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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第三章 火の国フレイナス

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0110.課題の提示



「と言ウ訳デ修行を始めルぞ」


 木人形が妙に優しい声で言いながら、

 俺の腕を引いて立たせてくれた。

 

 俺の喉元に丸鋸を突きつけてたやつと

 同一個体とは思えない。怖い。


「マァ、遠慮せズ座れ」


 木人形はそう言うと、地面に膝をつき、

 ――『OTL』の形になった。

 

 ……椅子、ってこと?

 いや、これ座るやつ?

 めっちゃ気まずいんだけど……。


 誰も何も喋らない。

 

 ズズズ、とリーゼロッテ、いや師匠が、

 紅茶を啜る音だけが、草原の静けさに染みる。


 俺はとりあえず座ってみた。

 うん、木の感触。割と悪くない。

 そして、何もされなかった。良かった。

 

 ゼノンさんやディアさんと違って、

 この人のスイッチがまるでわからない。

 何が地雷で、何が褒めポイントで、

 何が“次の一撃”になるのか読めない。


 すると木人形の“椅子”の方から声がした。


「オ前、統制者アドミニオンとノ戦いデ、

 循環ヲ重ねテ、倒れタだろウ?」


 椅子が喋る。脳がバグる。何この状況。

 だが、状況はさておき事実だ。


 俺は循環を重ねすぎて、

 頭痛と目と鼻から血を出して倒れた。

 思い出すだけで背中がぞわっとする。


「オ前の課題は単純明快。

 自分で出来ルようニなれ。

 そしテ、アレに慣レろ。以上ダ」


「えっ!?」


 確かに、あれがいつでも使えたら強い。

 世界がスローに見えて、構造が滲んで、

 核の“濃い場所”が分かった。

 

 でも代償がデカすぎる。反動がえげつない。

 一日以上倒れてたし、セリアが言うには

 目からも鼻からも血が流れてたって話だ。


「リズの人形繰り、見せタだろう?」


 木人形が続ける。


「人形の五感ヲ、リズは循環で自分に共有してル」


「あっ……」


 確かに。

 だからマッピングがあんなに早かった。

 ただ“すげぇ”で終わらせてたけど、

 そこにも法術が関わっている。循環が。


 木人形の声が少し得意げになる。


「ゼノンの受ケ売りダガ、

 全てノ現象は法術デ分析できル。

 要は使イ方次第。

 マっ、異世界スキルとカ例外モあるがナ」


 そして、紅茶を置く音がして、師匠本体が喋る。

 声が小さくて、でもはっきりしてる。

 言葉の一つ一つが“刃”みたいに整ってる。


「ほうじゅつは『かいしゃく』のじゅつ。

 たしょうは、こじつけでもなりたつの」


 法術は解釈の術。

 こじつけでもいい。

 

 ……それが“強さ”の本質だとしたら?


 俺はその言葉を何度も反芻した。

 師匠は何もさせない。怒鳴らない。殴らない。

 ただ、考えさせる。

 そして、その沈黙が一番きつい。


 “答えは出せ”じゃない。

 “答えを作れ”だ。


 俺は唾を飲み込み、

 痛む頭の奥に意識を向ける。

 

 循環を重ねたとき、何が起きた?

 

 体感速度が変わったのは、

 神経の処理が上がったから?

 

 情報が増えすぎて頭痛が起きたのは、

 整理が間に合わなかったから?


 俺の悩む姿を見ながら、

 師匠は紅茶を飲み、木人形は小躍りした。

 

 どうやら“今の沈黙”も、

 修行の一部らしい。

 俺は考えることをやめなかった。



 視点:俯瞰


 場所は、ヴェルとは違う草原。

 そこでは筋肉オネエと撲殺天使が戦っていた。


「んふぅ♡ まだまだ飛べるわよ♡

 もっと高めなさぁ〜い♡」


「はいっ!!」


 セリアは活性を自身に重ねて身体能力を上げ、

 保持で身体への異常を抑え、

 循環で脳の処理や反射神経を巡らせ、

 調和で崩れそうな法術のバランスを均す。

 四種の法術が重なり合い、セリアは舞う。


 ディアモンテの拳が飛ぶ。

 セリアは躱す。

 躱せなければ受け流す。

 受け止めるのではなく、流す。

 何度も、何度も、骨に刻む。


「い〜い? アナタが生き残りさえすれば、

 パーティの生存率は劇的に変わるわ♡

 でも、アナタは守られるだけじゃ嫌。

 だったら、戦える聖女を目指すのよ!」


「がんばりますっ!!」


 ディアモンテは心で呟いた。

 

(この子、本当に天才だわ♡)


 ついこの前までただの農家の娘だったセリア。

 

 今は四種の法術を重ねがけし、

 更に、魔法をかき消すほどの水の素養を持つ。

 そして、法術と異なる『祈り』の力。


(ゼノンちゃんの言ってたことは間違いないわ♡)


「ほらほら、まだ行くわよ〜♡」


「はいっ!」


 力と力。技術の継承。

 

