御用達じゃ!」と

 目をつけているという魔具店に向かった。

 道中、アノンが得意げに語る。


「よいか、武具屋は前に出て殴るような、

 脳筋どもが入り浸る店の総称じゃ。

 それに引き換え、魔具屋というのは、

 繊細かつ高度な後衛職の殿堂なのじゃ。

 ローブに杖に指輪に、といった感じじゃな。

 まさに妾の庭と言っても過言ではない!」


 まぁ、俺もカルドも、

 脳筋の穴掘り上がりだから否定はできん。 


 やがて、たどり着いた店の看板には、

 小さな杖と本の刻印が記されていた。


 扉を開けると、武具屋に比べ

 金属の匂いは弱く、代わりに乾いた木と

 薬草とインクの匂いが鼻をくすぐった。


 ローブが何着も吊られ、

 壁一面に杖や魔導具が並んでいる。

 いかにも“魔法屋さん”という光景だ。


(エルフが出てくるのかなと思ってたが)


「いらっしゃい」


 カウンターから顔を出したのは、

 またしてもドワーフだった。


 さっきの鍛冶屋よりはずっと小柄で、

 丸眼鏡をかけた穏やかな顔。

 髭もきれいに編み込まれていて、

 さっきの“岩”とは随分印象が違う。


「魔具っていうから、

 エルフがやってるのかと思ってたな」


 思わず口から漏れると、

 ドワーフはくつくつ笑った。


「土の国は初めてかい?

 ドワーフは鍛冶だけじゃないさ。

 種族としてそもそも工芸全般が得意でね、

 杖だろうがローブだろうが、

 作り込みが必要なモンはだいたいウチら

 ドワーフの仕事ってわけだよ」


 説明がやけに手慣れている。

 多分、初見の客には毎回聞かれるんだろう。

 お約束のやり取りってやつだ。


「久しいな、ドワルン」


 アノンが顎を上げて言った。

 どうやら顔見知りらしい。


「おやおや、アノン嬢ちゃんじゃないか。

 まさか、ゼノン殿の娘さんが来るとはねぇ」


 店主──ドワルンは

 目を細め、嬉しそうに笑った。


「大賢者ゼノン殿の魔術理論は、

 今でもウチの魔具作りの教本だよ。

 その娘さんが使うとなれば張り切るねぇ。

 来てくれるだけでウチの店の名前も

 どんどん箔が付く。実にありがたいよ」


 ゼノンへの賛美と、

 アノンへの“看板娘扱い”が止まらない。


 アノンは、鼻が伸びるんじゃないか?

 ってくらい得意げだ。


「ふふん、今回もたっぷり買うてやろう!

 妾の懐具合に震えるがよい!」


(あ、このドワーフやり手だな)


 客のプライドをくすぐって

 財布を開かせるタイプだ。


 俺は心の中で、商人になるって言っていた

 ラグアスの顔を思い出す。


 アイツにこんな芸当できるかな?

 とすこし笑った。

 

 アノンは並ぶ杖を眺めて、

 すぐに首をかしげた。


「ん? なんじゃ、これは魔術用か。

 法術用の杖はどこじゃ?」


「ちゃんと見分けつくあたり、さすがだねぇ。

 こっちだよ。今回は法術用となると、

 アノン嬢ちゃんのじゃないってことかな?」


 ドワルンが棚の奥を指差す。

 俺は素直に疑問を口にした。


「待て、魔術用? 法術用? どう違うんだ?」


 アノンは「やれやれ」と言いたげに

 鼻で笑ったあと肩をすくめた。


「まったく、短命種は基礎からじゃな……」


 うざい前置きが挟まる。もう慣れたけど。


「よいか?そもそも“魔法”とは……、

 魔術と法術の総称なのじゃ」


「総称なんだ……」


「魔術は“四元素を属性として扱う”力。

 法術は“四元素を法則として扱う”力じゃ」


 ドワルンも頷きながら、補足してくれる。


「火・土・水・風。これら四元素に

 それぞれに“意味”があるってことだね」


「火は活性、土は保持、水は調和、風は循環。

 それらを世界に適用させるのが法術じゃ」


 アノンは指を一本一本折っていく。


「活性で身体能力を活性させ、

 保持で身体を保持し、

 調和で状態異常を調和させ、

 循環で生命力を循環して治癒する。


 これが生物に使用する

 基本的な法術の体系じゃ」


「へぇ……」


 思わず素直な声が出た。


 前世のゲームっぽく言うなら、

 ステータスバフ、耐性バフ、

 デバフ解除、回復ってやつか。


「そんなことも知らんのか。

 これだから短命種はのぅ」


「はいはい、うざいぞ紅蓮の講師様」


 ディスりまでがセットらしい。

 ただ、内容はちゃんとしているあたりが

 更に腹立つ。一応、知識は高いのだと。


 

