0032.作戦会議
作戦会議とやらが始まった。
といっても、場所はじいさんちのちゃぶ台だ。
茶とクッキーと、やたら真面目な空気。
そこにのじゃロリが混ざる。カオスだな。
「まぁいいか。
まずは、それぞれの長所と短所を出そう。
カルドからいいか?」
「ああ」
カルドは椅子に背を預けたまま、
淡々と口を開いた。
「対グレイヴバードに限るなら、長所は一つ。
敵の攻撃の“直撃”を受けても、
まだ立っていられることだ」
視線が、自分の身につけた鎧と大剣に落ちる。
元Aランク重戦士装備。簡単には壊れない。
「じいさんの装備と、俺自身の耐久力がある。
真空波も翼の一撃も多少耐えられるだろう」
「短所は?」
「言うまでもなく、攻撃の“距離”だ」
カルドは、目だけをこちらに向けた。
「大剣投げは、使えて一度きり。
それに、中距離までは届くが、
高度を取られたらどうにもならない」
冷静な分析。実際、さっきの戦いでも、
あいつらが本気で上に逃げてたら、
一発も当たってなかった気がする。
「次は俺か」
全員の視線がこっちに向く。
いや、そんなに揃って見るな。
やりづらいだろ。
「長所は……空間把握だな」
自分で言うとちょっとむず痒い。
「敵の数、位置、高度、風向き。
あいつらの攻撃の軌道なら、全部“見えてる”」
実際、真空波がどこを通るかは、
かなり正確に分かった。
人の動きを誘導するくらいには余裕がある。
「攻撃面だと、近〜中距離でなら
石とか剣投げで結構やれる。
風の付与術を乗せられれば威力も伸びる」
「短所は?」
「前に出た状態で一撃もらったら、多分死ぬ」
さらっと言ったけど、事実だから仕方ない。
「次、セリア」
名前を呼ぶとセリアは肩をびくっと揺らした。
「え、えっと……私、ですか」
セリアは拳を膝の上で握りしめて少し俯いた。
「長所は……癒やしの術を使えること、です。
怪我をした人の生命力を少し高めて、
本来の何倍もの早さで傷の治りを早くする。
命の危機から引き戻せることもあります」
そこまでは、ちゃんと前を見て言っていた。
だけど──
「短所は……」
声が細くなる。
「今回もそうでしたが、
私は……戦いの時、何の役にも立てません。
守られるばかりで、何もしてないんです……」
その表情は、悔しさと情けなさで
ぐしゃっと歪んでいた。
「いや、そんなことは──」
思わず口を挟む。
慰めだって自覚はある。
だけど、本心でもある。
「セリアがいたから、俺の足はちゃんと戻った。
あそこで治ってなきゃこの場に俺はいねぇよ」
カルドも淡々と続ける。
「俺たちが無茶できるのは
お前が後ろにいるからだ」
セリアは、それでも首を横に振る。
「……それでも、戦いのときは
前に出て、頑張っている皆さんを
ただ後ろから眺めているだけなんです」
その気持ちは、分からなくもない。
だが、“足りない”ところばかり見えるのは、
真面目な奴の悪い癖だ。
(それも含めたのが短所だな)
そこで、横からひょこっと顔が出てきた。
「次は妾の番じゃな!!」
空気を変えるようにアノンが割って入る。
こいつ、もしかして空気読めるのか……?
俺より読めないと思ってたのに!!
「妾の長所は単純明快!
鳥どもを“一掃”できる火力があることじゃ!」
ドヤ顔。
さっき見せた爆炎を思い出す。
あれが全部直撃してたら、
マジで消し飛んでただろう。
「確かに、あれはやばかったな」
「ふんっ、当然であろう?
妾は紅蓮の大魔導師じゃからな!」
「で、短所は?」
聞いた瞬間、アノンの顔色がちょっと曇る。
「そ、それは……」
急にもじもじし始めた。
腕を組んで目を逸らし、
テーブルの木目を見つめる。
「貶すつもりじゃねぇよ」
俺は言葉を選びながら続ける。
「短所を出し合って、
それをカバーするのがパーティだろ?」
その一言に、アノンの耳がぴくっと動いた。
顔を上げると、ほんの少しだけだが、
嬉しそうな表情を浮かべる。
「ふふ! 妾のパーティにしては弱すぎるが……
仲間じゃもんな!!」
「はいはい。で、短所は?」
「た、短所というわけでもないのじゃがな!」
もじもじしてたが、
開き直ったかのようにアノンは言う。
「詠唱と、発動までの“溜め”が必要なのじゃ!
フハハ!」
「ちゃんとした短所じゃねーか」
カルドが小さく息を吐く。
「つまり、あの魔法を撃つ間、
お前は完全に無防備になるということだな」
「む、無防備などと言うな!