 セリアの武闘術もまた、

 メキメキと上達を始めていた。



 視点:俯瞰


 一方、セリアやヴェルよりさらに遠く。

 植物の少ないキロロ山の近くで。


 ゴードンを背負ったカルドがいた。


「じいさん、車椅子を置いて来て、

 本当に良かったのか?」


「ホッホッホ! 構わんぞい。

 歩くのはまだ難儀じゃが、

 実は最近少しなら立てるようになっての。

 リハビリを頑張っておるのじゃ」


 カルドは松葉杖も持っている。

 だからこそ“おんぶ”でと言われ、従った。


「で、どこまで行けばいい?」


「まぁ、この辺で良かろうの。

 下ろしてくれんかの?」


 ゴードンはよっこらしょ、と降り、

 松葉杖を受け取ってカルドと相対した。


「さて、カルドや。

 お主の課題は……大地を喰らうことじゃ」


「大地を……喰らう?」


「左様。ホッホッホ!」


 カルドは考えた。

 ……が、考えるのは得意じゃない。

 わからないので聞いた。


「具体的にはどうしたらいい?」


「ホッホッホ! お前さんはジュラそっくりじゃ」


 ゴードンが愉快そうに笑う。

 カルドも少し笑う。

 似てると言われるのは、悪くない。


「お前さんの……不動明王じゃったか?

 アレはワシがジュラに教えた技じゃ」


「じいさんが?」


「あぁ、そうとも。……とは言え、

 お前さんが使う中途半端なものとは違うがの」


 ゴードンが意地悪な視線を向ける。

 カルドは一瞬、眉をひそめた。


「わかりやすい奴じゃのぅ。

 どれ、本物を今見せてやろうぞ」


 刹那、空気が変わった。

 音が変わった。

 

 空間把握のないカルドでも、

 如実に分かるほどの“圧”が立ち上がる。


「ワシを押してみよ、カルド」


「いや、だがじいさんは……」


「……わからんか?

 お前さん如きじゃ倒せぬから言っておる」


 言葉が圧になる。

 いつもの朗らかなゴードンから、

 今までのどの敵よりも鋭い気配が漏れる。


「……本気で行くぞ」


「無論じゃ」


 カルドは息を吸い、技を放つ。

 相手をじいさんと思うのはやめた。

 敵として、倒すつもりで。


「不動明王・つどい


 ガチィン!! と音が響く。


 だが、動いたのはカルドの方だった。

 押し出した力で、自身が押し出されたのだ。


「……大地喰らいは大地を殺す。

 食い殺してしまう技じゃ。

 イノシシ相手に使ってしまったらのぅ。

 畑が実らなくなる。喰らい尽くす」


 ゴードンは厳しい目のまま続ける。


「これが『大地喰らい』。

 お前さんのごっこ遊びがわかったかの?」


 カルドの喉が鳴る。

 

 ゴードンは松葉杖をついたまま、

 カルドの胸に手を当てた。


 ──ドゴォン!!!


 吹き飛ぶカルド。

 瞬時に不動明王・かまえを使ってもなお、

 身体への衝撃が抑えられない。


「お前さんにこの技をくれてやる。

 やれ。出来なければ……死ぬだけじゃ」


 ──カルドの修行は始まった。



 視点:俯瞰


 そしてアノン。

 クロムから少し離れた荒野。


「ふむ。で、貴様が妾に何を教えると言うのじゃ」


 不遜な態度でガレスに相対するアノン。

 ガレスはやれやれと頭を掻き、言葉を紡ぐ。


「いや、嬢ちゃん悩んでるらしいじゃないか。

 魔術は連発するには燃費が悪いし、

 機会も限られてしまうから、

 毎回、大技を一回しか撃ってないってな」


「ぬっ! 父上に聞いたのか!」


 アノンの一番の悩み。

 グレイヴバード戦、ゼノン戦、統制者戦。

 アノンは魔術を“一回”しか撃っていない。


 誰も責めない。だが、アノンは自分を責める。

 

 自由の風が大好きだからこそ、

 胸を張って並びたい。


「……貴様がその答えを持っておるのか?」


 問いに、ガレスはふざけた顔を捨て、

 本気の顔で、真剣な瞳で返す。


「あぁ。ゼノンの旦那が言うにはな、

 嬢ちゃんは潜在的に火に偏っている。

 その上で、旦那ほどのマナの器があるってな」


「父上と同じほど……?」


 アノンは息を呑む。自覚はない。

 だが父上の言葉なら信じる。


「何をすればいいのじゃ。簡潔に言え」


 はやる気持ちを隠せないアノンに、

 ガレスがニヤリと笑う。


「今から教える戦い方の源流はな……」


 ガレスは右手に炎、左手に氷を纏う。

 火と氷が同居する異様な光景。


「火の英傑 魔王フラムにある」


 右手を軽く振るだけで、火の波がうねった。


「嬢ちゃんに教えるのはそんな技だ。

 魔闘術クロスアーツ。これが嬢ちゃんの課題だ」



 

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