 法術用の杖コーナーに移動すると、

 ドワルンがセリアに一本の杖を渡した。


 淡い青と白の木目が絡み合うような、

 美しく、綺麗な杖だ。


「杖はね、基本的には“増幅器”さ。

 少ない力で大きな効果を出すための媒介。

 珍しいものだと、大気にマナがなくても

 杖自体が特定の元素のマナを用意する。

 つまり、自発的に生成してくれたりする」


「マナ生成杖なんて、めったにないがのう。

 まぁ、妾クラスなれば当然所持しておるが」


「はいはいアノンさんすごいすごい」


 勉強にはなるが、ドヤ顔が濃すぎて

 情報が薄まって感じるのは気のせいか。


 セリアは恐る恐る杖を握った。

 指先が震えているのに、持った瞬間。

 表情がわずかに変わる。


「……あ」


 さっきまで不安で曇っていた目に、

 ほんのり光が差す。

 何か、手応えを感じたらしい。


「どう、ですか?」


 店主の言葉にアノンが身を乗り出す。


「なんだか……魔力の流れが、

 少しだけ、はっきり分かる気がします。

 今までは“ぼんやり暖かい”だけだったのが、

 筋道が見えるというか……」


「よいぞよいぞ! 色々試すがよい!

 その間に、妾が似合うローブを見繕ろう!

 妾の審美眼に感謝して身を委ねるがよい!」


 アノンは完全に“着せ替え遊び”モードに入り、

 勢いよくローブ棚へ走っていった。


 セリアは少し戸惑いながらも、

 嬉しそうに杖を握りしめている。


 カルドは、そんなセリアのそばに立って

 様子を見守っていた。

 背中の大盾と大剣がやたら頼もしい。


 俺はというと、手持ちぶさたになり、

 店内をぶらついてみることにした。 


 目についたのは、壁際の短剣置き場だった。

 刃渡りはどれも短く、柄も細い。

 ぱっと見、武具屋の短剣よりずっと華奢だ。


 まぁ、魔具屋にある時点で、

 普通の武器とは違うんだろうけどな。


 そうやって造形に感心しつつ眺めていると、

 トコトコと軽快な足音が近づいてきた。


「それに興味あるのかい?」


 見上げると、俺の腰くらいの身長の

 女性のドワーフが立っていた。


 丸い頬、ずんぐりむっくりな身体、

 ぱっちりした瞳に愛嬌のある笑顔。


 こういう人たちを、

 ギルドでも何度か見かけたことがある。


 いわば大きな幼児体型だけど、

 ドワーフだから“成人女性”なんだよな……。


 女性ドワーフは陽気で親しみやすく、

 身体も丈夫で真面目で働き者。


 そんな噂を酒場で聞いたことがある。

 きっと、店主ドワルンの奥さんなんだろう。


「ここにある短剣は“切り裂く”というより、

 “付与したものを相手に塗り込むため”に

 作られたマナが浸透しやすい短剣なんだよ」


「塗り込む?」


「そうそう。毒でも、呪符でも、魔力でも。

 “触れれば効果が入る”っていう前提の道具さ。

 だから、刃の強度よりいかに魔力を通すか。

 どうやって付与を乗せるかが大事なんだ」


「なるほど、毒ナイフ的なやつか」


 素人なので教えてくださいと素直に頼むと、

 ロリドワーフはにっこり笑ってくれた。


「“魔法ナイフ”はね、

 武具の短剣ほど強度はないけど、

 その分魔力を込めやすい。

 あと、大事なことだけれど同期することで

 持ち主の魔力で“再構築”できるんだ」


「再構築?」


「壊れても、魔力さえあれば“また作れる”。

 それも、手元に呼び戻すみたいな感覚でね。

 勿論、その度にマナが必要だけどね」


「便利だな……」


「便利だよ。その代わり難点もあるよ?

 まず“売り物”としてはめちゃくちゃ高い。

 Bランク冒険者でも手を出さないくらいにね。

 一度、持ち主と魔法ナイフを同期しちゃうと

 解除できないから“商品”として売り直せない。

 譲ることも出来ない一品物になっちゃう。

 だからその分希少なんだよ」


(今の俺には完全に早すぎる代物だな)


 遠い目をしていると、

 ロリドワーフがくすっと笑った。


「焦らなくていいさ。

 ちゃんと稼いで、ちゃんと腕を上げて、

 いつか“これが必要になった”って思えたとき、

 またおいで。きちんと財布を持ってね?」


 やっぱりこの店、やり手が二人揃ってるな。


 そんなことを考えていると、

 店の奥からアノンの声が響いた。


「このローブはどうじゃ!!」


 ……どうやら、あの『のじゃロリ』は

 セリアに似合う一着を見つけたらしい。


 ローブの詳細はまだ見えていないが、

 アノンのテンションと声量からして、

 相当“お気に入り”を見つけたのだろう。


(さて、どんなのを持ってくるやら)


 俺は短剣置き場から離れ、

 二人の方へと歩いていった。


 

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