妾だって、多少は動きながら──」
「真空波飛び交う中でそれやったら、
真っ二つだろう」
「…………否定できぬ」
アノンはしょんぼりと肩を落とした。
俺はテーブルの上で指を組み、
頭の中でピースを並べ替える。
堅い前衛ひとり。
空間把握と中距離火力ひとり。
回復専門ひとり。
高火力広範囲魔法ひとり。
(現状、できるのは──)
「俺が前に出て、囮になる」
口に出してみる。
「カルドはアノンを守れ。
後ろで詠唱を通すのが、今回一番の仕事だ」
「俺が前に出るべきじゃないのか」
カルドが眉をひそめる。
「お前は守りに使った方がいい。
あの鳥……グレイヴバードの攻撃を
真正面から受け止められるの、お前だけだ」
グレイヴバードの近接は、まだ見ていない。
けど、じいさんの話を聞く限り、
前に立つ奴は鉄塊みたいな鎧じゃないと死ぬ。
「俺は、避けることに専念する。
空間把握で真空波の軌道を読む。
一人なら指示出さない分、集中もできるし
ついでに、奴らに石を投げながら
意識をなるべく俺に固定させる」
それだけで後衛のアノンは狙われにくくなる。
「アノンの魔法で一気に数を減らす。
もしそれでも残ったら、
その時はカルドと俺で叩き落とす」
「私は……」
セリアが不安そうにこちらを見る。
「セリアは、後ろで待機」
俺ははっきり言った。
「前に出るな。誰かが落ちてきたとき、
“戻せる可能性”があるのは、お前だけだ」
「……はい」
納得したわけではない顔。
それでも、ちゃんと頷いてくれた。
「カルドはいいか?」
「ああ」
カルドは短く答えた。
「それが“今できる最善”なら、俺は従う」
基本の作戦として、これ以上の案はない。
俺たちの手札は少ない。
その少ないカードを、効率よく切るしかない。
「幸い、この依頼は急ぎじゃない。だから──」
俺は全員の顔を順番に見た。
「五日後。もう一度、挑戦しよう」
それまでに、出来ることを増やす。
付け焼き刃でもいい。
風のエンチャントを得た時のように。
時と場合によっては、
急に手札が使えるものになる場合もある。
「五日の間、戦力増強に全振りだ」
カルドは新しい装備での動きに慣れる。
セリアは回復術の精度を上げる。
アノンは詠唱の最適化と、魔法の出力調整。
俺は、風と石と剣の練度を上げる。
「……いいかもしれません」
セリアが、小さく微笑んだ。
「ちゃんと準備して、もう一度挑めば……
誰も怪我をせずに勝てるかもしれません」
「ふんっ。当然じゃ」
アノンが胸を張る。
「五日もあれば妾の真価を見せるには十分じゃ。
今度こそあの鳥どもを焼き尽くしてやるわ!」
「焼き尽くしすぎるなよ。国立公園燃やしたら、
多分Eランクどころじゃなくなる」
「む……善処しよう」
善処って言葉は、
だいたい悪い意味で使われるんだが……。
そんなふうに話がまとまりかけたところで。
「おーい、お前たち」
じいさんが、のそのそと居間に顔を出した。
「そろそろ寝る時間じゃぞい。
若いからと言って、夜更かしばかりしとると
……背が伸びんぞ」
「なんで俺の方を見て言うんすか?」
「ホッホッホ」
ひどくね? 確かにカルドはデカくて
俺は人並みよりは小さいけどさ。
「……まぁいいか」
みんなでちゃぶ台の上のカップを
いそいそと片付けながら、ふう、と息を吐く。
「じゃあ、今日はここまでだな」
「そうね。明日から忙しくなりそうですし」
セリアはほっとしたように笑い、
カルドは黙って立ち上がる。
「ふん、短命種どもよ。
今のうちに休んでおくがよい。
五日後には、妾の華麗なる魔術に
目を焼かれることになるのじゃからな!」
「期待しとくわ、紅蓮のなんとかさん」
「“大魔導師”を省くな!!」
そんなやり取りを最後に、
俺たちはそれぞれの布団へ向かった。
ゴードンじいさんの家の天井は低く、
床は少し軋んで、隙間風も入る。
でも、今日の布団は不思議と温かかった。
(五日後か……)
目を閉じると、空を舞う巨大な影と、
真空波の軌跡が脳裏に浮かぶ。
それを一つずつ塗り替えるように、
石と剣と風の感覚を重ねて、
イメージを上書きしていく。
(今度は、勝つ)
各自、それぞれの思いを抱えながら。
俺たちは、静かな夜の中で。
明日に備えて眠りについた。




